【痛風・前編】あの激痛は“性格病”だった!?仕事も遊びも一生懸命という人こそ「痛風」に注意すべき理由

不定期連載「ビジネスパーソンに忍び寄る身近な病たち、働き盛り世代が知っておくべき健康寿命を延ばす術とは」シリーズ。ビジネスパーソンにとって身近な病気を詳しく解説していく。コロナ禍で神経をすり減らしている時世に、他の病気の心配はしたくない。そこで、知っているようで知らない生活習慣病をはじめ、身近な病気に対してしっかり理論武装をして、新型コロナウィルスに立ち向かおうというわけである。

今回詳しく解説するのは痛風である。痛風は「痛風発作」という関節炎が主症状の疾患だ。発作はある日突然、訪れる。かくいう私も40代半ばに、洗礼を受けた一人である。友人と痛飲した翌日の朝だった。普段は二日酔いの頭を振りベッドから起き上がるのだが、この日は右の親指の付け根の違和感で目が覚めた。違和感は痛みとなってみるみる増幅。

な、なんだ、これは!? あの痛みたるや、なんと表現しようか。万力でグッーと、足の親指の付け根を締め付けられる感じ…。立ってさえいられない。これまでの人生で経験したことのない強烈な痛みは、まさに“病気の中の病気”とさえ、実感させられた。

そんな私の話にうなずくのは、山王メディカルセンター院長で、リウマチ・痛風・膠原病センター長の山中 寿先生だ。先生の専門分野は痛風と関節リウマチである。

山王メディカルセンター院長、山王メディカルセンターリウマチ・痛風・膠原病センター長、国際医療福祉大学 医学部教授、東京女子医科大学 客員教授
山中 寿(やまなか ひさし)
1980年三重大学医学部卒業。1983年東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター助手。1985年米国スクリプス・クリニック研究所研究員。2003年東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター教授、2008年より同センター所長。2019年5月より山王メディカルセンター着任、2020年5月より現職。2012年度の日本リウマチ学会学会賞を受賞。

尿酸はプリン体の老廃物、身体には必要な物質

――痛風発作に尿酸が、深くかかわっていることは広く知られていますが、尿酸の正体はからお聞きしたいのですが。

山王メディカルセンターの院長室で、山中先生とのインタビューは、そんな質問からはじまった。

「尿酸は、プリン体という物質の老廃物です」
日本ではプリン体ゼロのビールが売られていたり、一般的にプリン体といえば身体に悪いものという印象を多くの人は抱いている。だが、

「プリン体は身体にとって必要な物質で、DNAの半分はプリン体でできているんです」

遺伝子の分解等で生ずるプリン体の老廃物、それが尿酸というわけだ。老廃物なのだから、尿酸は体にとっていらないものなのだろうか。

「そうとも言えません。尿酸は何らかの役に立っている。例えば、犬や猫の体内にはほとんど尿酸はありませんが、人間の身体には尿酸が存在する。実は尿酸は発がんを防止する抗酸化物質として、働いている可能性があります。他の哺乳類に比べて、人は発がん率が低いと言われますが、尿酸がそれに貢献している可能性があるのです。ただし、過剰の尿酸は害になる」

1日に体内で作られる尿酸はおよそ700mg。そのうち体内で作られる尿酸は80%、食品から摂取されるものが20%だ。日々、体内で作られる700mgの尿酸は尿と一緒に排泄され、尿酸プールという体内の尿酸の量は、常におよそ1200mgと一定に保たれている。ところが、体内で尿酸が作られ過ぎて、過剰な分が身体の外にうまく排泄されなくなると、血液中の尿酸の濃度が高まり、痛風への坂道を徐々に転げ落ちることになる。

プリン体がほとんどない焼酎でも、尿酸値は上がる

「会社の損益に例えると、体内の尿酸の量が適正値を超えると負債が増える。さらに負債がかさむと不渡りが出る。その不渡りが痛風発作です。ふだん尿酸は血液中に溶けていますが、負債に例えた過剰な尿酸は時間の経過とともに関節の中で結晶となってこびりつく。足の親指の付け根、足の甲、膝、手首等、結晶は体温が低い関節にたまります」

健康診断で、「尿酸値が高い」といわれた人は要注意だ。

「尿酸値が7.0mg/dL(以下・mg/dL略)までは心配なし、8.0を超え慢性腎臓病や糖尿病等の基礎疾患のある人と、9.0を超える人は治療が必要。それが日本の痛風治療のガイドラインです。痛風発作を経験した人は、薬の服用が欠かせません」

ところでなぜ、適正値を超え負債のように尿酸が体内に増えるのだろうか。

――プリン体の多いビールは、尿酸値に悪影響を及ぼすと聞きます。

「焼酎を飲んでいる人が、ビールを飲んでいる人に『キミ、それ尿酸値に悪いよ』なんて言うのは、私から言わせればチャンチャラおかしい。プリン体がほとんどない焼酎でも、尿酸値は上がります」

――確かにビールを飲んでない人でも痛風発作は来ます。実際、私がそうです。身体のことを考えて、普段はほとんどビールを飲まず、焼酎で通していたのに、痛風発作に襲われた。でも一方で、ビールや焼酎等をガンガン飲んでも、まったく痛風発作と無縁な人もいますよね。

「それは遺伝的体質が関係しているわけで、中には20代で痛風発作を発病する人もいます」

尿酸がたまりやすい遺伝的要素に加え、環境要因が重なって、痛風の引き金を引くと山中先生は説く。環境的要因としては、まず生活習慣病の元凶である肥満、メタボ等を上げる。

「脱水も尿酸値に悪影響を与えます。汗をかくと尿酸値が上がる。1日2Lは水分を取りましょう」

痛風は“性格病”

ストレスは痛風に限らず、生活習慣病の大きな要因である。ストレス発散のために軽い有酸素運動はお勧めだが、筋トレのような無酸素運動は尿酸値によろしくないと、先生は言葉を続ける。

「筋トレのような激しい無酸素運動は、短時間で筋肉が大量のエネルギーを使うので、尿酸がたくさんできると同時に尿酸の排泄が減ります」

さらに、痛風発作を引き起こす最悪のパターンをこう語る。

「仕事のストレスを運動で発散させて、スカッとしたい。ジムに通い筋トレで汗をたっぷりかき、サウナで汗を絞って、のどが渇いたとビールをガッと飲む」

そんなストレス発散法を好む人は、周りにも結構多いはずだ。尿酸がたまりやすい遺伝子要素を持つ人が、その方法でストレス発散を続ければ、痛風発作へと一直線である。

「昔は“ぜいたく病”といわれた痛風ですが、今日では痛風は“性格病”です。痛風の患者さんは几帳面な性格で、仕事も遊びも一生懸命という人が多い。しかもこの性格の根深いところは、そんな自分が嫌いではない、むしろ誇らしいとさえ感じている。

でも、元気と健康は違います。元気だからといって、肉体的に健康とは言えない、痛風はそんな人がかかる病気です」

精神的なストレスを肉体的ストレスに置き換え、激しい運動でスカッとしたつもりになっていても、ストレス自体の解消にはつながっていないと先生は指摘する。

「考え方によっては、痛風発作は神様のお告げだと。“ちょっと生活を改めなさい”という鉄槌だと思ったほうがいいかもしれません」

痛風発作を機会に、自分のストレス解消法を見直し、肉体的にも精神的にも健康な生き方を考え直してみてはどうか――山中先生はそんな示唆をするのだ。

痛風の原因は分かったが、経験したものから言わせると、痛風発作は文字通り鉄槌である。なぜ親指の付け根が腫れあがり、万力で締め付けられるような、強烈な痛みに襲われるのか。また、4、5日もすると腫れはひく。強烈な痛みは嘘のように消えてなくなり、あたかも完治したかのようになるのだ。これも痛風発作の特徴だが、一体なぜなのか。

後編で山中寿先生に、痛風発作のメカニズムをさらに詳しく解説してもらう。

取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama