【前編】《リーダーはつらいよ》「素直すぎる若い部下たち、どんなアドバイスを求めているのか、そこを考える」パーソルキャリア・松崎美香さん

「若手社員の本音」シリーズは、部下の若手社員を知る手助けになればという連載だが、新シリーズは中間管理職たちの本音を紹介しようという企画である。社内でも孤立しがちな中間管理職は、働く現場で何を考え、何に悩み、どんな術を講じているのだろうか。

シリーズ第5回はパーソルキャリア株式会社 エージェント事業本部 IT・インターネット領域担当マネージャー 松﨑美香さん(34)。彼女の部署は主にIT・インターネットの企業の中途採用の支援をしている。現在、部下は13名。それまでも部下はいたが、マネージャー職を担ったのは今年4月からだ。

何事も自分の成長につながると

宮崎県出身の松﨑美香さんは、新卒で大手百貨店と人材派遣会社に内定した。

「親には百貨店への就職を勧められましたが、百貨店の場合、入社して3年間は売り場に立たなければいけない。紳士靴売り場にボーと立つ自分が想像できずに。人材派遣会社の営業として、中小企業の経営者や、大手企業の人事担当者とやり取りするほうが向いているのではないか」と考え、自分の成長につながると、新卒で人材派遣会社に就職した。

営業職に就き、「ビルの最上階から階段を使わず1階まで、ひたすら飛び込み営業して」新人賞も最優秀社員賞も獲得した。人の転職を支援することで企業も派遣候補者も、自分自身もハッピーになれる。だが、彼女の中で課題もあった。人材派遣の営業は顧客とのリレーションが最も大切だ。提案書を作成してロジックを駆使し、お客に納得してもらい新しいニーズを捻出するとかいう類の仕事ではない。

私は営業に向いている、そう実感している松﨑としては、次に提案型の営業を身に付けたいと、27才でWeb広告・プロモーション関連の会社の営業職に転職。新しい仕事は新鮮だったがある時、立ち上がったプロジェクトのリーダーが会社を退職し、プロジェクト自体がポシャってしまう。

必要としている人がいなくなると、こんなに大変なんだ……、そう実感した彼女は再び人材関係の仕事に戻ることを決意。現在の会社が2度目の転職先である。

“顧客親密賞”だが、優しすぎる部下

配属先は法人営業で、IT・インターネットの企業の中途採用を支援している。松﨑はまず、若手の男性の部下を紹介する。昨今の転職支援の業界は、売り手市場と言われ、企業側のニーズが多く、転職を希望する人が足りない傾向にある。

だがこの部下は、品質保証業界の将来性に注目し、自ら情報を仕入れ、ある会社の人事担当者には、「もう電話をかけてこないでほしい」と言われても、2年半に渡って地道な営業を進行させた。

「品質保証業界は転職希望者から、あまり認知されていません。メーカーが開発したサービスの品質を保証するためにテストをする。今後伸びていく業界なのに、テストをコンサルする会社より下に見られているところがある。それでいいんですか!?」と、品質保証業の会社に食らい付き、リレーションを確立し、転職希望者にも業界の将来性を伝えていった。

この部下は、“顧客親密賞”という、顧客に価値を一番還元したスタッフに贈られる賞に選出された。今、彼は若いメンバーを教育する立場だが、松﨑から見ると、もっとこうした方が伸びると思うところがある。顧客には問題点を指摘できても、メンバーに対しはっきりとモノが言えないところがある。例えば顧客から連絡があった時など、「その日のうちに返信した方がいいよ」と、メンバーにしっかりと伝えることがイマイチ苦手だ。

メンバーも忙しく業務をこなしている。彼はそれがわかるだけに、仕事を増やすようなことをなかなか口に出せないのだろう。「先延ばしに慣れると、メンバーは伸びないよ。お客様にも迷惑がかかる」彼女はその男性の部下に、そんなアドバイスをしたことがある。

“素直すぎる”若い人たち

ある女性部下も若手である。この部下は絶対に逃げ出すようなことをしない。ある企業はパーソルキャリア社が運営する転職サイト「doda(デューダ)」のサイトに、エンジニア(SE)募集を掲載した。仮にそれに百数十万円かかったとする。人材の支援が完了したら、残りの金額を請求させてもらうサービスだった。媒体側の担当者はその企業に、SE経験が1年の転職希望者を紹介すればいいと認識していた。だが先方の企業は、どうしても5年はSEの経験を積んだ人を紹介してほしかった。

「しかし、SEの経験が5年もある人は多くの企業が欲しがっています。なかなか難しい」

「でも経験5年の人を紹介してくれる約束で、お金を払ったんだ」そんな食い違いが生じたのだ。

担当の女性の部下の元には、その企業の人事担当者から連日のように、「おたく媒体にお金は払ったんだ。早く紹介してほしい」という語気の荒い連絡が入る。

部下の女性は媒体の担当者と企業の人事担当者の間に挟まれ、苦しい立場だったが逃げずに対応した。松崎も部下とともに先方の企業を訪ね、事情を説明したが、「経験豊富なSEがいないと、うちも売上げが立たないんですよ……」という感じで、担当者も本当に困っている様子だ。

「なんとか候補者を出してください!」部下の女性は、キャリアアドバイザーに頼み込んだ。登録をした転職希望者の相談を、最初に受ける役割がキャリアアドバイザーだ。

「規模は小さいですが、トップは元エンジニアで社員を大事にします。男性の育児休暇も取りやすい、理念のある会社です!」若手の女性社員の必死さが伝わったのか。キャリアアドバイザーから転職希望者に、企業の魅力を説明してもらい、適した人材の紹介が実現して、その企業には大変喜ばれた。

トラブルにも逃げることなく、解決に向け全力を尽くした若手の女性部下だが、一方で松﨑のように気が強いわけではない。お客を納得させる力が弱かったり、人からガガガッと強く言われると、萎縮しまうところがある。

自分が悪い。私はこの仕事に向いてないんじゃないか……。時にはそんなマイナス指向に陥ってしまう。彼女に限らず、昨今の若い人は自分の悪いところばかりに目がいく傾向が、あるのではないかと松﨑は感じている。なぜなのか。

つまり自分を振り返り、小さなことでも成功体験を確認する、そんな考え方をすることに不慣れなのではないか。彼女にとってそれに気づいたことが、チームリーダーとして、部下に接する時の一つのヒントになっていく。以下後編へ。

取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama