【後編】入社3年目の本音「ガリガリ君の定番商品を生み出したい」赤城乳業・高橋翔平さん

■あなたの知らない若手社員のホンネ~ 赤城乳業株式会社/高橋翔平さん(25才、入社3年目)~

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若手の仕事へのモチベーションを訊こうというこの企画。中間管理職にとってそれを知ることは、職場での円滑な人間関係を築く必須条件だろう。20代のビジネスパーソンにとっても同世代がどんな仕事に汗を流しているのか、興味あるところに違いない。バラエティーに富んだ職種を紹介してきたこの企画、今回は超ロングセラー『ガリガリ君』を製造・販売する赤城乳業の後編だ。

シリーズ42回、赤城乳業株式会社 開発本部 商品開発部 研究開発チーム 高橋翔平さん(25)入社3年目。赤城乳業の『ガリガリ君』は、実に年間4億本以上売り上げる。高橋さんは入社以来、数か月前まで、『ガリガリ君』の開発を一手に担っていた。彼は2年ほどの担当でリューアルを含め、30近い新商品を開発している。

外側にアイスキャンディーの薄い膜を作り、その中にかき氷を入れる手法で作られる『ガリガリ君』は、微妙な変化で味や風味が変わってしまう繊細なアイスキャンディーだ。高橋さんは微妙で繊細な商品の開発に奮闘する。

初めての一発OK

繊細なのは味や風味ばかりではありません。『ガリガリ君』は、色にも慎重な気配りをしなくてはいけないのです。人気の高い『大人なガリガリ君 ぶどう』の兄弟分として、マスカット味を開発した時でした。高果汁の商品なので、選び抜いたマスカットの果汁を使って、研究室では味も風味も評判が良かった。色も薄緑の美味しそうなものに仕上がり、社長のオッケーももらえたんです。

緑色を作る時は添加物として青と黄の液体を混ぜるのですが、最終段階で僕は青の成分を気持ち、ほんの少し減らしたんです。そうしたら、工場でミックスした時に、中に入れるかき氷の液体が真っ黄色になってしまった。味は同じでも、マスカット味のガリガリ君が真っ黄色のかき氷では製品になりません。

「なぜ、決めた通りの色合わせをしなかったんだ!」課長には厳しく言われましたね。味作りは担当者の感覚に頼る部分が大きいですが、色を決める添加物は何をどのくらい混ぜればどんな色になるか、はっきりと数値化されているんです。研究室で決めたレシピ通り配合していれば問題はなかったのに、自分の感覚で色の成分を置き換えてしまった。

繊細なガリガリ君だけに、数値でやれるところは、それをしっかり踏まえなければと思い知らされました。翌日が生産日だったので、社長にオッケーをもらった色を確認するのに、夜中の1時までかかりました。

チョコミントは思い出に残る成功例です。うちはチョコミントのアイスを昔から製造していますが、チョコミントで『ガリガリ君』を作ることはできないか。

「チョコミント風味は好き嫌いが分かれるよ」

「チャレンジフレーバーだな」

「是非ともやらせてください。やるべきです!」

前年のコンビニの実績をチェックすると、4〜6月のチョコミントに売上げが来ている。

「いいんじゃない、それやろうよ」会議ではマーケティング本部長も賛成してくれ、社長もうなずいてくれました。

チョコミントは糖類を含んだ水を製材に、ミントエキス、りんご果汁等を入れて蜜を作り、かき氷と細かいチョコレートを投入し中身を作ります。チョコミントは溶けやすいので、外側の薄いアイスキャンディーの膜作りは糖類の種類と配合の割合を工夫し、溶けにくくして。

なぜチョコミントが印象深いかというと、「これいいね、この味だよ」「スースーするよ」とか、味の確認で上司から初めて一発でオッケーをもらえたからです。ホームランを打った時のような感覚を抱けました。

『ガリガリ君 リッチ』の定番商品を生みたい

こうして説明をしていると、『ガリガリ君』には多くの種類があると、おわかりいただけるでしょう。定番のソーダ味、果汁がたっぷり入った『大人なガリガリ君』、リッチタイプは文字通りミルクや練乳、クッキー等が入った豪華なガリガリ君です。2012年に発売され話題になったコーンポタージュ味もリッチタイプです。

「『ガリガリ君リッチうなぎ味』はどうでしょう」と僕も提案したのですが、「戦略的に今じゃないね」と上司に反対されました。シーフードヌードルにミルクを入れると美味しい。「『ガリガリ君リッチシーフードヌードル味』というのはどうでしょう」という提案も、上司の了解がとれず。

リッチのジャンルはコーンポタージュ味とかナポリタン味とか、奇抜なフレーバーの印象しかなくて。僕はそれが悔しかった。美味しいと誰もが認める、みんなに愛されるガリガリ君リッチの代表的な定番商品を生み出したかったし、上司も同じ思いだったと思います。

チョコミントの成功で味をしめたわけではありませんが、チョコだったらリッチの定番として、みんなが手に取ってくれるのではないか。「お前がやりたいようにやれよ」と、開発部署の先輩の言葉もあって、異動になる前、この夏に販売した新商品が、『ガリガリ君リッチ チョコチョコチョコチップ』。名前の通り外側も中身も、チョコがいっぱい入っている。リッチの定番はチョコという路線を打ち出したかったんです。

『ガリガリ君リッチ チョコチョコチョコチップ』は、バカ売れしたというわけではありません。でもリッチのカテゴリーの定番は、チョコという流れを作れたのではないかと密かに思っています。

昨年の冬に、『大人なガリガリ君 みかん』の開発に取り組んだ時は、果汁をどのくらい入れるかが難しくて。原料メーカーのみかん汁はフレッシュなものから、甘みが強い完熟まであります。「どれにしましょうかね」と、僕はつい先輩に聞いてしまった。すると、「まず、自分で決められるようにならないとダメだよ」と。まず自分の考えを述べないと、次に進んでいけないし、学ぶことができないという先輩のアドバイスでした。

ガリガリ君は繊細で微妙な味が表現できます。だから、普段の生活でも何かを食べた時に何が入っているのか、気づくことが大切で。自分で味について語れるように、舌は鍛えました。特に僕は甘いものが好きなので、会社に入ってこの2年半で、10㎏太った(笑)

何にでも美味しい食べ方があります。ガリガリ君は、冷たすぎると本来の味の感覚を逸することがある。季節にもよりますが5分程度、常温で置いて溶ける少し前ぐらいになったガリガリ君を、こうガブッと。

取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama