【後編】《中間管理職・リーダーの本音》「問題の本質は何か?上からの指示を部下にどう伝えるか?課題は尽きません」花王・畠山了樹さん

前編はこちら

1年以上続く「若手社員の本音」シリーズは中間管理職が、部下の若手社員を知る手助けになればという連載だったが、こちらの企画は中間管理職本人の本音を紹介しようという新シリーズである。社内でも孤立しがちな中間管理職は、働く現場で何を考え、何に悩み、どんな術を講じているのだろうか。

シリーズ第2回は花王株式会社、コンシューマープロダクツ事業部門ビオレ事業部 ブランドマネージャー 畠山了樹さん(44)。ビオレは老若男女に対応したスキンケアブランドで、洗顔料からメイク落とし、化粧水等、豊富なアイテムがそろっているが、畠山さんと男性4名と女性3名、計7名の部下が担当するのは日焼け止めと、制汗剤等のデオドラントのカテゴリー商品である。

前編はリューアルした日焼け止め、そしてデオドランドの新製品のマーケティングを通して、部下の働きを紹介したが、マーケティングだけではない。この会社の事業部は守備範囲が広いのだ。

数字の成り立ちには根拠がある

「僕の部署のカテゴリーである日焼け止めと、デオドランドの事業活動については、僕らが情報発信元となります。生産部門、調査部門、広報部門、販売部門等々、多岐に渡る社内の関連部署と連携が必要となります」

技術開発と話し合い、新製品を会社に提案する。社内の関連部署にはそれぞれプロフィッショナルがいる。生産のプロ、広告制作のプロ等に、畠山たちの部署が手掛けたい製品を説明し納得してもらう。3人の女性部下はユーザーに近い感覚を持っていて、関連部署とのやりとりが、どちらかというと男性よりスムーズだ。

もちろん数字も大切でコスト計算も担う。在庫を出さないように市場状況、お客の興味の持ち方、認知はどうなっているか。お客の情報を集め、分析し、販売予測を立てる。新製品は過去の類似品と照合して、納得できる生産の数量を出し、購買部門に提出する。「なぜその数量になるのか、説明してくれ」という生産部門の問いにも答えていく。テレビCMを使う時のコスト計算もする。

もちろん売上げの数字も大事だ。「我々は日、週、月の売上げ見込みを立てます。部下が立てたその売上げ目標に対して勝敗が出る」
それぞれの売上げ目標をピタリと当てる部下もいれば、全くダメな部下もいる。売上げ予想がすべて外れる部下には「おい、どうなっているんだ!?」と、畠山の語尾もいささかきつくなる。

売上げ予測ができる人は、数字の背景を知っている。例えば昨年8千万円売れた商品だが、今年は1億円と売上げの見込みを立てた。それはなぜか。昨年は定番品の売上げが7千万円、数量限定や香りが異なる等の企画品の売上げが1千万円だった。今年は昨年当たった企画品で香り違いの商品を3つ用意した。実績から見て、3千万円の売上げは可能なはずだと。売上げ予測が的確な人は、数字の成り立ちにきちんとした根拠を持っている。

一方で、「この数字がどう成り立っているのかを把握したり、数字の裏側を組み立ててみることをしたらどうだ」そんなアドバイスをしても、一向に改まらない部下もいる。「他の業務がバタバタしていまして、そっちを考える時間がありませんでした」

「じゃあさ、出社して20分でいい。売上げの数字を集中して考える時間に割り当てよう」

実はそれは、彼自身が若い頃、先輩から言われたのと同じ言葉だ。

中間管理職になって痛感している、本質的な課題は何かということ

平社員時代なら、例えば今月の売上げ目標が1億円に対し、2千万円ほど落としそうだと思っても、まっ、そのまま行こうと。仮に目標に行かなくても、「次頑張ります!」とか、持ち前のノリで済ますこともできた。だがブランドマネージャーになると、そうはいかない。

直属の上司はビオレ事業部の中の5つのグループを統括する事業部長だが、仮にある製品の売上げの目標が「1億円ぐらいです」と、報告をする。幹部にあげたその数字に間違いがあったら、会社の事業判断を見誤ることにつながりかねない。

「いい話は別に聞きたくないんだ」それはいつもの部長の口癖だ。「リスクを報告しろ、そのリスクがなぜ発生したのか。どんなリカバリーを考えているのか、そこを中心に話してほしい」現象はいらないともよく言われる。例えば「売上げが2千万円足りなかったのは、数字を見ればわかるんだよ。なぜ売上げが目標の数字にいかなかったのか」

つまり、本質的な課題はなんなのか。部長が畠山から聞きたいのはそこだ。流通の事情が悪かったのか。我々の提案の仕方がお客にマッチしていなかったのか。対策はどうするのか。考えを研ぎすまし、課題の本質を伝えようとすると、報告の言葉はどんどん短くなっていく、管理職になって畠山はそのことに気付いている。
時に上司は気持ちが先行するあまり、「もっとこういうふうにさー、ああいうふうにさー、わかるだろう!」と、身振り手振りで伝えることもあって、考えを汲み取るのに想像力を働かせなければならないこともある。

上からの指示を部下に伝える術も、徐々に工夫が身についてきた。例えば、商品が消費者の心に刺さってない、広告のメッセージを何とかしろ。そんな指示に対しては「有効な手立てって、いくつかあるよね。速さと世の中への伝播力からいって、テレビから変えてみようか。ちょっと検討してみてよ」そんな感じで、課題に対してプライオリティを考え、部下に指示を出す。順々に課題の解決を目指そうという考えからだ。

もちろん、部下への気遣いも大切である。

「あれ、ちょっと雰囲気が変わったね。土日、面白いことがあったの?」とか、出社時にオフィスで明るく部下に声をかけることも、彼が心がけていることの一つだ。

畠山了樹、44才、休日は小学6年の息子と、釣りに行くことを楽しみにしている。家にいる時はほとんどしゃべらないが、妻は彼に文句を言わない。そんな妻には感謝している。

取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama