社内でも孤立しがちな中間管理職は、上司と部下に挟まれ、どのような苦労を重ね、日々の仕事を進めているのか。これは中間管理職の本音を紹介しようという新シリーズである。
シリーズ第7回は株式会社ローソン 中食商品本部 デイリー部 シニアマネージャー ベーカリー・デザートチームリーダー 坂本眞規子さん(43)。即食性の高いベーカリー、デザート、調理パンを担当するチームリーダーだ。3種類を合計したアイデムは常時およそ170種類。坂本さんもだが、社員は入社して3年間ほどローソンの店舗勤務を経験する。その後、商品部を希望し、商品開発を担うのがマーチャンダイザー(以下・MD)。現在シニアマネージャーとしてMDをマネージメントし、MDが考案した新商品をジャジメントするのが、彼女の主な業務である。2年前に今のポストに就き、7名MDの部下を率いる。
チーズケーキのハイブリット
坂本の生まれた前年の1975年に、ローソンの1号店が大阪府豊中市に開店した。中学生の頃、塾帰りにコンビニで買って食べた、イチゴ入りのシュークリームの美味しさに感激した。コンビニ業界を選んだのはその思い出が遠因にある。
サンドイッチ、調理パン、デザート3種類合わせて年間、およそ450アイデムの新商品をローソンの店舗の棚に並べる。彼女は部長とともに毎日のようにMDが考案し、業者が試作をしたものを試食し、ジャッジをしている。新商品のアイテムが多いこともあり、部下にはやりたいことをやってもらう、それが基本だが、上半期や下半期の目玉商品となると力が入る。
例えば、今年3月に発売されたデザートのバスチー。“バスク風チーズケーキ”という意味だ。「市場のトレンドでは、チーズケーキがいつも1〜2番に入っていますが」「チーズケーキは10年以上チャレンジしてきたけど、売れなかった」「単純なチーズケーキならどこでも買えます」
坂本がデザート担当のMDと、そんな会話を交わしたのは昨年の夏の終わり頃だった。
「新感覚のデザートがトレンドですよ。クロワッサンとマフィンを掛け合わせたハイブリットスイーツとか。チーズケーキも掛け合わせをしたらいいんじゃないですか」「ハイブリットチーズケーキ……」「固さと柔らかさと、両方の食感が楽しめる。味はプリンのような感じ」
世界のチーズケーキを調べると、スペインのバスク地方にそれに近いデザートがある。チーズケーキの上と下にカラメルがかかっていて、プリンのような味わいだという。MDは市場調査を欠かさない。バスク風のチーズケーキを食べさせる白金高輪の洋菓子店で、実際に食べてみると美味しかった。
10年ぶりの大ヒット
だが、美味しければ売れるというものでもない。女性がスイーツに求めるものは何か。手軽に食べられる、ワクワクする、SNSで発信できる等、MDのプレゼンを吟味すると、コンビニで流行る可能性が高い。
よし、やってみよう。坂本は了解した。
ターゲットの30代の女性が、口ずさみたくなるようなネーミングにしたい。パッケージはSNSで発信したくなるようなもの。担当のMDは新商品のイメージを社内のマーケティング部のプロモーションのスタッフに伝え、商品名やパッケージデザインが決まった。プレミアムロールケーキは発売5日で100万個を達成したが、バスチーは発売3日で100万個を記録。ロールケーキ以来、10年ぶりの大ヒット商品といっても過言ではない。
担当の30代半ばのMDは、しっかりと計画を立てスケジュールに沿って実行する。生産を担う大手製パンメーカー等との打ち合わせも万全だ。計画を立てるのはうまい。だが、計画変更となると戸惑う面がある。例えば「3月は100円値引きのセールをやるから、バスチーの発売は4月にしてくれ」とか別の部署から言われると、3月末の発売で売上げの数字まで考えていた彼女は、「えっ……」と困惑してしまう。
「いいように考えようよ」と、坂本は声をかけるが、計画にはイレギュラーがつきものだ。そこをどう気持ちを切り替え対処するか。リーダーは部下の成長に期待している。
その名も「はみでるメンチカツバーガー」
ローソンといえば、「からあげクン」や「悪魔のおにぎり」とか、“ハジけた商品”が目につく。バスチーもその一つに違いないが、坂本もMDの時代に、“弾ける商品”をローソンの調理パンの棚に並べた。近畿商品部にいた時だ。近畿は関東に比べ現場で仕事をする作業着姿のお客が目についた。本社で作る調理パンは、女性向けが多く小さめでおしゃれだ。それと真逆なものを提供したらどうだろうか。
マクドナルドのメガマックは、パンから具がはみ出ている点が男性の心を引いた。パンからメンチカツがはみ出ている商品を作りたい。
待て待て、ただパンに挟むだけではイマイチだ。そうだ、パンを揚げてみてはどうだろうか。揚げたパンに揚げた大きいメンチカツを挟む。そんな調理パンはなかった。その名も「はみでるメンチカツバーガー」。
「うん、いいじゃない。売れると思うよ」試作品を試食した複数の店の指導員の男性には、好評だった。コンビニのベーカリーは年間で200アイテム近い新商品が発売されるが、その多くは6週間で消えていく。ところがこの調理パンは近畿地区でよく売れ、全国発売になった。発売から10年以上経つがローソンのベーカリーの定番商品になっている。
「はみでるメンチカツバーガー」は、彼女にしか作れなかったが、「坂本さん、あなたがいなくても大丈夫ですよ」と、同僚に何気なく言われたのも、近畿商品部のマネージャーの時だった。多少ショックな言葉だったが、なるほどと感じるところがあった。振り返るとリーダーとして、部下に接する時の原点となった言葉だった気もする。以下後編に続く。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama