あなたの知らない若手社員のホンネ~ユーコーコミュニティー株式会社/後藤舞さん(28才、入社6年目)~
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バライティーに富んだ職種で働く若手社員を紹介するこの企画。今回は工事現場で働く女性のペンキ職人。工事現場は典型的な3K職場と思われがちだが、ペンキ職人は女性向きの職業なのだという。女子ペンキ職人の仕事に対する“やる気”には、共感と参考を抱くものがある。
シリーズ54回、ユーコーコミュニティー株式会社 技術部主任職長 後藤舞さん(28・入社6年目)。神奈川県厚木市に本社があるこの会社、後藤さんが入社した時、女性の職人は1名だったが、今では全職人36名中、女性職人は22名。大学で応用科学を学んだ彼女と異なるが、女性職人のその大半は美大出身者である。
営業で鍛えられた後に、先輩に付いて1年間の見習いのペンキ職人を経て、一人前の職人として認められる職長に昇格した後藤さん。現場は二人一組で作業をこなすがそのリーダー格に。技術もさることながら、工期を組みそれを守るのも職長の仕事。塗装の現場で最も恐れるのはペンキの飛沫だ。近隣の車等はビニールを覆い、ペンキの飛散に養生するがある日、風の強さの判断を誤り、ペンキの飛沫が想定以上に飛散して――
仕事があるのかないのか、天候に左右されるペンキ屋稼業
「うちの車にペンキが付いているんだけど、何とかしてくださいよ」そんな苦情が寄せられて。私の予想以上にペンキの飛沫が飛んでしまったんです。有機溶剤でペンキを落とすと車の塗装まで剥がれてしまう。上司に報告し、上司が先方とお話し合いをして、保険で対応してもらいました。
外仕事なので夏は暑いし冬は寒い。でもどんな仕事でも、何らかのキツさは伴うもので。外仕事の辛さよりも、塗装の厳しさは天候に左右されることが多い点です。塗装したい箇所にペンキがきちんと付着しないので、雨が降った日はお休み。湿度が70%以上の日もダメ。何年か後に塗装した箇所がはがれ落ちたり、不具合が生じて信用問題になる可能性があります。
気温が5℃以下の日も塗れない。水性のペンキは凍ってしまうし、油性ペンキを使ってもうまく硬化しません。ペンキの飛沫が予想以上に飛び、車を傷つけ会社に迷惑をかけた経験から、雨が降りそうだ、風が強い、どうしようかと迷った時は、その日の作業を中止することが多い。
一つの現場の工期は平均で2週間前後、私たちは固定給なので、天候の関係で休みになっても給料は変わりませんが、工期の中で仕事を納めたい。お客さんは暗くなってからの作業を嫌がります。ですから現場での残業はほとんどありませんが、お客さんの了解を得て土日、作業をする場合もあります。
「塗装工事をするにあたっては、自分の家だと思って仕事に携わりなさい」と、会社の営業のトップには言われています。足場が狭いところでも丁寧にローラーを転がして、ものが置かれていてその下が見えないところは、ハケを使ったりして。
“ゆず肌”という業界の用語があって、塗った後の表面がツルンとしていない、波打ったような塗装をそう表現します。希釈といって、塗料の原液を有機溶剤で薄め塗りに使う時に、有機溶剤のシンナーの量に問題があると、塗装の後にゆず肌が出る。
“あっ…”美大出の後輩たちの驚くべき塗りの能力
ゆず肌がひどい時は紙ヤスリで表面を削り、塗り直しを部下の女の子に指示することもあります。
「その程度のツヤ感で満足しているの?もっとキレイに仕上げたほうがお客さんは喜ぶんと思うよ」と、現場で言葉にする時もあります。普段は周りから明るい人と見られている私ですが、仕事に対する姿勢が信用されているのでしょうか。
「後藤さん、私毎日辛くて……」泣きながら後輩に、そんな相談をされたこともありました。二人一組で仕事をしますが、組んだ相手と相性が悪いとどうにもなりません。「組み合わせを替えてあげたほうがいいと思います」上司には、そう進言しました。
塗装の仕事は下塗り中塗り上塗りと工程があり、中塗りと上塗りは同じ塗料を使うことが多い。私の場合は、「中塗りは適当で雑も、上塗りで同じ塗料をちゃんと塗れば、それでいい」という考え方の人とは、一緒に仕事ができない。一つの現場で平均100万円前後のお金がかかりますし、仕上がりが同じでも、手抜きはお客さんへの裏切りだと私には思えてしまうんです。
現場までの車の中から、現場では10時間近く一緒にいて。工期に間に合わせるために、綿密な打ち合わせもします。相性の悪い相手と組むと我慢できない。私自身も「すみません」と上司にお願いをして、ペアの相手を替えてもらった経験があります。
でも、そんなことは稀で、今現場で私の下についている見習いも、美大出身の明るい女の子です。美大生は学生時代から絵具まみれの生活をしているので、ペンキで汚れてもまったく気にしない。「タイル調のような、縦横に凹んだ部分がたくさんある外壁を塗装する時は、ローラーを斜めに転がすと、ほらきれいに塗れる」「わっ、ほんとだ、こんなに上手くできるんだ!」とか、自分の成長を楽しんでいます。
美大出身の子には驚かされますよ。塗装の色は白やベージュ、クリーム色がほとんどですが仕上げた後、うちの会社には美大出身の塗装職人によるアートペインティングという付加価値を与えるオプションがあって。先日も飼い犬のワンちゃんを玄関の横の壁に描いてほしいと犬の写真を渡された。美大出の女性職人はお客さんとの打ち合わせ通り、ワンちゃんがご主人を見上げるような後ろ姿を壁に描きました。それがなんとも可愛くて。
これまでの人生で就活の時とか、化粧をしたことは数えるほどしかありませんが、そんな生活はこれからも続きそうです。いずれは実家のある福岡に戻り、塗装屋をやりたい。九州でうちの会社を広げたいと思っています。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama