「若手社員の本音」シリーズは、中間管理職が部下の若手社員を理解する助けになる企画だが、これは中間管理職本人が登場し、リーダーの“つらさ”を語ってくれる。上司と部下に挟まれ、孤立しがちな中間管理職は何を考え、何に悩み、どんな術を講じ、どんな生き甲斐を感じているのか。
シリーズ第12回、株式会社LIXIL サッシ・ドア事業部サッシ商品開発部 パノラマ商品開発室室長 中山佳之さん(45)。LIXILは住宅建材・住宅設備機器業界の大手。2011年4月、トステム、INAX、新日軽、サンウエーブ工業、東洋エクステリアの5社が統合し、商号を株式会社LIXILに変更。中山さんは前身のトステムの社員として、主力製品であるサッシ、窓一筋に仕事をしてきた。部下は12名。うち千葉県野田市の研究開発センター勤務の部下は9名。機械や建築等を専攻した社員たちだ。中山さんも学生時代は工学部系を専攻した。中山さんが室長に着任したのは、2年ほど前だった。
「ハイブリットサッシ」の効用
彼が所属するパノラマ商品開発室は、一般住宅用の窓の開発・改善の他に、サッシ事業の未来の展望を切り開く商品開発という使命を担っている。
サッシの進化を簡単に触れると、窓枠の素材といて断熱効果が優れている樹脂は、北海道で広く使われていた。02年頃から窓の耐熱性のニーズが高まり、樹脂サッシの耐熱性と、アルミサッシの強度を合わせ持つハイブリットが普及。アルミサッシの外側に、樹脂サッシを室内側に使うハイブリットは、劣化等を起しにくく断熱性もいい、冬の結露も防げる。現在ではハイブリットサッシが主流だ。ガラスを囲むフレームは細く極小化し、ダブル、トリプルとガラスを重ねたサッシも普及している。
自らもサッシの開発に携わってきた中山は、週のうちの多くを、野田市の研究開発センターで勤務している。
「僕もかつて上司を見て思いましたが、今の僕を見て、このポジションに就きたいと思っている研究所の部下は、少ないでしょう」中山は自嘲気味にいう。
何かあれば、「すぐに報告せい!」と上司に言われ、「この商品はこれぐらいだと売れそうなので」とか、コストの目標を見据えながら他部署と交渉したり。「目標に長期的と短期的とがあるがまず、短期的な目標を達成することに全力を挙げなさい」ということを上から言われれば、短期的にサッシ事業の売上げを上げていくためには、どうしたらいいのかを上司に提出したり。
室長に就いて、日々の酒量が増したという中山だが、パノラマ商品開発室の部員たちは、彼が担っているようなマネージメントへの志向が薄いのではないか。「僕も含め部下たちは元々、設計したり、もの作りを考えることが好きな連中ですから」
サッシ事業の未来の展望を形にすることを担う中山たちは、毎年画期的なサッシを商品化している。
「ここをなくそう」「あそこをなくそう」
昨年8月に発売した「LWスライディング」は、サッシの上下左右のフレームが室内から見えない。開けた状態でも閉めた状態でも、窓からの景色を遮るものがまったくない。一枚のガラス戸のようで、横にスライドさせて開閉する新発想の窓である。
主に開発を担当したのは、グループリーダーの立場にある部下と若手の2人だった。インパクトのある商品が欲しかったので、建築家や建築関係者の要望をヒヤリングし、開発に2年ほど費やした。
アルミと樹脂のハイブリット構造だが、サッシのフレームの露出はカッコが悪い。フレームインの構造にしよう。ハンドルも見えないほうがいい。「ここをなくそう」「あそこをなくそう」と、試行錯誤を重ね、一枚扉のサッシが試作された。
「窓ガラス開閉する時、外の壁側に引き込むレールがあるよね。そのレールに格子状の『アウターセット』を取り付けたら、住宅の外観をきれいに見せられる。格子状をスライドさせたら、日差しを緩やかに遮れるし、外からの視線を遮る機能にもなるね」それは、部下のグループリーダーのアイデアだった。「それはいい!」と、建築家や工務店の関係者からも好評だった。
同期の部下に「各メンバーのことを見てくれよ」
実はグループリーダーと中山は同期だ。同期で上下の関係になった。やりづらいかもしれないと中山は当初、同期の彼を気遣った。室長に就いた当初はグループミーティングもすべて中山が仕切った。するとメンバーは直接、仕事上のことを自分に報告する。
これはダメだな……と、彼は感じた。定期的に部下と一対一で話す機会を設けているが、「何に今一番困っている?」と中山の問いに、同期の部下の「うーん、存在感がないことかなぁ」という言葉も引っかかっていた。
「中山が言うから、やろうぜ」という若い部下への言い方も気になると、酒の席で中山は同期の彼に伝えた。
もっと主体的に関わらないと、仕事もうまく進まないだろうと中山は思った。そこで、「各メンバーのことを見てくれよ」と、彼は同期に提案をした。期限までにこの書類を提出する等、メンバーの実務のマネージメントをグループリーダーの同期に任せたのだ。中山は外側から、部署が取り組んでいる仕事のテーマの進捗状態や、マネージメントがうまくいっているかを見ている。
電話に出る時の声はいささか暗いが、同期の部下は我慢強く役割を担ってくれている。
「一時は2.7Lの焼酎のボトルが一週間でなくなった」という中山佳之だが、彼の仕事の取り組みからは、どうすれば部下が伸びるか、人知れず考えている姿が見て取れる。
部下を伸ばす彼流のやり方は後編で。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama