【第2話】AIは未来の奴隷か!?労働から解放された人間はどこへ向かうのか?(2017.09.29)

■連載/AIの“現場”

最近、「人工知能(以下、AI)」「ディープ・ラーニング」「機械学習」といった言葉をニュースで見ない日はない。しかし、そもそも人工知能とは何か? 何となくわかったつもりでこれらの言葉を使っていたけれど、実はよく知らないという方も多いのではないでしょうか? 本連載では時代の潮流となっているAIを正面から捉え、製品化されたもの、開発途上のものも含めたAIの現状、AIが汎用した近未来はどのような社会になるのかを具体的なエピソードとともに紹介します。

第一回はコチラ

インターネットの登場により可能になった膨大な量のデータ収集、それを処理するコンピュータの計算速度の向上。これまでの技術の積み重ねに基づくディープ・ラーニング(深層学習)等の進化————。日本の人工知能(以下・AI)研究の第一人者、東大大学院情報理工学系研究科の中島秀之特任教授は汎用AIの浸透で、急速に世の中は様変わりすると予言する。

そんな指摘で連想するのが、レイ・カーツワイル(実業家・発明家・米国)が唱えたシンギュラリティ(技術的特異点)。2045年前後に人工知能が人間の能力を超え様々な出来事が起こるであろうという説だ。


AI研究の第一人者、東大大学院情報理工学系研究科 特任教授 中島秀之氏。

■毎年、“あっ”と驚くことが

「でも2045年というのは、コンピュータの計算速度の進化に当てはめた仮説であって、あまり意味はないと私は思います」

中島教授は言葉を続ける。

「例えば、AIが囲碁の名人に勝てるのは30年先、将棋は10年先とか言われていたのに、ここ1〜2年で名人を破ってしまった。科学技術の進歩がイノベーションを起こし、我々の生活が変わっていく、そのペースがこれまでと同じだと、考える方が難しい。AIに関して今、グーグルやアマゾン、フェイスブック等が突っ走っていますが、毎年何か“あっ!!”と驚くすごいことがあると思っていた方がいいでしょう。私はこのペースでAIが浸透すれば、5年ほどで社会はガラッと変わるのではないかと思っています」

野村総合研究所の未来社会の試算では、日本の労働人口の49%が、AIに代替可能だと予測する。AIに取って代わられる仕事は定型型で、創造性やコミュニケーションが必要ない職業。さらにバスやタクシー、電車の運転手も自動運転技術が投入されるであろう。

■ホワイトカラー300万人が代替可能

「エクセル等でできる表計算は、AIでできますし」ホワイトカラーの事務職、およそ300万人が代替可能というのだ。
さらに、「会計士もAIへの代替が考えられます。決められた法律やルールの範囲内で支払う税金を、最小にするのが会計士の大きな仕事ですが、法律やルールが決まっているわけですからAIの得意な分野です。

法曹界も、今より人を減らせることができます。日本は前例主義で裁判官や弁護士、検事はこれまでの判例に照らし合わせ、この事件はこのくらいの罪だとディベートをする。膨大な判例から適した事例を検索するのは、人間よりAIのほうがずっと早いですから」

■未来社会の“幸せの追求”

――近い将来、多くの職業がAIに代替されるとなると、不安が募るのですが。

「仕事がなくなるというよりも、代わっていくというのが一つの側面です。20世紀の前半、自動車産業が勃興して馬車を操る御者は失業しましたが、代わりに自動車の技術者や、自動車工場で働くワーカーが必要となりました。そのようにどんどん入れ替わっていくと捉えるのが、正しい見方だと思います」

――しかし、AIも効率を追求するシステムですから、仕事の絶対量が減るのは確実です。

「だから僕はこれからの時代、“幸せの追求”という問題を、そして人間はどう暮らしていくべきかという社会設計を、真剣に考えていかなければいけないと思っているんですよ」

■未来社会はユートピア?

――“幸せの追求”? “人間はどう暮らしていくべきかという社会設計”?

「職がなくなるのはAIのほうが効率がいいからで、AIが社会の隅々に浸透すれば、労働時間は半減し生産量は増えるはずです。企業は利益が増せば当然、GNPも上がり、税金の総量も増えるに違いありません。

そうなったとき、国が国民の最低限の生活を保証する仕組みを考えてみてはどうか。国が国民全員に、生活に必要な最低限の現金を支給する、ベーシックインカムの制度を導入してみてはどうでしょうか」

――具体的なイメージというのは?

「例えば古代ローマ帝国では、労働は奴隷の仕事で、市民は娯楽や芸術や政治を担っていました」

――奴隷の役割をAIが引き受ける?

「そうなると思う」

――近未来の社会では、人間が食うための仕事から解放されるというわけですか。

「人には収入のため以外にも、やりたい仕事というものがあります。ボランティアもそうですが、基本的に人間は人に認められたい欲求があるし、自分の好きな仕事をすればいい」

――仕事がスポーツのように楽しくなる?

「そう、富の配分は完全にイーブンにするのではなく、やっぱり頑張った人はそれなりの取り分が得られる社会」
AIが行き渡る近未来、中島教授は一つのユートピアの到来の可能性を、イメージしているのである。

第三回に続く

取材・文/根岸康雄