【前編】入社4年目社員の本音「自分の感性を信じてやってみる」ライオン・三田直輝さん(2018.01.21)

■あなたの知らない若手社員のホンネ
~ライオン・三田直輝さん(28才、入社4年目)~

「20代の部下との良好なコミュニケーション」中間管理職に取って必須の課題だ。20代の社員はどんなマインドを秘めているのか。また若い世代にとっても、同世代がどのような仕事をしているのか、興味のあるところだ。そこで入社3~5年の社員の話にじっくりと耳を傾け、本音に迫るのがこの企画である。

第7回目はライオン株式会社 研究開発本部 ビューティーケア研究所 三田直輝さん(28才)入社4年目だ。

■脳を研究+臭覚=新製品

大学院では分子脳神経科学を専攻していまして。脳の中ではたらくタンパク質の挙動を解析する研究で、脳に関わる病気の改善を目指していましたが、僕がやっていたのは基礎研究で、アルツハイマーやパーキンソン病等に生かされるまで道は遠い。自分の研究が目で見てわかるものに活かせたらと、日用品に興味を持ったんです。

「商品購買や商品認知に、無意識化で働きかけるものとして、臭覚は重要だと思います。脳を研究してきた知識を活かして、香りと脳の繋がりを生かした製品を開発してみたい」入社の時には、そんな話をしました。

3ヶ月の研修後、香料技術研究所に配属になりさらに1年間、ハミガキの香りや洗剤や柔軟剤の勉強をして、ハミガキのフレーバーチームの一員になりました。この部所はハミガキの香味を作る。数十種の原料のブレンド方法やブレンドの量を調整して配合し、一つの香りに仕上げていくのが仕事です。

最初に取り組んだのは、弊社の代表的な商品の一つ「クリニカブランド」。うちのミントに関する技術は、ハッカと呼ばれていた創業の明治時代から積み重ねたものがあります。毎年、担当部所の先輩がアメリカに生ミントを買い付けに行くのですが、原料のコストが上がっても、価格は同じですから一部に代替の原料を使い、同等の香味の製品を作る必要があります。ミントに柑橘系の香料の配合と調整を繰り返しました。

そして、次の仕事が新製品『NONIO』の開発でした。開発にあたって社内では、こんなやり取りがあったのでしょう。

「今の若い人は口臭がないのに、口臭があるじゃないかと不安を感じている人が多いという調査結果がある」「常に口臭の不安がつきまとっている若い人が多いというわけか」「若者層が気にしているのは、歯周病より口臭じゃないか」

「口臭の予防に狙いを定めた、20〜30代の向けの大型商品はこれまでなかった。良い商品になるぞ」

なぜ、若い人たちの多くが口臭を気にするのか。僕の想像ですが、人と触れ合う時にそのどう思われるか、そのことに過敏になっているのではないでしょうか。

●ちょっとした意見の衝突。

「自分の感性を信じてやってみろ」

この言葉は『NONIO』開発の時に香料研究所の所長に言われたことでした。その言葉が僕の背中を押したといいますか。ターゲットの年齢と近い20〜30代の僕を含め、4人のチームで香味の開発がスタートしました。新製品は3種類。それは企画の部所からの要請でもありました。より大きなパイを取るには、どんなコンセプトで3つに分けるか。

対象を思い描くことで、製品のイメージが鮮明になってきます。そこでターゲットを女性に絞り、データや参考資料を示して議論を重ね、3通りに分けてみました。

製品のターゲットを象徴するパッケージカラーの決定は開発の過程で決まりましたが、ブルーで表すクールな女性、グリーンはアクティブでプライベートも充実した女性。そしてピンクは可愛らしい感じの女性。さて、それぞれ好まれる香料は何か。香味を決める過程も簡単ではありませんでしたが、

「クールなキリッとした女性が好むのは、甘さを抑えた感じのミントとハーブだな」「アクティブで元気な女性ははじける感じの柑橘系、シトラスだよ」「可愛らしい感じの女性の香味はフルーティーでしょう」と。

僕の担当はピンクに象徴される、可愛らしいピチピチ、キャピキャピした感じの女性が好むフルーツの味のハミガキでした。フルーツの香味といっても、一筋縄では行きません。主体のミントにフルーツの甘い香りを乗せていくのですが、今の20〜30代の特に女性に好まれるのはどんな甘さなのか。

毎年のフルーツのトレンドや、男女が好む味の研究をしている香味会社に出向き、インタビューをして。過去には甘さの強いメロンとかマンゴー等が好まれたが、今はパイナップルやラ・フランス等の洋梨類とか、ライトな甘さが求められていると。香味を試作して消費者へのアンケート調査と、自分の感覚でブラッシュアップしていく。

実はその過程の中で、30代前半のチームリーダーと、意見の衝突がありました。上司に報告するタイミングがあって、例えば味を決めていく時のコンセプトにも、論理的な組み立てが必要で。そのフルーツを選んだ理由とか、その配合とか、これまでチームで話し合ってきたことを上司に説明しなければならない。ところがリーダーは上司への説明を、勝手に進めてしまった。

「上司への経過報告の内容を知りたかったです。僕らと話し合い、アグリーを得ることをせず報告をしたことに、疑問を感じています。自分たちも参加させてほしかった」みたいなことを、僕はリーダーにはっきりと言いました。リーダーもチームとして、報告内容の合意が取れてないことはわかっていたのですが、時間がなくて僕らのアグリーを得る前に、上司に報告してしまっていた。

「ごめん、これからは報告の前にチームで話し合い、アグリーを得てから上に報告をするよ」と、真摯な態度でチーム全体に語ってくれました。

言うまでもないですが、僕は何もチームの輪を乱そうとか、横車を押すとかいう気持ちはありません。『NONIO』開発の話から逸れますが、例えば新たな価値を見つけるグループワークに参加した時も――

自分が信じる製品開発に突き進む三田さんと、彼のやり方を尊重する上司や先輩。佳境を迎えていく口臭を予防するハミガキ、『NONIO』の開発でも、彼は“自分の流儀”を踏襲していく。

取材・文/根岸康雄