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部下を育てなければならない立場の課長職。その苦労はなかなか理解されない。気安く愚痴を話す相手もそうはいない。世の中の課長たちは働く現場で何を考え、どんな術を講じているのか。課長の話に耳を傾ける。
シリーズ第16回は旅行会社の株式会社JTB 営業第四課長 高橋要さん(40)。東京中央支店に勤務する高橋さんの仕事は法人営業。カタログに載っているパックツアーと異なり、法人向けの要望をヒアリング等でキャッチし、ニーズにあった団体ツアーを企画・提供する。現在、彼の部下はリーダー3名を含め24名だ。
抱えた問題はエキスパートと共有する、この仕事はそこが要
今のポストには3年ほど前に就いた。日常の業務では主にリーダーから報告を受けるが、20名以上いる部下一人一人に一言、声がけすることを高橋は心がけている。そんな中で気になるのは、問題を抱え過ぎたメンバーの様子だ。メンバーのことはリーダーと共有する。
部下たちはいろんな企画書を仕上げ、お客のツアーに添乗員として同行したりする。インセンティブのツアーなら、現地で表彰式や食事会を設ける等、一つのツアーにいろいろな手配が必要だ。メンバーは常に複数の団体ツアーを担当しているが、この仕事は誰かの力を借りないと前に進んでいかない面がある。
支店には営業を担う課が4つあり、総勢130人ほどのメンバーがいる。その中には宿泊施設やイベント会場、航空チケットや現地の移動手段等々、それぞれに強みを持っている人間がいて、顧客のニーズに応じてその強みを発揮している。
社内は釣りやマラソン等、趣味のサークル活動が盛んだ。それらを通して、課のメンバーが世代を超えて交流しやすい環境作りを進めている。メンバーはそれぞれのエキスパートに相談や依頼し、手助けしてもらえる環境が整っていると高橋は言う。
そもそも旅行はワクワク感を売る仕事だ
「抱えている問題を社内の詳しいに人間にタイミングよく相談したり、声をかけたりできるメンバーは心配ないのです」と、高橋は話を続ける。
だが、経験の浅い若いメンバーの中には、一つの企画のプランを完成させるのに時間がかかる人もいる。未完成な企画を複数抱え込み、問題に優先順位をつけられず、相談することもできない。そんな状態のまま1年で一番ツアーが多い10、11月の繁忙期を迎えると、複数のツアーで、必要な手配が滞る事態に陥りかねない。
メンバーがそんな状態に陥りそうになったら、上の人間が早く気付いてあげること。そして、大火事になる前に手を打つこと。
失敗のポイントを部下に諭すのは主にリーダーだが、
「誰にも相談せずに一人で抱えると、一番大事にしなければいけないお客様に迷惑がかかることになる。お客様側の担当者の立場になって考えてみなさい」
厳しい口調で部下を叱咤することが苦手な高橋も、ミスを隠そうとするような態度が見られると、このくらいは言って聞かせる。
だが落ち込んでいる部下に、さらにきつい言葉を発するのは、かえって逆効果になるかもしれない。部下のいい点を褒めて伸ばす、それは高橋が経験から学んだやり方だが、長所がすぐに見て取れないメンバーに、その術は使いづらい。こういう時は普段から、心がけている“一言の声がけ”が効いてくる。
ある若手のメンバーは、何気なく高校野球の話題をした時、目を輝かせ話に乗ってきた。高橋も高校野球の経験者だ。二人の話は盛り上がった。「それだよ、それ、そのワクワク感、その高揚感が伝われば、お客様に響くものが絶対にあるよ」高橋はエールを送るようにそう伝えた。
そもそも旅行業はワクワク感を売る仕事だ。高校野球に限らず担当者の高揚感がお客に伝われば、お客の旅への期待も増す。それが励みになるし、抱えた問題をすぐに社内の詳しい人に頼んだり相談したり、仕事を円滑に進めるタイミングをつかむことにつながるはずだ。
「組織は期限付きの家族だ」
仕事を通して人は育つ。この仕事はお客の感動を通して自分も育つ。
今年の5月末のことだ。1000人規模のハワイツアーを行った。野外パーティーは天候に恵まれ、美しいサンセットの後、打ち上がった花火は見事だった。ふと横を見ると、ツアーの担当者の目が涙で潤んでいる。普段は明るく涙とは無縁の男だが、内に秘めている部下の熱いものを感じ、高橋も込み上げてくるものがあった。
ふと、20代の頃のこれと似たようなシーンが彼の脳裏を過ぎった。だが、あの時は花火が上がる直前にスコールに見舞われて、お客が逃げ惑い、花火どころではなかった。
旅行業は喜びと落胆と、両方に遭遇する仕事でもある。
「組織は期間限定の家族だ」という言葉は前々任の支店長の言葉だった。
直属の上司である今の東京中央支店の支店長は、売上げの数字等も含めて勝ち続けている人である。コンプライアンスや個人情報等の扱いも大切にしている。ユーモアを解する上司だが厳しい。
課長のポストに就いた高橋は、今のところ2連勝中だ。2年連続して課の前年比の売上げを上回っている。今は課だが、次は支店の経営、そして会社の経営と、将来的に活躍の幅を広げていけたら、そんな思いを彼は抱いている。
高橋要、40才。プライベートではキャンプが好きだ。小学生の子供と一緒にキャンプに行ける時間を大事にしている。キャンプは旅行会社を使わないが、この夏は親の古希のお祝いを和倉温泉の加賀屋で行った。この時は会社のルートを使い、いい親孝行ができた。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama