【リーダーはつらいよ・前編】本当にお客さんが困っていたら家に伺い対応する、そんな姿勢がクレーム処理の最も大切なこと Zoff・夏秋賢士さん

中間管理職の悲喜こもごもを紹介する本シリーズ、今回紹介するのは若い会社の中でも最年少の中間管理職だ。対面販売でお客に商品を売る。小売の世界は内に対するチームワーク、そしてクレーム等、外への対応。出世が早いということは、内と外に対するコミュニケーション術には長けているのだろう。

シリーズ第20回、株式会社ゾフ(Zoff)ゾフ事業部 店舗運営部 第一ブロック リーダー 夏秋賢士さん(35)。

Zoffは現在、約230店舗の低価格のメガネチェーン店を全国展開する。組織は夏秋さんを含む4名のブロックリーダーの下にマネージャーが17名。彼の部下である直属のマネージャーは4名。マネージャー1人が約15店舗を担当し、1店舗に7〜8名のスタッフがいる。夏秋さんが新卒で入社した当時、会社の規模は今の5分の1ほど。社員の平均年令は27才だった。

クレーム処理も得意な方

「『キミのやりたいことが生かせる。キミ次第で会社は変わるよ』と、面接の時に人事の人に言われまして。チャレンジしてみたいと」店舗スタッフから、店長、マネージャーへと昇進して一昨年、今のポストに就いた。

ブロックリーダー(以下・リーダー)の仕事は直軸の部下であるマネージャーの教育。

店舗で困ったことがあれば、マネージャーが対応し、マネージャーの手に余ることはリーダーの彼が解決をする。

自慢話をすれば、夏秋は新宿駅そばの商業ビルの中の店舗スタッフだった頃、この系列の施設で働く3万人の販売員の中から選ぶ接客コンテストで、3位になったことがある。小売につきもののクレーム処理も、店舗スタッフの頃から得意な方だ。「社長を出せ!!」たまにかかってくるそんな電話には、「私が運営部の責任者でございます」と対応し、相手の話をじっくりと聞いた。

「大切なのは、文句を言っているだけなのか、それともお客様が本当に困っているのか、そこを見分けることです」ただの文句は相手が冷静になるまで、電話口で話をよく聞く。

真摯な対応が肝心

「鼻のところのパットが取れて、仕事になんねえよ」そんな本当に困っているお客に、「メガネを店まで持ってきてください」と返答すれば、火に油を注ぐことになる。

こちらに落ち度があると判断した場合、彼は店舗スタッフの頃からお客の自宅に伺い、メガネの交換等の対応を厭わない。リーダーのポストに就いてからも、お客の対応に小田原まで足を運んだ。

そのお客はメガネのネジが外れて困っていた。「ふざけんな、どうしてくれるんだ!!」そんな感じの猛烈な剣幕の電話に、対応した女性の副店長はいささかたじろいだ。お客は店に何回か電話をかけたが、「なんでオレにきちんと対応しないんだ!!」と、怒りがヒートアップ。店長も担当のマネージャーも休みを取っている。お客は本当に困っていた。

事情を知った夏秋は、「今から行きます」とすぐに電話入れ、お客の自宅を訪問した。大切なのは真摯な対応だ。きちんと話をすれば、お客も冷静になるものだ。

リーダーたるもの、話し合いは何よりも大事である。マネージャーは孤立しがちなので毎週1回、部下の4名のマネージャーと、ミーティングは欠かさない。一対一で面談する機会を積極的に作っている。

部下のいい点も認めつつ歯がゆさも感じる

彼の部下の30代半ばの男性のマネージャーは、平日に休みを取り土日に店に入ったりして、店舗で困っていることをいち早く拾い、他のスタッフと共有することに長けている。

例えば商品を効率よく陳列する店長の仕事を、スタッフに伝えるため、その店長の仕事ぶりを動画で撮影し、5分ぐらいに編集して各店舗に配信した。店舗ではiPadを使い接客をするが、お客にいち早く情報を提供するために、効率のいいiPadの使い方を店舗スタッフに伝える工夫もしている。

だが、彼は名誉みたいなものをあまり欲しない。「全店で販売コンテストをやります!」という時、「よしゃ!うちのエリアも頑張るぞ!」というふうにはならない。マネージャー会議でも「絶対に一番になるぞ!」みたいな感じで旗を振らない。

「自分たちのできることをやって、結果が出たらいいよね」というスタンスなのだ。優賞したエリアのスタッフは好きなメガネを選べるインセンティブにも、興味がないといった感じなのである。

「あのさ、マネージャーは店舗スタッフの旗振り役でもあるんだから」
「でも、これが自分のスタンスです」

みたいなことを面談で言われる。「スタッフに熱を伝えるというか、そんなキミもオレは見てみたいんだ」部下のいい点も認めつつ、歯がゆさも感じているが…

細かすぎるのも良し悪し

部下の成長は一朝一夕にはいかない。部下の中には、ひときわスタッフ思いの男性マネージャーがいる。店舗には割引の施策が数多くある。この商品は1000円オフ、これは2本まとめ買いしたら10%オフ、誕生日のクーポンを使うといくらになるとか。この部下は商品について、スタッフが一目で値段がわかるよう早見表を作成した。これは実に便利だ。彼の几帳面さが発揮され、みんなが助かった。

だが、細かすぎるのも良し悪しである。時に現場のスタッフは、何でもかんでも口を出さずに、こちらに任せてほしいと思うこともある。また、よく気づくので彼の作成した資料は文章の量が多い。長文の資料はいったい何が言いたいのか、要点がわかりづらい。

細かく几帳面な性格には、いい点とあまり良くない点があることをたぶん、本人も気がついている。が、誰にでも言えることだが、わかるのと改めるのとでは雲泥の差がある。「自分が店長ならどう思だろうね」それは自分に対する問いでもあるのだが、彼にも常にそう話しかけていこうと、夏秋は思っている。

日々の売上げが数字となる小売業のシビアな環境の中で、孤立しがちなマネージャー。リーダーたるもの部下への気配りは重要だ。夏秋さんのさらなる気配りの術、そして心やすい上司については明日公開の後編で。

取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama