【リーダーはつらいよ・前編】「結婚して子育てをしながら働いたことで、仕事の質も量も高まった」ダスキン・梶原千左さん

今回は中間管理職の枠からいささか外れるが、このシリーズ初の部長の登場だ。現在、部長を務める部署の立ち上げに参加し、年間売上高約110億円に育てた女性部長である。

シリーズ第19回、株式会社ダスキン ケアサービス事業部本部 メリーメイド事業部 事業部長 梶原千左さん(59)。ダスキンメリーメイドとは掃除はもちろん、洗濯、食器洗い、買い物等、日常の家事全般を代行してくれるサービスだ。来年定年を迎える梶原さんは、この事業の立ち上げ時からのメンバーだ。1960年大阪府生まれの彼女、就活の時は雇用機会均等法もなかった。4年生大学卒の女子の就職先がなかなか見つからない時代であったが――。

家事代行のニーズ

「『うちは大卒男子何名、女子何名と決めていません。よかったら受けてください』電話で人事部に問い合わせたら、そんな返事だったので」

大阪府吹田市江坂町のダスキン本社の応接室で梶原は語りはじめた。ミスタードーナツ等を手がけるダスキンは当時から多角経営で、配属先の上司が新規事業開発部の担当となり梶原も呼ばれた。家庭向けの月額掃除サービスを展開するアメリカのメリーメイド社との事業提携の話が進む。

元々、ビルと家庭の清掃を手がけていた関係で、家事代行のニーズはあると会社は判断。「この事業には女性の感性が必要や。うちに来て欲しい」当時の担当部長に言われ、背中を押されるように、未知の新規事業のメンバーとなった。

1989年、豊中市に第1号店をオープン、「お掃除おまかせサービス」を開始した当初、部員は6名で梶原が最年少だった。現在、フランチャイズを中心に加盟店数は全国で750店舗以上、梶原の直属の部下は28名である。

出産後は3ヶ月で職場復帰

取材に同席した事業運営室の部下の女性は、二人の男の子のお母さんで現在、時短勤務中だ。午後5時には退社するが、販売促進の企画を一手に引き受け、地域の加盟店との連絡、ホームページや広告の制作。「まー、事業本部の人数が足りない中で、よく動いてくれるんですよ。彼女は亥年生まれで猪突猛進型やから」

かくいう梶原もよく働いた。新規事業は小人数だった。広告、販促企画、商材調達、マニュアル作り、顧客管理等々、各担当に丸投げだった。任された分、仕事が楽しかった。独身時代は新規加盟店がオープンすると、近くのホテルに泊まり込み初期研修にあたった。

その当時、「早く結婚してほしいな。結婚したほうがこの仕事に生かせるよ」とは、取引先の人や上司に言われていた。

だが実際に結婚し、子供が生まれると、「人が足りんのやから、早く出てきてくれるよね」と促されて、出産後は約3ヶ月で職場復帰。今は1年間の育休制度が整っていると説明する梶原だが、その語尾はいささか強くなる。

「うちの会社は社内結婚が多いんです。でも育休は必ずと言っていいぐらい女性が取る。男性社員に『あんたも育休を取りなさい』と、言ってやりたいんですよ」

子育て仕事に孤軍奮闘。でも「今のほうが仕事の量も質も高いよ」

取引先の会社に勤めていた夫は、穏やかな人だ。「会社辞めたらあかんよ、働いてね」と、若い頃から言われていたが、子育ては99%自分がやったという彼女。保育園に子供を迎えに行くため、平日は夕方5時半の地下鉄に飛び乗った。時には保育園から子連れで会社に戻り残業したこともある。子供が熱を出した時は保育園に預けられず、仕事を休めない時は車に子供を乗せ、「ここでちょっと待ってて」と言い含め、仕事に戻ったこともあった。

若干、目を潤ませ子育ての思い出を語る梶原だが、当時の上司の言葉が大変、励みになったとつぶやく。曰く「『梶原さん、独身でホテルに泊まったりして、バリバリやっていた時より、今のほうが仕事の量も質も高いよ』と、言われたんです」

事実、彼女の子育てと仕事の奮闘から得た発想が、エポックメーキングとなる新規のサービスに繋がっていくのである。

従来の「お掃除おまかせサービス」は、掃除の道具を車で運び、風呂も水滴なく拭き上げ薬剤も使い、家の指定された場所、あるいは家全体を磨きあげるようにピカピカにする。高額所得者をターゲットにしたサービスだが、そこまでやらなくてもいい。値段を半分ぐらいにして、サーっと掃除をして洗濯機を回して、洗濯物を干して取り込んでアイロンがけして。余った時間に買い物でもしてくれたら、共稼ぎの夫婦にとってどんなに楽か。

梶原は自分自身の経験から、これまでの「お掃除おまかせサービス」から敷居を下げた「ライトクリーニング」というサービスを開発するのだが――。

「梶原さん、できません!」

取材に同席した時短勤務の女性部下の話だ。彼女は猪突猛進型で仕事は早い。だが、「ちょっと息継ぎしなさい」と、梶原はアドバイスする時がある。例えば、掃除のサービスを贈るギフトカードを彼女は形にした。だがエリアごとに料金に違いがあり、差額が出た時はギフトカードを使う人に負担が生じる。ギフトカードついて、加盟店はどんな枠組みにするか等、課題が多かった。だが、猪突猛進の部下は「やるしかありません!」と。

「梶原さん、できません!」梶原が開発したライトクリーニングに、そう訴えたのは既存の「お掃除おまかせサービス」に従事するスタッフたちだった。スタッフは家をピカピカに磨きあげるプロフェショナルだ。適当にさっと掃除をやるなんてことは、彼女たちに通じない。

心のうちでは猪突猛進の梶原でも、新サービスの枠組みを新たに考えなければと悟る。

これまでとは違うスタッフを組織しよう。家庭の主婦にやってもらう。2時間で終わるサービスにしよう、彼女の中で徐々に新規サービスの枠組みが具体化していく。

2000年にスタートしたこの新サービスは、メリーメイト事業に新風を巻き起こすのだが、“女性の園”といわれる部署の中でスタッフ実に個性的である。そのへんの逸話は明日公開の後編で。

取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama