【後編】入社5年目社員の本音「すべての懸念を払拭し、次の手を打つのが私の仕事です」キリンビール・京谷侑香さん(2017.12.24)

■あなたの知らない若手社員のホンネ
~キリンビール・京谷侑香さん(27才、入社5年目)~

前編はこちら

「20代の部下との良好なコミュニケーション」中間管理職に取って必須の課題だ。20代の社員はどんなマインドを秘めているのか。また若い世代にとっても、同世代がどのような仕事をしているのか、興味のあるところだ。そこで入社3~5年の社員の話にじっくりと耳を傾け、本音に迫るのがこの企画である。

第6回目はキリンビール株式会社、マーケティング本部マーケティング部 ビール類カテゴリー戦略担当 新ジャンルチーム ブランドリーダー 京谷侑香さん(27才)入社5年目。バイヤーの間を走り回る営業職、入社1年目の売上げ目標を達成。2年目は自分の力を過信したのか、行き違いから取引相手が大量の在庫を抱えてしまい、先方の社長が立腹。多くの人に迷惑をかけたことに気が収まらず、少しでも在庫を減らそうと先方の会社の店舗から20ケース以上、自腹で缶ビールを購入。部屋にビールの壁ができた。

●失敗した……

私はずっと営業をやっていくと思っていたんです。ところが昨年の秋に内示を受けまして。マーケティング部の商品開発研究所に異動と。何をするところがわからず、京都の支社から東京の本社に転勤になり、部署に初出勤した次の日に会議があって。

「ネーミング、ブレストだよ」

「えっ?」

「コンセプトやネーミングをブレインストーミングするんだ」

「ええっ?」

「想像力を膨らませるように」

「ええっ!?」

先輩が何を言っているのか、さっぱりわからない。転職したみたいな感じでした。

仕事は「のどごし」シリーズの中の新製品、『のどごし スペシャルタイム』の商品開発。先輩やリーダーとのやり取りは、こんな感じでした。

「“のどごし生”が発売された13年前は、経済も今より盛り上がっていて、みんなでカンパーイみたいな元気なイメージで売ったけど、今は派手にお金を使ったりして元気になる時代ではないな」

「日常的にていねいな生き方みたいなイメージが支持される時代で」

「それを“のどごし”で伝えられないかな」

「家のテーブルのランチョンマットの上の冷えたグラス、大切の人と静かに乾杯するグラスの音、そんな日々のちょっと上質な幸せが、感じられるようなビール……」

商品のブランドイメージを決めて、数百人のモニターの人たちの試飲やパッケージの印象を調査して、ブラッシュアップしていく。味覚は技術系の人たちと連携を取り、パッケージのデザインについては今回、100案以上の中から選択をしました。「のどごし スペシャルタイム」の発売は今年の4月。でも…

「失敗した……」

そんな思いが脳裏をよぎったのは、このビールの発売当日、自分の手で店舗に陳列した時でした。会議室で模擬陳列棚を作って視覚のテストはしましたが、実際の売り場に並んでいる商品はとにかく多い。季節限定ビールだけでも毎週のように各メーカーが発売するほどで、チューハイに流れるお客さんもいる。デザインの完成度も意識しなければいけないのでしょうけど、多くの商品の中で、お客さんがビールを選ぶシーンは3秒ぐらい、いや1秒かもしれない。その瞬間の中で、このビールが目に留まらないと購入の選択肢に上がらない。

このビールは、もっと強くないと生き残っていけない。もっと売り場での声を大きくしたほうがいい。存在感を高めなければ……。

●赤いリボンのインパクト

私はそのことに、もっと早く気付くべきだったんです。直近まで営業として店舗を回り、お客さんとも接していたのですから、そこに立ち返れば、「お客さん、本当はこう思っているのではないか」と、気付くことはたくさんあったはずなんです。

会議では上も下もない、どんな意見でも受け入れてくれてくれるのが、この会社の社風です。納得いかないことに関しては色々と意見を言う私ですが、マーケティング部に異動になり、このセクションの仕事に慣れるのに必死で。思ったことをはっきりと発言できずにいたことにこの時、気付いたんです。

「インパクトがありません」「確かにそうかもしれない」発売日に、先輩とそんな話をした。

このブランドの売り上げを伸ばしていくために、すべての懸念を払拭し、次の手を打つのが私の仕事です。

「パッケージのリニューアルをさせてください。もっとわかりやすく変えたいです」リーダーに私が気付いたことを伝えて、そう提案しました。「わかった、やろう、すぐに取り掛かっていいよ」リーダーの承諾を得ました。

苦味を抑えて飲みやすく、麦のうまみを感じられる、私たちが伝えたい幸せを感じる味。上質な暮らしを満たしてくれるビール。そんなイメージをより強く印象付けるために、パッケージの金色を濃くして。“スペシャルタイム”の英語の表記をバーンと大きくして。

「赤を入れましょうよ、目立つから」という私の提案で、「麦100%」の表示に赤いリボンを施しました。

デザインをリニューアルした「麦100%の“のどごし スペシャルタイム”」の発売は今年9月。すでに今年、3000万ケース以上売り上げている主力の「のどごし<生>」と比べると売上げは一桁違いますが、これからのブランドですよ。

その後は「糖質ゼロ、プリン体ゼロ、人工甘味料ゼロの“のどごし ZERO”」と、「冬限定の“のどごし 華泡(はなあわ)”」の商品開発に携わりましたが、マーケティング部の仕事の中で、上司に言われた言葉は印象深かったです。

「お客さんの毎日の生活をほんの少しよくできる方法は何か、お客さんの生活の中にずっとあり続けるブランドを作ってほしい」

 

お酒の背景にある文化のようなものに、関わり合いたい、それがこの会社を選んだ大きな理由でした。多くの方に飲んでいただけるものに携われて、ほんの少し、日常の生活を良くすることができるかも知れないと、そんな可能性を今、感じ始めています。

取材・文/根岸康雄