【リーダーはつらいよ・後編】「出世は一つの転機である。店長と異なりマネージャー職は全体を見る目が求められる」Zoff・夏秋賢士さん

 

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中間管理職の悲喜こもごもを紹介する本シリーズ、今回紹介するのは若い人が多い会社の中でも、最年少の中間管理職だ。小売りは社内のチームワーク、そしてクレーム等、外への対応の両方が大事だ。出世が早いのは、内と外に対する術に長けているからだろう。

シリーズ第20回、株式会社ゾフ(Zoff)ゾフ事業部 店舗運営部 第一ブロック リーダー 夏秋賢士さん(35)。

現在、約230店舗の低価格のメガネチェーン店を全国展開するZoff。組織は夏秋さんを含む4名のブロックリーダーの下に17名のマネージャーがいて、彼の直属のマネージャーは4名。1人のマネージャーが約15店舗を担当し、1店舗に7〜8名のスタッフがいる。

課長はクレーム処理の時と同様に腰を引かず、しっかり部下の話を聞くという夏秋さん、マネージャーは孤立しがちだ。部下たちとは密に話しの場を持つ。

マネージャー職は一つの転機

マネージャーの仕事は売上げを見る、店長・副店長を育成する、デベロッパーとの関係作り等、マネージャーになると仕事の幅が広がる。4名の部下のうち、2名はマネージャーに昇進して日が浅い。ともに男性だ。

店長からマネージャーへの昇進は一つの転機である。店長は1店舗だけを管理していればよかった。だがマネージャーは約15店舗ほどを管理する。店長の頃はスタッフとコミュニケーションさえ取れていれば、「よし、これやろう」とパッと実現できた。ところがマネージャーになると、提案しても店長が納得しなければ店舗に反映されない。どうすればいいのか、頭ごなしに命令はできないし、ジレンマに陥る時もある。

昇進して間がない1人は、大阪市内の繁盛店の店長だった。人一倍責任感が強く優秀な男だ。彼が担当する一つの店舗で問題が起きる。副店長とスタッフの関係がうまくいかず、スタッフの多くが辞めてしまったのだ。店長と同時に担当マネージャーの彼も頭を抱えた。

「立て直しが出来ませんでした…」夏秋が面接すると部下は肩を落とした。窮地に陥った店の状況に、気づいてあげられなかったのは自分のせいだと、彼は思わず夏秋の前で涙を流した。責任感の強い男だけに、彼の悔しさと申し訳なさが夏秋に伝わってきた。

明るくポジティブなのは良いが…

「まぁ、15店舗ほど担当していれば、いろんなことがあるよ」店長とだけのコミュニケーションでは、その店の状況すべてを把握するのは難しい。足繁く店を訪れ雰囲気を感じたり、店のスタッフと積極的に話すことも大切だ。店長の時とは違い、マネージャーはより全体を見る目を養う必要がある。店舗スタッフ、副店長、店長、マネージャーと経験を積んできた夏秋は、自分の体験をもとにそんなアドバイスをした。

「自分一人で抱えずに、マネージャー会議ではもっと声を出して意見を言ってほしい」それが、人に自分の考えを伝える第一歩という思いも伝えた。

マネージャーに昇進して間がないもう一人は、とにかく明るい。彼の好きな言葉は“笑顔、元気”。組織にとって、彼のようなムードメーカーは大切な存在だ。

ただ、明るくポジティブなのはいいのだが、言っていることが抽象的で伝わりにくい面がある。「さあ、頑張ろうぜ!」「もっと笑顔で行こうぜ!!」担当する店舗の店長に、そう声をかけても、いったい何を頑張るのか。具体例を出すなりして、もっとわかりやすく伝えることが彼の課題だと彼は感じている。

かくいう夏秋も、忸怩たる思いは秘めている。

自分は心配性だと彼は自認している。だから、常に準備を怠らないよう気を配るのだが、昨年の夏のようなことがあると反省する。昨年の夏、会社は“サングラスで勝っていこう!”と方針を出した。一昨年は猛暑でサングラスがよく売れた。昨年もいけると考えたが、期待外れの冷夏だった。結局、全店でサングラスを20%オフにして販売した。

梅雨が長引いたり台風が来たり、冷夏だったりした時のために例えば、湿気の多い梅雨の時期に、曇り止めのレンズを使ったメガネをアピールしておくとか。野外だけではなく、室内での色の薄いサングラスの効用を宣伝しておくとか。「社内で二の矢、三の矢の話をしておくべきだったんです」と、彼は言う。

いい意見でも疑ってみることだ」

マネージャーを統括するブロックリーダーは彼を含め4名いるが、サングラスが売れなかった時のアイデアを、出すものは誰もいなかった夏秋は言う。小売業の中にはリーダー同士を競わせ、売上げの数字を伸ばそうとする会社もある。ブロックリーダーにアイデアが出ないのは互いにライバル意識があり、競い合い牽制しているからではないか。

「いや、そんなことはありませんよ」と、彼は即座に否定する。

「数字的な評価は会社全体の売上げ目標の達成で見る。会社の業績をよくするにはどうしたらいいか。みんなで考えてくれ」とは、直属の上司である営業本部長の言葉だ。

やり手の部長で人事部では残業代を1分単位に改めたり、月の公休を1日増やして9日にしたり、ワーキングマザーや育休等の制度を充実させた。部長が今のポストに着いたのは1年ほど前だ。

「いい意見でも疑ってみることだ」部長のこの言葉は夏秋の心に刺さっている。

今、会社の業績は伸びている。それはお客の単価が上がったことが大きい。だが、“シャツを買う感覚でメガネを買ってほしい”とは、創業者の考えだ。

単価を上げ業績を伸ばすのは間違いだ。「単価ではなく、より多くのお客様に来店してもらう」客数をどのようにして伸ばすか。今より多くのお客に対応して業績を伸ばそう、そんな部長の方針は現在、道半ばである。

部長は彼が新宿の店舗の副店長時代、店長だった。付き合いは長い。一緒に飲みにも行くし心やすい関係ではある。夏秋は将来的にどこかの国を任せてほしいという思いを抱いている。東南アジアの国が有力だろうが、今の部長の下で業績が認められれば、そんな夢が実現する可能性がある。

ブロックリーダー 夏秋賢士、35才。妻は小学校の先生をしている。昨年11月、第1子が誕生した。女の子である。彼は今、家庭と仕事の意味を再認識する時期にいる。

取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama