あなたの知らない若手社員のホンネ~マクロミル/浜田裕太さん(27才、入社5年目)~
中間管理職にとって20代の部下の仕事へのマインドを理解することは、良好な人間関係につながる。そうは言っても今回紹介する会社のように転職者の多い企業もある。「今の部署で入社した当時にいた人は一人もいません。半分は異動、半部は転職。次の会社も頑張ってねって感じです」(浜田裕太さん)。転職が頭をよぎる人にとって、今回は参考になるかもしれない。
第21回目はマーケティングリサーチ事業を展開する株式会社マクロミル リサーチプロダクト本部 ビジネスアナリティクス部 アナリティクスユニット 浜田裕太さん(27才)入社5年目。
■入社した当時はエクセルどころかパソコンすら使えなかった
もともとは教員志望だったんですが、教育実習などを通じて教員の世界は狭いと感じました。福岡の大学を卒業後、社会人として広い業界と取引のある会社に行こうと考え、この会社に入社したんです。うちの会社は簡単に言うと、マーケティングリサーチの会社です。メーカー等の事業会社から調べてほしい、なぜだか知りたいという内容の相談を受け、その相談内容に沿った形でアンケートを作成し、自社のモニターの人たちに配信、上がってきたアンケート結果をまとめ、分析を施してクライアントさんに報告します。
僕の部署はベーシックなアンケートとは別に、主に購買データを扱っています。購買データというのは約3万人の自社のモニターにバーコードリーダーを渡し、日々購入する商品のバーコードをスキャンしてもらう。それにより日常的に購入するもののデータが落ちてくるので、それを元にメーカーから依頼があった時、売り上げ行動のデータを分析する。ちなみに日本で購買データを持っている会社は、うちの会社以外にはもう一社だけです。
例えば、製菓メーカーからこのチョコレートの売り上げが減少している、その原因を分析してほしいという案件を受注したとします。モニターの人たちの買っているものがわかる購買データは“事実データ”です。1個100円のチョコレートがどの店でいつ、どのくらい売れたのか。エクセルとちょっとしたツールを使えば、“事実データ”を集計して報告書は作成できます。しかし、それをそのままクライアントさんに渡すことはできない。
報告書には、どうすればチョコレートの売り上げ増につながるのか、クライアントさんの施策に結びつく分析の数字を明記しなければ、意味がありません。データ作りには集計と分析の2段階がある。そこがこの仕事の難しさであり、醍醐味でもあるのです。
入社してまず、集計のやり方を覚えましたが、入社当時の僕は実を言うと、エクセルもパソコンすら使えなかったんです。また、トレーナー役についた2、3才年上の先輩が言葉数の少ない人で、意思の疎通が取りにくいこともありました。
当初、担当した仕事はコーヒーメーカーのブランドのデータ分析で、今の僕なら2時間ぐらいで仕上がる簡単な案件だったのですが、当時はどうにも仕事が進まない。
「ブランドの売上げの数値のデータを作りたいんですけど、マニュアルを読んだんですがわかりません」
「マニュアルを読んでわからないんだったら、自分で考えるんだよ」
「そう言われても……、どうしたらいいんですか」
「知らないよ、そのくらい自分で考えろって」
「自分で考えろって、どういう意味ですか」
そんな険悪な雰囲気のやり取りが数日続いて。正直、会社を辞めようかという思いが頭を過ぎりましたね。同じ部署の仲間も最初の会社を辞めるのは、浜田に違いないと思っていたと後で言われました。でもね、自分でいうのもヘンですが、僕は見た目明るく、とっつきやすそうに見えますが、実は頑固で人一倍負けず嫌いなんです。
「自分で考えろ!」と言われて、悔しかった。そこで、エクセルを少しずつ勉強して、何とか自分で「ピポットテーブル」を組みました。「ピポットテーブル」は面倒な数式や特別な関数を使わなくても、マウス操作だけで簡単に大量のデータを集計したり、分析したりできる機能です。ブランドごとにデータの数字を積み上げるように、コピー、貼り付けを繰り返してブランドごとの数値のデータを表示し、わかりやすく見せる方法を工夫したんです。
「自分で考えました。こういうやり方でいいですか」先輩に聞くと、「その方法だと効率が悪い。その形のデータの表示と同じことができるツールがあるんだよ」と。初めて先輩から具体的な答えが返ってきた。
そのやり方がいいかどうかは別にして、自分で考えて作業をしなければ、身につかないと先輩は意図していたんですね。それからは自分で考え、具体的な質問をするようになりました。
■データの数字だけを見るな、もっと広く全体を見ろ
「クライアント様がどう使うのかを考えて、データを集計しないと意味はないよ」これも、トレーナー役の先輩から教えられたことの一つです。
「どういうことですか?」
「例えばこのコーヒーメーカーのこのブランドは、高級路線に走った。そのためにリピーターは低価格のブランドに流れた。だから売上げが減った。データの数字からはっきりそう読み取ることができれば、次の施策を考える要素になる。僕らはそこまで先方のことを考えて報告しないと意味がないんだよ」と。
当時はそんな先輩の言葉を、表面的にしか理解していませんでした。
近視眼的にデータの数字だけを見るな、もっと広く全体を見ろと。大切なのはそこで。それは消臭剤の案件の時も思い知らされました。何の消臭剤をどこで買ったかは、約3万人のモニターから毎日送られてくる購買データでわかる。でも、“なんで買ったのか”という部分は、アンケートを分析する必要があります。この案件は購買データと、モニターのアンケート結果を掛け合わせ分析する仕事でした。
マニュアルに沿って二つのデータを集計する作業を進めていたのですが、「これはちょっと、効率が悪いじゃないか」と、先輩に指摘されました。マニュアルに沿って集計したのですが、クライアントさんが施策をイメージできるような報告書にするためには、コツがあるというんですよ。
数字に基づいた奥深いマーケティングの分析に仕上げるには、どんな要素が必要なのか、そのコツは後半で。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama