【第4話】より賢いAIは日本語から生まれる!(2017.10.01)

■連載/AIの“現場”

最近、「人工知能(以下、AI)」「ディープ・ラーニング」「機械学習」といった言葉をニュースで見ない日はない。しかし、そもそも人工知能とは何か? 何となくわかったつもりでこれらの言葉を使っていたけれど、実はよく知らないという方も多いのではないでしょうか? 本連載では時代の潮流となっているAIを正面から捉え、製品化されたもの、開発途上のものも含めたAIの現状、AIが汎用した近未来はどのような社会になるのかを具体的なエピソードとともに紹介します。

第一回はコチラ
第二回はコチラ
第三回はコチラ

第3次人工知能(以下・AI)ブームの今日、5年もすれば社会は一変してしまうという。汎用AIが社会の隅々に浸透する未来社会は、効率が増し労働時間は半減し、生産量は増え税金の総量も増す。国が国民全員の生活に必要な最低限の現金を支給する、ベーシックインカムの導入で、我々は収入を得るための仕事から解放される――。

AI研究の第一人者、東大大学院情報理工学系研究科 中島秀之特任教授は未来社会に、そんなユートピアをイメージする。だが、未来がユートピアかディストピアかは人間次第。その人間の最大の長所は、適当さ、曖昧さ、臨機応変さ。それを取り込み賢いAIに進化させる可能性が、日本語に特化したAIにあるかもしれないと、中島教授の話は続く。


AI研究の第一人者、東大大学院情報理工学系研究科 特任教授 中島秀之氏。

■日本語の“情景依存性”

――日本はAI研究に関して、特にアメリカと比べ周回遅れだと指摘されています。

「インターネットやユーチューブ等の浸透で、機械学習やディープ・ラーニングに不可欠な大量のデータの収集が可能になった。それが、今日のAIの進化に繋がりました。データ収集ではアメリカのIT企業が優位な立場にいます。例えばGmail使用をタダにして、中のデータはこちらで使用可能という形などで、Googleは以前からデータ集めを必死にやっていました」

――周回遅れの日本ですが、AIの開発で世界に先んじれる道はあるのでしょうか。

「日本語に可能性があると私は思います。適当さや曖昧さ、臨機応変なところとかファジーな部分こそ、AIにない人間の優れた点だと、前回お話をしました。日本語は曖昧だと言われますが、それは英語圏の人たちが言っているだけで。私は日本語の特異なところを“情景依存性”と呼んでいるんです」

■日本語による“より賢いAI”へ

「日本語はある情景を思い浮かべ言葉を発すると、相手もその情景を思い浮かべ、曖昧さが埋まる。例えば川端康成の「雪国」の最初の文章。“トンネルを抜けると〜”あの文書に汽車という言葉は出てきませんが、日本人なら誰もが汽車の中という情景を思い浮かべます。ところがアメリカの文学者は理解できない。英語では“雪の積もった場所に、外から汽車が出てきた”という表現になります」

――つまり、日本語の仕組みをうまく使っていくと、

「ファジーな部分を理解し融通の利く、より賢いAIができるかもしれない。アメリカのIT企業が英語に特化し満足しているうちに、日本語のいいシステムを作れば、そこにデータが集まってくる。より賢いAIを作れる可能性が、今ならまだ残っています」

■接待将棋の難しさ

――融通の利く、賢いAIとはどんな機械なのでしょうか。

「囲碁や将棋の世界でAIは名人たちを凌駕しました。強くはなりましたが、昔からある接待碁や接待将棋。相手を気持ちよく勝たせてあげる。わざと負けたとバレちゃいけない、相手に合わせてちょうどいい具合の強さで闘うプログラムというのは、強いだけのAIよりも難しいんです」

――ヒューマンの意味を理解するAI。

「特定の分野で人間より強くなっても、適当にやる方法を理解しない限り、AIが人類を越すことにはならないと私は思います。やるべきことはまだまだあるんです」

――中島先生はパーソナルコンピュータの父と言われるアラン・ケイの“未来は予測するものではなく、発明するものだ”という言葉を講演等で引用します。その言葉にはどんな思いが込められているのでしょうか。

「情報技術の世界は思いつくことが何より大事だということです。インターネットがいい例ですが、“こういうシステムを作りたい”と頭の中で思いついたものは、たいがい実現可能です。思いつくことは人間の役割です」

■AIベンチャー企業に期待

――“次の富のサイクルの仕組みを作るのは、ソフトウェアをやっている人たち”というのも先生の言葉です。

「これからの時代は情報を扱うところが一番、世の中で大きくなります」

――この連載でこれから取り上げていくのは、AIを搭載したソフトウェアを開発・製品化するベンチャー企業です。

「情報技術の世界で、画期的なことを思いついた人がいたら、それを多くの人が支援していかなければいけない。GoogleもMicrosoftも、最初にバーンと資金を出した人がいた。それらの企業の創設者は技術者でした。日本では技術者の発想や思いつきに出資したり、経済的に支援する仕組みが不十分ですね」

AIの浸透で社会的な激変が確実視される中、我々は来るべき変革にどう望むべきなのか。次回からのAIを搭載したベンチャー企業では近未来と、さらに先の未来社会をクローズアップします。

取材・文/根岸康雄