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中間管理職の方々の奮闘を描くこのシリーズ、各職場で課長たちは新型コロナウィルス対策で、ご苦労されていることであろう。この連載を通して、中間管理職の方の責任感の強さ、部下を育てようとする熱い思いをヒシヒシと感じてきた。この時期、ニッポンの課長の皆さんにエールを贈る、そんな思いを込めて。
シリーズ第24回 寺田倉庫株式会社 不動産事業グループサブリーダー兼エリアマネジメントチームリーダー 城田明洋さん(39)。寺田倉庫は天王洲アイルに本社を置く倉庫会社。美術品、映像・音楽媒体メディア、ワイン等デリケートな品の保存管理を得意とする。本拠地の天王州アイル地区活性化にも注力。イベントスペース、リハーサルスタジオを運営、ギャラリー等を誘致。城田さんのチームは2016年から年4回開催する「天王洲キャナルフェス」の中心的な役割を担っている。
価値向上が結果に繋がりだした
倉庫、オフィス、商業施設等、寺田倉庫の物件は天王洲地区に集中する。天王洲アイルを休日も人が集まる魅力的な街にしようと、会社は天王洲の価値向上に取り組んでいる。一般社団法人が主催、品川区などが後援する天王洲キャナルフェスは、天王洲運河沿いのボードウォークという公園を中心に開催される。野外映画祭、船上ライブ、運河のクルーズ等、様々な企画を実行し、3日間でのべおよそ1万5000人が訪れる。フェス等で天王洲の価値が向上すれば、ここに本拠地を置く寺田倉庫の資産の価値も向上する。
現在、彼の部下は14名。3つのチームに分かれるが、企画からフェスに携わる天王洲チームのメンバーは若手ばかりだ。
「フェスではこれまで野外映画祭や、ビルの壁面を使って絵を描いたり、いろんな企画を手がけてきましたが、子供達の参加型のイベントをやってみたいですね」男性の部下のそんな提案に、「フェスに来るお客さんの層に、幅を持たせる試みは大事だよ」会議で話は盛り上がった。
提案した部下は、役所や警察署に書類を提出して許可を得て、当日はフェスの会場に隣接する橋の周辺に、3人制のストリートバスケの仮設コートを配した。選手を招いて3人制バスケのスリーオンスリーを実演したり、子供たちの対戦があったり盛り上がった。
天王洲チームはテナントの管理や、空き物件の営業も業務だ。バスケを仕掛けた部下は、主にオフィスと商業施設を扱っているが、昨年は彼がメインになり、これまでにない最高単価での天王洲の物件の入居契約を決めた。
しかも先方から「是非、入居したい」と言ってもらえた。借主の関係者が天王洲キャナルフェスのファンだったことが、入居に大きくつながった。天王洲エリアの価値を上げるため、フェスに取り組んできたことがようやく成果につながりはじめたと、城田は報われた思いを抱いた出来事だった。
僕を見て自分なりの方法を考えてほしい
主に倉庫の空室営業や管理を専門に行うリーシングチームは、フェスの企画に携わるような華やかさはないが、会社の売り上げに大きく貢献している。城田がメンバーの先頭になって現場に立つこともある。
例えば、契約切れのタイミングで値上げをせざるを得ないケース。「えっ、値上げ!?」借主は値上げに渋い顔をする。
「そんな時は、わかっていただくまで何回でも通います」それは前職のハウジングメーカーでの営業職だった時の彼のやり方でもある。
部下と先方に出向くと、「また来たのか…」という担当者の顔に、若手の部下がひるむ時もある。以前の彼なら学生時代の剣道部で培った体育会系の流儀で、「うるせえ!行くぞ‼」と、部下を促して交渉に行っただろうが、そのやり方はずっと前に自粛している。
「交渉や営業にはマニュアルがないので、そばで僕を見て、自分なりの方法を考えてほしいんです」
例えば城田の交渉は、「値上げではないんですよ。今の価格はリーマンショックの時の特別に安い時のもので、適正なお値段にしましょうというお願いです」
「なんか足元を見て値段を吊り上げてんじゃないの」
「とんでもございません。他の物件を借りるとしたら、値上げの額より高くなってしまうかもしれませんよ」そんな感じで、相手のふところに飛び込むように距離感を縮めていく。
「僕はお調子者というか、ノリがいいですから」城田の口元がほころぶ。
「城田さんはサラリーマンの典型ですね」
直属上司である部長は面倒見がいい。ある時、天王洲にあるオフィスビルの4フロアに募集をかけた。管理のしやすさから、会社は4フロアまとめて貸す方針だった。だが、「2フロアを借りたい」という案件が入った。
名乗りを上げた会社は次世代のモビリティを扱う会社で、天王洲の価値向上を考えた時、うってつけの会社だった。
「このテナントは絶対に天王洲に合います。将来的には天王洲のフェスで、コラボできればと思っているんです」城田のそんな話に部長は、「面白そうだね。社長に話してみるよ」と尽力してくれ、彼の希望が実現した。
部長もだが、その上の経営陣も、もしかしたら自分のことをわかってくれているんじゃないか、城田はそんな思いを抱いている。
天王洲キャナルフェスがはじまって、間がない頃のことだ。会長が出席する会議で専務に促され、「いやぁ〜、精神的にも大変で、次のフェスはもう自分はできないかも……」と、フェスの苦労話を吐露した。すると、会長がすかさず、
「あんたの性格なら、めげても大丈夫だと思うよ、頑張って」と、発言した。自分の性格を見抜いているからこその言葉だと、彼は思っている。
そんな城田を部下たちは、どう思っているのだろうか。
ある時のことだ。チーム内で、フェスでの野外映画祭に上映する『イエスマン』という映画のことが、話題になった。
「イエスマンって?」そんな城田の問いに、部下がクスッと笑い、「城田さんのことを言うんですよ」と応えた。映画の内容について聞いたのに、そのリスポンスは冗談に違いない。「城田さんはサラリーマンの典型ですね」
部下の女性のそんな言葉は、中途半端な仕事の仕方を嫌う、自分のプロ根性を言っているのだなと、好意的にとらえている。
城田明洋 39才、7才を先頭に3人の子供がいる。「パパなんでタバコ吸ってるの、臭いよね」と子供に言われ、今年1月12日から禁煙した。結果、8キロ太った。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama