【前編】入社3年目社員の本音「『さやえんどう』から世界が見える」カルビー・伊藤健人さん(2017.12.17)

■あなたの知らない若手社員のホンネ
~カルビー・伊藤健人さん(25才、入社3年目)~

「若い部下の考えていることがよくわからん」という管理職の声をよく耳にするが、20代の社員は何を考え、どんなマインドを秘めているのか。また若い世代にとっても、同世代がどのような仕事をしているのか、興味のあるところだ。そこで入社3~5年の社員の話にじっくりと耳を傾け、彼らの本音に迫るのがこの企画である。

第5回目はカルビー株式会社の海外事業本部、伊藤健人さん(25才)入社3年目だ。

●『さやえんどう』から見える世界。

若い時から、ある程度の仕事を任せてもらえること、日本と海外の橋渡しのような仕事をしたい、それが就活時の企業選びのポイントでした。僕が入社した時は海外事業の収益が、会社全体の約12%ぐらいでしたが、この会社はテレビでも何回も取り上げられている松本晃会長が、「2020年までに海外比率を30%」と目標を挙げています。明確なビジョンの中で、キャリアを重ねていければと考えました。

研修後、海外事業本部に配属され、初めて海外出張は東欧の大国でした。市場調査を兼ねて、日本大使館を訪れる現地の政府関係者や貿易関係の人に、『さやえんどう』を試食してもらう機会を得まして。「こういうスナック菓子を、待っていた」と、現地の人の好反応に、商品力を確信しました。欧州でのカルビーの知名度はまだまだですが、やる気が湧いたといいますか。

ヨーロッパの多くの国のスナック菓子は、甘いものを除くと、ポテトチップスかトルティーヤの類です。海外では「ハーベストスナップス(HARVEST SNAPS)」というブランド名の『さやえんどう』は、油で揚げるのではなく特殊な製法で焼き上げた後、植物油を散布する。海外ではスナック菓子の豆も野菜という認識があります。原料のさやえんどうが約70%、高タンパクで比較的低カロリーでヘルシー指向。これまでにないスナック菓子というのが売りです。

カルビーの代表的な商品の一つポテトチップスの分野では、世界的なビッグカンパニーが君臨していて、アジアのマーケットを除き太刀打ちできない。でも、『さやえんどう』は、我が社が世界のパイオニアです。実は海外事業部の売り上げの7割以上は『さやえんどう』なんです。

日本の消費者は素材の味を大切にします。ですから、さやえんどうの味を引き立たせるために日本では基本、さっぱり塩味の一種類ですが、海外バージョンにはいろんな味付けの『さやえんどう』があります。北米と南米はチーズ味、トマト煮込み味、ブラックペッパー、レモン味等の8種類。欧州は5種類。

特殊な製法で焼き上げた後、植物油を散布するのですが、欧米の場合は油分と味の比率が日本と異なります。日本と比べて欧米の『さやえんどう』は味も濃いし油分も高い。原料はさやえんどう約70%ですから、ヘルシー指向に偽りはありませんが、消費者が袋を開く油分が袋についている。

「ハーベストスナップスはヘルシー指向を謳っているのに、この油は何!?」お客様相談室が集約した海外からのご指摘が、部署に上がってくる時もあります。そんな声を反映するために開発の部署にお願いをして、塩分や油分を微調整し、北米を中心とする生産工場にそのレシピを伝える。日本では定価約130円、海外では200〜230円の『さやえんどう』には、いろいろなお国柄が反映されているなと感じています。

●悪い噂

海外の商習慣の違いを実感させられる事態も体験しました。入社2年目は北米と南米の一部を担当したのですが、南米のある国でのこと。『さやえんどう』の風味を2種類から4種類に増やす過程で、パートナーシップを組む現地の卸売り業者を代えたんです。

ところが最初に契約した業者が、「ハーベストスナップスはお客さんの評判が悪い」「わが国ではあんなスナック菓子は売れないね」「この商品はお先真っ暗だ」等々、業者間に悪口を吹聴して回わった。
「ハーベストスナップスの評判、とても悪いですね……」新たに契約の締結を交渉していた業者は、悪い噂を耳にして渋い顔をしている。そこで上司と僕が現地に飛んで直接、交渉にあたりました。

「あられもない噂が立っていますが、市場調査のデータを見てください」、実際に売行きが伸びている詳細なデータを提示して、「事実無根の噂に惑わされないでください!」と。交渉は難航しましたが、契約締結に漕ぎ着けまして。2社目の現地の業社とは良好な関係が築けて、売り上げも伸びています。

なぜ契約を打ち切った業者は、悪評を流したのか。僕の想像ですが、売れ行き好調な『さやえんどう』が現地生産に切り替わったら、パートナーシップを組む業者に多大な利益をもたらす。最初の業者はそれをやっかんで、露骨に足を引っ張ったのではないか。手段を選ばず卸業者が他の卸業者を潰しにかかるのは、日本の商習慣ではまずあり得ない。上司の対応等をそばで目にして、むしろ海外でのビジネスではそんな情け容赦がないことが、日常的に起こり得るのだと自覚しました。

“仁義なき戦い”のような海外でのビジネスの厳しさを自覚した伊藤健人さんは、自らを「キッチリ、カッチリやりたい方」と語る。そんな性格からなのか、パニックに陥るような事態に遭遇していくのだが、そんな時の上司の一言は今も心に残っているという。

以下、後編へ。

取材・文/根岸康雄