【リーダーはつらいよ】《前編》「熱い思いなら部下に負けません。が、時には自省も必要です」ミズノ・藤田真之介さん

 

「若手社員の本音」シリーズは、中間管理職が部下の若手社員を知るための連載だが、この新企画は中間管理職本人の本音を紹介する。上司と部下に挟まれ、孤立しがちな中間管理職は何を考え、何に悩み、どんな術を講じているのだろうか。

シリーズ第6回はミズノ株式会社 コンペティションスポーツ事業部 第2事業企画販促部 スイム・体操・武道課 課長 藤田真之介さん(44)。部署は一つの競技を事業目線で捉え、事業企画と販売促進を担う。担当する3つの競技にお金を投資し、選手や団体と契約して売り上げにつなげるが、特に水泳は池江璃花子等、トップ選手と専属契約を結んでいる。選手のアドバイスを新作の水着にフィードバックするのはもちろん、選手のプロモーションを担当するなどのサポートをしている。ミズノの水泳事業をどのように展開していくか、決定していく部隊である。

元アスリート社員の部下たち

藤田は営業部の大阪外商時代からスイミングスクールをメインで担当したり、水着とは馴染みが深い。2011年に水泳の販促・プロモーションの部隊に異動。プロモーション部で選手との契約、日本水泳連盟や各都道府県の水泳部の顧問や、スイミングスクールとの関係を構築してきた。

現在、部下は17名。彼自身も学生時代はアメフトの選手だったが、部内には元アスリートがたくさんいる。元水泳の日本代表でスポーツキャスターの寺川綾も、ミズノの社員で藤田の部下だ。

「彼女は例えば、水泳の世界大会で優勝を狙っていた選手が銅メダルだった時、“その時ベストを尽くした選手に私は絶対、残念でしたという言葉は使いたくない”と言いますね」

寺川のみならず、元アスリートの社員は競技に関してこだわりがあるし、担当する選手に思い入れがある。

例えば現場でトップ選手の意見を吸い上げ、商品に落とし込むことを業務としているのは、水泳の販促・プロモーション担当の部下たちだ。担当者は完成したニューモデルを選手に着用してもらいたいが、選手から「前のモデルで記録が出ているんだ」と、言われる時もある。

スイミングスクールで本格的に練習をしている子は、ジュニアからトップスイマーと同じような水着を着用する。また、スポーツセンターに通う一般のスイマーには、「池江選手と同じ水着がいい」というニーズがある。直接的に売上げの数字を上げるのは営業だが、営業が契約を取りやすいよう、それぞれのニーズに刺さるようにするには、どうしたらいいか。それを考えるのが藤田たちの部署だ。

選手と契約をするのは、会社が売りたいモデルを選手に着用してもらい、売上げの数字を伸ばす環境を整えるためである。それはわかっていても日々、結果を出すために練習に励んでいる選手を間近で見ている担当の社員は、「それでも、ニューモデルの水着を着てくださいよ」とは、なかなか言い出しにくい。

選手の要望とマーケティングの折り合い

マーケティングとしてやりたいことと、選手の要望が違う方向にならないよう、開発段階から選手に、こちらの意図をできる限り伝えることを藤田は部下にアドバイスしている。

「もっと速く泳いでもらえるように、水面に対してより体がより水平になる、そんな補強をした次のモデルと開発中です。そのための新素材も試しています」と、選手に説明しておくだけでも、新しい水着を試してみようかという気になるものだ。

「水着の腰のあたりが、いつも突っ張るんですよ」と、選手に言われれば担当者は「わかった。その意見も次の開発に生かしていくよ」と応える。

スポーツに造詣が深い社員同士だから、社風として仲良しグループになりがちである。だが、時には「腰のあたりが引っ張られるような気がするって、他の選手はそんなこと言ってないよ」「そうそう、価格を考慮すると、その改良は難しいね」などと部内で、意見が飛び交うこともある。担当者は選手の意見を反映させたいが、部内の意見も尊重しなければならない。そんな時は藤田が折衷案を提示する。

折衷案はまず熱き思いから

「選手の言うことは絶対に聞いてやらなあかん。それがオレらスポーツメーカーの使命や!選手は人生かけてオリンピックで戦っている。できませんで済むか!?」という感じで、彼はまず極端なことを熱くしゃべる。

部下が一歩引いたところで、「だからといって、売り上げ達成のためには全部が全部、カスタマイズするわけにもいかんやろな」という感じで、本来の商売の話をブレンドして。時にはある契約選手の例を出し、「あの選手も腰のところが突っ張る、改良して欲しいといっていたけどな。大会で優勝したら、これ本当にいい水着やと感激していたやないか」とか、好記録は選手が着用する水着だけではない面を改めて強調したりすることもある。

だが、一番大切なのは水着に対しても契約選手に対しても熱い思いだと、藤田は思っている。実を言うと、“熱さ”なら部下の誰にも引けを取らない自負が藤田にはある。よく知った選手がオリンピックでメダルを獲得した時などは、もう涙が溢れて止まらない。

時には、課長としてやる気を見せようと、部下に熱い口調で語りかけるが、言葉に熱が入り過ぎて、“あかんなぁ……”と自省することもある。なぜ自省するのか。

「つまり、一つ一つの案件に対して熱い思いを持ちますが、それが高じて部下を差しおき、あたかも自分が立てた手柄であるかのような、おごった言い方は決してしないように、気をつけているということです」

藤田が、そんな課長としての“身の処し方”を会得するには、平社員時代の経験がものを言っている。彼の平社員時代の経験とは以下、後半で。

取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama