【後編】入社5年目社員の本音「数字だけ見ていてはいけない」マクロミル浜田裕太さん(2018.05.08)

あなたの知らない若手社員のホンネ~マクロミル/浜田裕太さん(27才、入社5年目)~

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中間管理職にとって、20代の部下とコミュニケーションするうえで、彼らの仕事へのマインドを理解することは必須事項だ。とは言うものの今回の会社は、「今の部署で入社した当時にいた人は一人もいません。半分は異動、後の半部は転職。次の会社も頑張ってねーって感じで」(浜田裕太さん)、転職が頭をよぎるキミにとっては参考になるのかも。

第21回目はマーケティングリサーチ事業を展開する株式会社マクロミル リサーチプロダクト本部 ビジネスアナリティクス部 アナリティクスユニット 浜田裕太さん(27才)入社5年目。

彼の部署では、主に購買データを扱う。購買データとは約3万人の自社のモニターにバーコードリーダーを渡し、モニターは日々購入する商品のバーコードをスキャン。落ちてくる商品データを元に、メーカーからの依頼に応じて、売り上げ行動のデータを分析する。

入社当時はエクセルもパソコンも使えなかったという浜田さんだが、トレーナー役の言葉の少ない先輩と時にギクシャクしながらも、集計と分析の技術を身につけていく。

■一見、いらないデータにも目を向ける

近視眼的にデータの数字だけを見るな、もっと広く全体を見ろ、クライアント様が施策をイメージできるようなデータを設計しろ。それは正直、あまりソリが合わなかったですがトレーナー役の先輩に教えられたことでした。

例えば消臭剤の案件の時。3万人分のモニターに基づく購買データで、何の消臭剤をどこで買ったかがわかります。でも、なぜその消臭剤を買ったのかというアンケートで得た意識データを加えなければ、報告書は完成しません。購買データと意識データを掛け合わせるためのソフトを使い、集計を進めたのですが。あるブランドに関して、購入者の臭いの意識を見るための集計方法が、わからなくなってしまった。

そこで、「ここまで出来たんですが」と、先輩に相談したんです。すると先輩は「これはちょっと、効率が悪いよ」と。「いらないデータも、とりあえずひも付けておくんだよ」と、先輩は言うんです。アンケートで得た意識データの中には、臭い以外にも、例えば“好きな食べ物”といったデータも含まれている。そんな一見、必要ないと思われるものも関連データとして記載しろと。

「なんでそんなデータが必要なんですか」という僕の質問に、先輩はこう答えました。

アンケートの消臭の中には、汗の臭いを消したいのか、焼肉等の食事をした後の食べ物の臭いを消したいのか、択一させる設問がある。

「もし“食べ物の臭いを消したい”というスコアが高かったら、クライアントは食べ物のデータを見たくなるだろう。このブランドを使っている消費者は、食べ物に対する意識が高い。この人たちの好む食べ物は何だと」

先輩が教えてくれたのは、データを設計する時の一つのコツでした。クライアントの要求に対して必要なデータだけに絞り込むと、報告書を受け取っても、深絞りができなくなる。一見、必要ないデータでもひも付けておくと、一つのデータを読んだ後、これも知りたいと思ったものを見ることができる。お客様が深絞りできる要素に繋がっていくと。

■数字だけを見てはいけない

数字はモノを言いますが、数字を作る前段階の経験や知識や情報が、より大切だということも、徐々にわかってきました。例えば野菜ジュースの購買減少の理由を分析する案件の時のことです。野菜ジュースを売上げが減少し、どこか別のカテゴリーが伸びていたら、伸びた方に消費者が移ったに決まっていると。そのカテゴリーがわかれば、減少を食い止める施策も打てるに違いない。そこでヨーグルト、牛乳、コーヒー等々、手当たり次第にデータを調べ、直近で伸びているカテゴリーをあぶり出していったんです。

集計データを見ると、どうやらコーヒー牛乳が伸びている。野菜ジュースの購入者はコーヒー牛乳に流れていると、仮説を立てることができる。

「浜田さん、それって本気?」

この仮説を言葉にすると、お客様に不思議そうな顔をされました。冷静に考えれば野菜ジュースを買う人は、コーヒー牛乳を買うわけがない。野菜ジュースとコーヒー牛乳を比べても意味がないんです。

野菜ジュースは健康志向の高い人が買うモノで、例えばヨーグルトや豆乳、トマトジュース、野菜ジュースでも果物が入っていない野菜だけのモノとか。健康系のカテゴリーを細かく見てデータを集計し、分析をしなければ売上げが減少した原因も、それに対する施策も立てられません。

その方向で集計データを設計し、クライアントが望むような報告書を提出したのですが。そもそも野菜ジュースとは何かという、根本的な知識が欠如していたんです。もう一つ、データの集計だけに目が行くと、野菜ジュースとコーヒー牛乳を、一緒のカテゴリーにしてしまうような、常識ではありえない判断をしてしまう恐れがあると。我が身に言い聞かせましたね。

「野菜ジュースを買っている人が、どういうカテゴリーをよく買うのか。広い視野でデータを見れば、細かい分析がもっとクライアントの施策に、繋がるものになったかもしれないね」と、言葉をかけてもらったのは、トレーナー役とは別の先輩でした。

今は社内でエクセルやパワーポイントの講師を務め、チームリーダーとして後輩に教える立場にいます。後輩には自分で気づいてもらいたいのですが、僕の時のトレーナー役の先輩のように「マニュアルを読んでもわからないなら、自分で考えろよ」みたいな言い方はしたくない。

「なんでこのデータが必要だと思う?」「特徴を見ることができるデータはどうしたら作れると思う?」「この商品の特徴がわかるとそこから何がわかって、どんな仮説が立てられる?」「その仮説は何に役立たせることができる?」「それらを元に、この商品の売り上げを伸ばすためには、どんな施策を打てばいい?」そんな感じで、後輩に答えを引き出す質問を考えます。

うちの会社は転職する人も多いのですが、調査業界から移る場合、メーカーのマーケティングの部署に転職というケースが目立ちます。すると、転職した先の会社から案件の依頼を受注できて、うちとしても嬉しい。

僕も転職を考えないこともないですよ。実は教師になる目標は今も抱いています。将来的に教師になった暁には、生徒に的確なアンケートをして、それを集計しデータを集め、生徒たちに今何が足りないのか、確実に把握をしますね。

取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama