【第3話】地方から世界を変える「人“高知”脳」とは?(2017.10.30)

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AIを搭載した音声対応システムを開発するベンチャーNextremer(ネクストリーマー)。2017年5月アパホテルの女性社長をモデルにした音声対応のフロント係を展示会に出展すると、会話するAIにスポットが当たりはじめた波に乗り、各企業から問い合わせが殺到し、会社は急成長。ヒョンなことから四国の高知に繋がりを持つと、CEOの向井永浩(むかい・ひさひろ・40才)は、それまで一度も訪れたことがない高知に、開発拠点のラボを作ろうと計画を立てる。

●「人“高知”脳」

技術を統括する興梠敬典(ころき・たかのり・30才)の妻も徳島出身、いつか妻の故郷で仕事をしたいという思いを抱いていた。

「よーし、AIを駆使した音声やチャットポットの対応システムの開発拠点を、高知に置こう。仲間も会社を辞めなくて済むし、高知の優秀な人材を総取りしようじゃないか」

向井は語尾に力を入れた。

東京からはるかに離れた四国に、開発拠点のラボを設置する、果たして計画通りにことは運んだのか。

「それが予想以上にうまくいったんですよ。今や高知では『人”高知“脳』なんて造語も、広まっているぐらいで」(向井)。

AIを搭載した音声やチャットでの対応システムという、これまで地方にはほとんどない最先端の技術開発だ。大学の博士課程の学生等々、高知を中心とした優秀な若者が、吸い上げられるように集まってきた。テレビ電話等を利用し、東京・成増のヘッドクォーターとのコミュニケーションに不自由さを感じない。

「高知を舞台に、技術者がハッピーになれるチーム作りができつつあります」

月の大半を高知のオフィスに詰める興梠もうなずく。

●高知が後押しする4億7000万円

向井はさらに、高知に拠点の一つを置く有利さを続ける。

「少子高齢化が都会よりも深刻な地方都市では、お年寄りの足を確保するため自動運転の普及が望まれています。自動運転の実験をするには、マニュアル車の使用を禁止しなければならない。都会でそんな実験は不可能ですが、自動運転車に理解があり交通量が都会よりも少ない地方なら、自動運転車の実験も皆さんの理解を得やすい」

2017年8月8日、Nextremeは産業革新機構及び高知銀行を引受先とした第三者割当増資により、総額4億7000万円資金を調達したと発表した。

「外部の人たちとやり取りをして、お金を引っ張ってくる点は信頼できますね」興梠はCEOの向井をそう評するが、この融資の成功も人口減少が問題化している高知県に、対話システムという最先端技術の開発拠点を置いたことが後押ししている。雇用の創出や地域経済の活性化を期待されているのだ。

●しゃべる鎧兜

2年弱で従業員3、4人ほどから55人に急成長したのだからその間、いろんなことがあった。音声対話システムの試作に取り組みはじめた15年夏ごろだった。たまたま銀座で食事をしていた向井は、壮年の恰幅のいい紳士と知り合う。紳士はイベント関係の仕事に従事している人物で、音声対話システムの話題で会話は弾んだ。

「実は、鹿児島に鎧を製作している会社があって、イベントに時々そこの鎧を展示しているんだが向井くん、鎧をしゃべらせてみることはできないかね」

「はあ…」

向井は思わず生半可な返事をしたが内心、閃くものがあった。

鎧兜に身を包んだマネキンが、質問に応えて言葉をしゃべったらインパクトがあるぞ。特に外国人はびっくり仰天するに違いない。うちの技術を世界に向かってアピールする最高の広報部長になる。これは面白いーー。

彼は思わず胸の内で手を叩いた。

第四回へつづく

取材・文/根岸康雄