【前編】入社5年目社員の本音「部屋にビールの壁ができました」キリンビール・京谷侑香さん(2017.12.23)

■あなたの知らない若手社員のホンネ
~キリンビール・京谷侑香さん(27才、入社5年目)~

「20代の部下とコミュニケーションは上手くいっているのか、イマイチ自信がない」そんな管理職は多いはずだ。20代の社員はどんなマインドを秘めているのか。また若い世代にとっても、同世代がどのような仕事をしているのか、興味のあるところだ。そこで入社3~5年の社員の話にじっくりと耳を傾け、彼らの本音に迫るのがこの企画である。

第6回目はキリンビール株式会社、マーケティング本部マーケティング部 ビール類カテゴリー戦略担当 新ジャンルチーム ブランドリーダー 京谷侑香さん(27才)入社5年目だ。

●「偶然ですねぇ」

入社試験では「私、死ぬほどお酒が好きなんです」という話をしましたね。スコッチやラム、テキーラから見えてくる世界。ビールは国によって味が異なるし、お酒の背景にある文化みたいなものに、関われたらという話もしたと思います。

福岡のビール工場等での5ヶ月の研修の後、京都にある京滋支社に配属され、店舗周りの仕事と量販店の営業に携わりました。振り返ると配属された当初は学生気分でしたね。量販店の店長さんや担当者さんと、コミュニケーションを重ね売り上げを作る仕事ですが、「商品の案内をしましたが、いらないと言われました」会社に戻ってそんな報告をした。

「あのさ、仕事って結果を残すことだから。狙った結果が得られるように、意識を変えていかないとね」

リーダーにやんわりと諭されまして。仕事って、まずやることが与えられていて、それを実現することなんだ。商談の相手にどう思われるかという気持ちを乗り越え、相手がどう動くかということも考えて、与えられた目標をクリアし結果を出す。当たり前のことなんですが、それが仕事だと自覚をしまして。

京滋支店に配属された年の暮れのことです。

「京谷さん、年間の目標の達成はちょっときついよね。でもまぁ、よく頑張ったよ」と、12月初めの部長面談の時に言われまして、

「やります、絶対に年間の目標を達成します!」と、部長にいい切ったんです。営業として、与えられた目標をクリアできないのは良くないと、私は思い込んでいて。絶対に達成したかった。部長に宣言した日から走り回りました。

年末は量販店のバイヤーさんも店舗を手伝ったり、忙しくて時間を取ってもらえない。バイヤーさんがどこの店に手伝いに行っているかを、店舗で仲良くなった人から聞いて、車の横で待ち伏せして。

「あれ、偶然ですねぇ」とか、笑顔で声をかけて商談に持ち込む。「私、この店もあの店も巡回して、ポップを付けたり売り場のメンテナンスや商品の補充もしますから、年末に欠品防止が出ないよう、商品の追加発注をお願いできませんか」

そんな感じで、年末ギリギリまでバイヤーさんたちの間を走り回った。「またおるやん(笑)」「もう顔見るの嫌や、早く実家に帰れや(笑)」とか言われても、「お願いしますよ」と、頼み込んで。どこのお店に何ケース入ったか、問屋さんには毎日電話で問い合わせて。

私のような新人を渋い顔をしながらも、受け止めてくれるバイヤーさんたちがいて、ラッキーでした。結果的に私の年間の売上目標を達成できました。居酒屋でビールの大ジョッキを片手に、よく口論をする厳しい先輩に、この時ばかりは「頑張りましたね」と、声をかけられたのを覚えています。

●ビールケースの壁

営業2年目には、自分の力を過信していたなという出来事に遭遇しました。

先方の量販店で人事異動があり、新しいバイヤーさんに代わった。前のバイヤーさんとはしっかりと打ち合わせができていたんです。新しいバイヤーさんはお酒の担当が初めてで、綿密な打ち合わせができずに行き違いが生じ、先方は在庫を大量に抱えることになってしまったんです。それが先方の会社の在庫管理を見直す時期と重なり、社長さんがうちの商品の在庫の多さに激怒してしまった。

「今日から3ヶ月間、商談はできませんから」と、バイヤーさんに告げられまして。支社長や部長が往復数時間かけて、社長さんに謝りに行ってくれたり。「これからもよろしくお願いします」と、商談ができるようになるまで、いろんな人に奔走していただきました。

責任を感じましたね。私、自分の気持ちが収まらなくて。その会社の在庫を少しでも減らそうと、先方のお店から缶ビール24本入りのケースを20個以上、購入した。もちろん自腹で、部屋にビールの壁ができました。

「お前らしいな」みたいなことを部長に言われた。「俺も買うぞ」と、大量のビールの一部を買ってもらいました。会社の飲み会では1次会から3次会まで、ずっとビールを飲んでいる私でも、いささか量が多すぎた。親類にビールをプレゼントしました。

年の瀬やお盆の繁忙期は、お世話になっている店舗に応援に行きます。「いらっしゃい」と接客をして、私が担当していたお店は倉庫が2階にあって、ビールケースを肩で担いで死ぬほど階段を往復して。でも、出されたお弁当が美味しかったんですよ。「あっ、お寿司!」「わーい、うなぎだ!」とか、けっこう楽しかった。私はこのままずっと営業をやっていくんだろうなと思っていたんです。

ところが――

昨年の秋の配転は、京谷侑香さんにとって全く予期せぬものだった。本社のマーケッティング本部マーケティング部への異動……。いったいどんな仕事が彼女を待っていたのか。波乱万丈の物語は後編で。

取材・文/根岸康雄