1年以上続く「若手社員の本音」シリーズ。中間管理職が部下である若手社員のことを知るための連載だったが、この企画は中間管理職本人の本音を紹介しようという新シリーズである。社内でも孤立しがちな中間管理職は、それぞれ働く現場で何を考え、何に悩み、どんな術を講じているのだろうか。
シリーズ第一回は株式会社タカラトミー マーケティング本部 ベーシック事業部 プラレールマーケティング部 マーケティング課 課長 平林思問(ひらばやし・しもん)さん(39)。一昨年、課長に昇格。プラレールのマーケティング課のリーダーとして、5人部下と共に働く。部下は皆30才前後で女性3名、男性2名だ。
部下のモチベーションを盛り上げたい
「僕は理工学部で電気を専攻し、大学では難聴者に電気信号を伝える研究をしていました。子供の頃から絵を描いたり工作が好きだったので、たまたまトミーの展示会を見に行ったら、目や耳の不自由な子供のための玩具を推奨している。おもしろいことをやっているなと思ったのが入社のきっかけです」
入社は2005年、ディズニーグッズの部署や赤ちゃん向けの商品、トミカなどを担当。入社以来、主にマーケティングやプロモーションに携わってきた。今の部署はプラレールの商品の計画、市場調査、プロモーションを主な業務にしている。
今年、発売60周年を迎えたプラレールだが、それを記念し鉄道会社等とのタイアップの案件をまとめることが、今の一つの大きな仕事である。平林は中心になってその仕事を担う部下を、紹介するように語り出す。
「タイアップを決めてくるのが、実に上手い女性の部下がいるんです。アポイントメントを取り、鉄道会社や鉄道博を訪ねて。『プラレールのキャラクターのてっちゃんを使ったり、観光列車をプラレールで装飾すれば家族連れが来ますよ』とか、相手にメリットを感じてもらえるように仕掛けるのがうまい。具体的な話になると僕も上司として同行します」鉄道会社は客を呼びたい。平林たちはプラレールの告知をしたい。
「プラレールはいろんな会社の車輌を取り扱っている。ライバルの鉄道会社を応援することにならないか」
そんな鉄道会社の問いには、
「プラレールはバリエーションが重要です。御社だけではなく、いろんな車輌を見ていただくことでお客さんが来ますので」
部下と同行した時は、彼がそんなフォローをする。
部下はタイアップが見込まれる先に、切り込んで行くのは上手い。そこは大いに評価できるが、「予算はどうなっている?」「スケジュールは大丈夫か?」等、具体的な計画立てがまだ甘いと平林は感じている。その点のフォローを心掛け、進捗状態を上司の部長に報告し、予算を含めて話し合い、企画を実現するのは課長である彼の仕事だ。
「もう一人の女性は、食品メーカー等とタイアップを決めるのが上手い」
「プラレールのキャラクターのてっちゃんが、お菓子のキャラクターとダンスをするのはどうでしょうか、曲も作っちゃいましょう」そんな部下の提案で、“てっちゃん”と、ベビースターラーメンのキャラクターの“ベビースターホシオくん”がダンスと歌を披露する動画が実現、コラボ作品をネット配信した。
「鉄道とは関係がない食品売り場でプラレールのことを発信できる。食品売り場で知ったお客さんが、おもちゃ売り場へ。これまで我々のプロモーションがリーチできなかったところに、リーチさせようという気持ちが彼女は強い」
そんな部下は年齢的にも、管理職を担う時期が近いと平林は思っている。部下のモチベーションを盛り上げたいという思いを込め、「自分で動くのも大事ですが、後輩の仕事も見ながら、やっていきましょう」と、声がけをしている。
上司との熱い思い出
平林も平社員時代に、上司と共に熱いプロモーションを仕掛けた思い出がある。
「入社3年目の頃、エアギターのおもちゃをプロモーションするのに、上司と2人でコンビを結成し、大会に出たんですよ」
出勤前は公園で、夕方からは公民館で上司と共にエアギターの練習に励んだ。地区予選で何回か落ち続けたが、猛練習の甲斐があって全国大会に出場。5000人ほどの観客の前で、パフォーマンスを披露した。
「10才以上、年が離れた上司でしたが、全国大会に出場した時は、感極まってステージの上で泣いていた」
平林はともにパフォーマンスを演じたその上司の言葉が、今も忘れられない。
曰く、「オレはそんなに仕事ができなくて、お前に仕事のことを教えてないけど、オレはお前の人生の上司だからな」
韓国の玩具店のオープニングセレモニーに招かれ、エアギターを披露したこともある。エアギターのおもちゃは世界中で数十万個売れる大ヒット商品になった。
「課長として、話しやすさや相談しやすさの雰囲気作りは心がけているし、うまくいっているんじゃないかと思っていますが」
最近、別の部署から異動してきた女性の部下は、まだカンがつかめていないようだった。その部下が作成し、平林が目を通したCMの企画書に部長が言葉を加えた。
「なんで15秒の中にこのカットを入れなきゃいけないの? 子供に伝わる表現になっているのか、ちょっと違うんじゃないか」、そんな部長の指摘に対して、部下は「すみません、もう一度考えます」と。企画書の修正に悩む部下を目にして、平林は一緒に考えた。
「インスタ映えとか最近よく聞くよね」「パッと見の印象や華やかさとか」「手法として最初に実車輌を見せるとか」「本当の電車を見せた後に、同じ車輌のプラレールが登場したら子供は“あっあれ見たことがある!”となりますね」そんな感じのディスカッションを重ね、平林は部長の懸念を示した箇所を修正し、部下と共に形にしていった。
「平林さ、お前は部下の仕事に手を出しすぎじゃないか」と、彼は部長によく言われるという。その言葉には一人でやらせないと、下は仕事を覚えないという部長のアドバイスが込められている。
「でも、僕は部下が困った時に、“こうしたほうがいい、こうすべきだ”と、手を貸すことも、課長として必要なんじゃないかと思っているんですよ。課長って野球チームに例えるなら監督なんだろうけど、それだけじゃないという思いが僕の中にあります」
中間管理職、平林思問が考える課長論は、後編で詳しく。
取材・文/根岸康雄
https://根岸康雄.yokohama