3月12日の「世界腎臓病デー」を前に、2月18日都内でNPO法人 日本腎臓病協会と協和キリンによる「慢性腎臓病(CKD)」に関するプレスセミナーが開催された。当日は慢性腎臓病について、精力的に取り組んでいるNPO法人日本腎臓病協会の先生方が登壇し、疾患の解説と現状、予防の啓発について講演が行われた。
慢性腎臓病のあまり知られていない怖さとは?
最初に登壇した柏原直樹先生(NPO法人 日本腎臓病協会 理事長、川崎医科大学副学長腎臓・高血圧内科学主任教授)は、慢性腎臓病(以下・CKD)について、腎機能を表すクロアチンの数値が60未満、あるいはタンパク尿が陽性。どちらか一方、あるいは両方が3ヶ月以上、続くとCKDと呼ぶことを解説。その疾患者数は非常に多いと語る。
現在、CKDと疑われるのは、なんと成人の8人に1人、およそ1300万人にも及ぶという。CKDは進行すると将来的に腎不全、さらに進行すると末期腎不全となり、人工透析治療に移行するリスクが高い。さらに知られていない怖さはと、柏原先生は言葉を続ける。
「CKDは脳卒中や心筋梗塞、最近では認知症のリスクにもなっていることが、わかっています。心血管死亡への影響は喫煙と糖尿病を合わせても9.1%ですが、CKDは10.4%と極めてハイリスクです」
なぜ、CKDの治療が進まないのか。「腎臓は何も言わない。非常に我慢強い臓器ということに起因しています」と、柏原先生は指摘する。
胃や腸や他の臓器と違い、腎臓は悪化するまで痛みなどの自覚症状はほとんどない。だから腎臓は常に過小評価されがちである。そこが問題点だと指摘し、日本腎臓病協会として、今後もCKDの早期発見と早期の治療に寄与していくことを強調した。
国も腎臓疾患対策に本腰を入れている
20代~50代、1727例のアンケートを元に「慢性腎臓病に関しては、全体の半数程度の方しか認知されていない。特に若い世代には十分に伝わっていません」という発言は、次に登壇した岡田浩一先生(埼玉医科大学 腎臓内科教授)である。
CKDが悪化すると腎不全に陥る、その先に透析治療がある。そのことの認知度はあっても、「慢性腎臓病の悪化に伴い、将来的に心血管系合併症に結びつくことを、認識している方は2割弱でした」と指摘。CKDはその重症度によって18段階に分けられ、医師の介入の仕方もそれぞれ異なることに言及し、今後の方針として「若年や健康意識の低い集団に対して、効果的な情報発信を行うことによる啓発が、CKDの早期発見、早期治療につながります」と、説いた。
次に登壇した福井亮先生(東京慈恵会医科大学 腎臓・高血圧内科助教)は、2015~18年まで厚生労働省健康局難病対策課およびがん・疾病対策課に出向し、18年に発表した「腎疾患対策検討会報告書」を取りまとめたメンバーでもある。報告書に掲載された「かかりつけ医から腎臓専門医・専門医療機関への紹介基準」という、色分けされたわかりやすい表をスライドで紹介。これは福井先生がかねてより感じていた、健診を受けない人、健診で腎臓に異常が見つかっても、専門医にたどり着けない人を、なんとかしたいという思いから作成したものだ。
現在、人工透析の患者はおよそ33万人、毎年新たな透析患者が約4万人増えており、その42%が糖尿病性腎症だ。
「腎疾患対策検討会報告書」は、2028年までに新規の人工透析導入患者数を年間、3万5千人以下に減少させる等、この先10年で達成すべき成果目標をあげている。これらの目標は「国家的プロジェクトとして国の骨太の方針にも取り上げられています」と、先生は腎臓疾患対策に取り組む国の姿勢の本気度を強調した。
長寿と健康長寿のギヤップを埋めるには?
次に登壇した要 伸也先生(杏林大学 内科学(腎臓内科)教授)は、日本腎臓病協会が取り組む、腎臓病療養指導士の重要性を説いた。「CKD診療には生活、服薬、栄養を含む総合的な療養指導を継続的に行なっていく必要があります」と指摘。
腎臓病療養指導士は、CKD療養指導に関する基本知識を有した医療従事者を育てるための資格。CKDと腎疾患への医療と知識を十分に理解した上で、病気に対する正しい知識を患者に伝え、療養指導を実践する。CKDの診療を普及させるためには、そんなメディカルスタッフを幅広く養成する必要があると説く。
腎臓病療養指導士の対象者は、患者の近いところにいる看護師、保健師、管理栄養士、薬剤師だ。2017年から養成を開始し、昨年までに1051名が腎蔵病療養指導士として、認定されたことを要先生は報告した。
「少子高齢化が進む中で、健康寿命の向上が語られますが、寿命と健康寿命にはギャップがあります。このギャップを埋めるには、腎臓がかなり関与しています」セミナー参加者との質疑応答の際に、そう発言したのは、田村功一先生(横浜市立大学 循環器・腎臓・高血圧内科学教室主任教授)である。
CKDが脳卒中や心筋梗塞、認知症のリスクになっていることはすでに述べた。高血圧や糖尿病を防ぐために減塩に配慮した食事等に気を配ることは、腎臓を守るためにも重要である。腎臓を守ることで、健康寿命の向上が図れるのではないかと、田村先生は説くのだ。
最後に今回のセミナーの司会を務めた内田啓子先生(東京女子医科大学 腎臓内科 教授)が、30代40代の働き盛りの人たちにどのようにして、CKDとその治療法を周知させていくか、今後の大きな課題を語った。
そして、「皆様のお力をお借りして、国民の健康で長寿に腎臓協会も寄与していきたいと考えております」と、セミナーを締めくくった。
30代40代からCKDに気を配り、健診を欠かさずに受け、健康な腎臓を維持すること。それが、さらなる健康長寿につながっていくことを、強く印象付けるセミナーであった。
取材・文/根岸康雄