【リーダーはつらいよ・後編】「新興国相手に価格勝負はしない。付加価値のある商品で勝つしかない」アクア・中川省吾さん

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日々最前線で奮闘する中間管理職のリーダーたちは、置かれた現場で何を考え、どんな術を講じているのか。

今回は転職を2度経験した管理職を紹介する。前職を含め経験を積んだ中間管理職のベテランだ。上司の意向をよく聞き、部下の育成も担う。社内で愚痴は言えず、孤立しがちな課長さんだが、どんな術を用いてその職をまっとうしているのだろうか。

シリーズ第22回、株式会社アクア 業務用洗濯機事業本部 事業戦略グループ シニアマネージャー 中川省吾さん(41)。アクアの親会社は中国の大手総合家電メーカーのハイアール。アクアは旧三洋電機から継承した洗濯機事業と、冷蔵庫事業を中心に日本市場で展開する。中川さんのチームは、2017年下期にスタートしたコインランドリー機器の海外展開の事業戦略・海外営業を担っている。入社は18年4月だ。

手痛いしっぺ返し

企画のキックオフがあり、ある程度の設計構造の決定があり、品質部門、工場、生産技術等、各部署の合意を得てチームとして開発に取り組む。そんなきちんとステップを踏む日本流のやり方は、高品質の製品を生み出すために重要な意味がある。

だが、時にいささかもどかしいと感じることがある。中川もその一人だった。

前職のOEM供給が主流の電機メーカーで、プロジェクトマネージャー職にいた時のことだ。アメリカでの案件が決まった。テレビショッピングに8000台のプリンターを出品する。納期から逆算して、開発のスケジュールを組んだ。

納期に無理があるな…と思いつつ、受注したのでやらなければいけない。そこで通常の開発のプロセスを短縮したのだが、生産の段階でゴールドの色が思うように出ないアクシデントに遭遇する。新色の技術検証が曖昧なまま、強引に進めたことが原因だった。

問題の解決に時間がかかり生産が追いつかず、発売1ヶ月前になっても5000台しか完成しなかった。結局、納期を後ろ倒しに調整し、一部はAirを使って出荷した。

「だから日本流の段取りを踏むことに対しては、理解できるのですが…」今はまだ、受注生産をしている形だが、いずれいろんな国のお客と商談が成立した場合、競合他社とのコスト争いもにらみ、生産の効率化や部品調達の効率化、作業の短縮等、前職のプロマネの経験を生かして、考えなければならない。中川課長の課題は多い。

これは便利だ、洗濯乾燥機。付加価値で勝負

部下の女性の一人は、旧三洋電機から勤めているチームのお姉さん的存在だ。特に技術系の部下に対して、彼の話が言葉足らずの時は、「実は中川さんは言いたいのは」という感じで、フォローしてくれる。

彼女の仕事は商品企画で、国内規格に連携しながら、外国仕様のものを形にしていく。業務用コインランドリー機は技術的に過度期で、例えば国内に向けのキャシュレス化に対応した次世代の機種の開発は、海外にもヒモづいていく。

まずは国内を意識し、ニーズに合った製品を形にする。それを元に、主に東南アジア各国の規格を織り込みながら、海外展開していく。

海外事業の売上げは伸びてはいる。が、まだ大成功とは言えない。海外のメーカーとの競合がある。海外の競合企業が扱うのは、洗濯機と乾燥機が別々になった従来型のコインランドリー機だ。当初は中川も従来型の機種での勝負をシミュレーションしたが、価格的に海外の競合メーカーに太刀打ちできない。付加価値のある商品で勝負して勝つしかない。

中川たちが扱っているコインランドリー機は、洗濯機と乾燥機が一体になった洗濯乾燥機で、洗濯機から乾燥機に移し替える手間が省ける。従来型より高価だが便利な機種なのだ。現在、台湾等3カ国に出荷している。昨年は海外でマーケティング調査をしたが、各国のユーザーから“面白い”“使ってみたい”という声が寄せられた。需要はあるのだが。

「しゃあないなぁ」

「お前は詐欺師か!?」それは前職の上司の苦笑いだ。

前職で彼が主に担当したプリンター事業は当初は赤字ではあるが、2〜3年後のインクカートリッジの売上げを見越している。

「今は赤ですけど、数年後には」とか言葉を添えて、注文書ごとに赤字の稟議書を上司に提出するが、時には年数を経ても黒字にならないケースもあったりして。「詐欺師か!?」の苦笑いは、上司と中川との場慣れたコミュニケーションを物語っている。

今の上司の事業戦略グループの部長は、基本的には優しく、人の話をよく聞いてくれる。いろんな打合せに同席してくれるのはありがたいが、時にはまだ部長を入れて話をする段階でない場合もある。もう少し担当者に任せてくれてもいいかなと、思うこともあるので、「あれ部長、最近、ずっと席にいないですよね」という感じで、中川は遠回しにそれを伝えている。

心に残っているのは、前職でプロジェクトマネージャー(プロマネ)になった当時の上司だ。プロマネは開発プロジェクトをまとめる役割だが、「お前、どうするんだ!?」「ちゃんとやっているのか!?」上司に厳しく言われ、徹底的に仕事を教えられた。

だがある時、プロマネとして取り組んだ案件が自分の手に負えず、ニッチもサッチも行かなくなってしまった。

「申し訳ありません。うまくいっていません」思い余って彼は上司に報告をした。怒鳴られると覚悟していたのだが、上司は一言、「しゃあないなぁ」と。

関西弁のその言葉が今も熱く中川の胸に残っている。

上司は会社と掛け合い、彼の尻拭いをしてくれた。上との強い連携が築けていたから、上司は部下である自分の失敗を完璧にカバーしてくれたのだろうと、今でも思っている。

課長たるもの、部下とは余すところなく会話が出来て、なおかつ上司とのパイプを太くし、部下の尻拭いも完璧にできる。時には上司に対して意見できる関係を築くべきだ――、彼は思っている。

シニアマネージャー 中川省吾、41才。

大阪の自宅には妻と二人の子供がいる。小学6年の長男は男子では珍しい新体操の選手だ。最近、大阪の大会で息子が優勝した。それが彼の自慢である。

取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama