【第4話】AIを搭載したエージェントロボットは我々の生活をどう変える?(2017.11.05)

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AIを搭載した音声とチャットによる対話システムを開発するベンチャーNextremer(ネクストリーマー)。2017年5月アパホテルの女性社長をモデルにした音声対話のフロント係を展示会に出展すると、各企業から問い合わせが殺到し会社は急成長。四国の高知に開発拠点のラボを創設すると、AI搭載の対話システムという最新技術に、高知を中心に若い優秀な人材が結集した。

そして「鎧をしゃべらせてみないか」という知り合いの言葉に、CEOの向井永浩(むかい・ひさひろ・40才)はひらめく。

鎧がしゃべれば、うちの技術を世界に向かってアピールする最高の広報部長になる。これは面白いーー。

●煙が出ても野太い声で

完成した黒褐色の鎧に身を包んだマネキンは高さ198cm、幅50cm、奥行き42cmと堂々たる体躯である。「AI-Samurai」と名付けられた。プラットホームに搭載されている「minarai」の他に、コアになる技術として、「A.I. Galleria」という研究段階のシステムが投入されている。これは人の脳の神経細胞を意識し、人とコンピュータのコミュニケーションが、よりリアルになるようにと開発されたものだ。

「AI-Samurai」は簡単な日本語と英語で対話し、個人の顔認識の機能が備わる。15年10月30日の「第6回対話システムシンポジウム」での初公開以来、海外を含め様々なイベントに登場し続ける。「腕とか動いたら面白いよ」という発案で、東工大の研究室に、鎧のマネキンを持ち込み腕の動作も加えた。出展して間がない頃のあるイベントでは腕から煙が上がり、消火器を吹きかけられながらも、「AI-Samurai」は野太い低音でしゃべり続けた。

この夏、7月下旬から8月下旬にかけて、凸版印刷と共同開発した「AI-Samurai」を東武鉄道浅草駅のツーリストインフォメーションに設置。わかりやすいように、横に説明のためのディスプレイを設置。「雷門は〜」「東京スカイツリーの入場料は〜」「お土産の雷おこしは〜」等々、質問に音声で応える黒褐色の鎧に身を包んだ侍姿の渋い英語案内は、浅草を訪れる外国人観光客から「アメイジング!」「グレイト!」と声が上がった。

●エージェントくんと共に生きる

従業員数だけ見ても、この2年弱で十倍以上。2020年までに高知のラボの術者だけでも現在の16名ほどから100名に増員する目標を掲げている。

「僕はムチャが好き。ムチャであればあるほどワクワクする。これからも社名の由来の通り、次の“ムチャなこと”にチャレンジしていきたいですね」

そんな向井に問うた。

ーーこのまま、ムチャなことをやり続けて仮にすべてうまくいったとしたら、未来はどんな社会になるのでしょうかね。

「音声対話ロボットが、パソコンや携帯電話のようになって、ロボットとともに働く社会。例えば人は夕方5時まで働き、あとは自分のエージェントくんのロボットに対応してもらう。煩わしいことはエージェントくんにやってもらう。多くの人が対話システムのロボットを使いこなしているイメージでしょうか」

ーーそのエージェントくんには感情があるんですかね。

「それはあまり想像していませんね。そもそもロボットに人間みたいな感情は必要ないんじゃないか」

高知市のラボにいる技術部門を統括する興梠敬典(ころき・たかのり・30才)が、テレビ電話を通して話に加わった。

「人間のコピーを作るのは難しいけど、エージェントが人と一緒にいて、フォローする感じかな」(向井)

「未来の社会では、エージェントをうまく使いこなしながらやっていく」(興梠)

「教育面でも未来社会では、丸暗記しなくていいんです。暗記や計算はエージェントに任せて、その結果をもとにどうするかを人間が考え決めていく。ロボットを介する創造的な仕事は何か、それがビジネストレンドになり、競争も激しくなるでしょうね」

15年ほど前、スマホがなくてならない社会になるとは誰も想像しなかった。AIの進化はITのときより、加速していると識者は口をそろえる。向井たちは自分のエージェントと対話しながら二人三脚で生きる、そんな社会に変貌するのではないかと向井たちは考えている。

そんな馬鹿な……、とは、誰にも言えない。

取材・文/根岸康雄