あなたの知らない若手社員のホンネ~協和キリン/吉岡紗衣子さん(27才、入社4年目)~
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いろいろな職種で奮闘する若手社員を紹介しているこの企画。今回紹介するランダムスクリーニングという職業にご存知だろうか。製薬会社の研究員が携わるこの仕事は20年先を見据えて業務をこなす。目先の数字に四苦八苦している中間管理職や若手社員は、この仕事にどんな感想を持たれるだろうか。
シリーズ第57回、協和キリン株式会社 研究開発本部 研究機能ユニット 創薬基盤研究所 吉岡紗衣子さん(27・入社4年目)。ランダムスクリーニングとは、新薬開発において、疾患細胞・組織等の疾患のモデルにいくつもの化合物や天然の物質を、実験室で手当たり次第に作用させ、人体に効力がありそうな物質を探す探索法のことである。
つまり偶然に頼る方法で、見つけられた物質はヒット化合物といって、新薬の第一歩となる。まぐれ当たりで新規のヒット化合物を発見する確率は0.1%以下、さらにその中からリード化合物といって、新薬候補化合物になるのは5%以下と言われている。理系女子、“リケジョ”の吉岡さんはそんな研究に従事している。
イメージが広がる、そんな発見がある
入社以来、私の関わった仕事で新薬に結びついたものは一つもありません。運良くヒット化合物を見つけても、そのヒット化合物を様々な視点で評価する。効果があるかもしれない、化合物の性格が良いと判断され、リード化合物と認知をされてからの道のりも長い。
それがどんなメカニズムで効くのかを証明し、安全性や有効性の確認のため実験を経て、さらに臨床段階の試験を繰り返して。私の日々の研究が生かされ、患者さんの元に新薬が届けられるまでに100人以上の人間が関わり、20年ぐらいの歳月がかかります。
成果が見えづらい、この仕事の醍醐味はというと、まず、実験してみないとわからないところで。最初に新薬のデータを取る部署ですから発見があります。
例えば、今は慢性腎臓病の患者さんは、人工透析に頼っているけど、あるタネは実験の結果、腎臓病にこれまで以上に効きそうだ。将来的に透析患者さんを減らすことに役立つかもしれない。そんなイメージが抱けるデータを、最初に見ることができたり。以前のデータではがん細胞を殺す効果があるとわかっていたが、違う実験をしてみると、別の細胞を増やすメカニズムがあるらしいと発見したり。
社内には腎臓、がん、免疫・アレルギー、中枢神経と各カテゴリーに専門の研究所あり、それぞれの研究所から例えば、人工透析をなるべくしないですむ、新薬の最初のタネを探して欲しいとかオファーがあって。運良くヒット化合物が見つかった時は、“将来的に画期的な新薬になるかもしれない”という喜びがあります。
私たちが発見したタネが、なぜ効くのかを突き止めるのは各カテゴリーの研究所です。新薬の完成まで、長い時間が必要です。だから、私たち研究員の気持ちの根底には、“患者さんを治したい“という思いと、”研究が好き“という気持ちを抱き続けないとモチベーションは保てません。
研究へのオリジナリティーが問われる
「吉岡さん、何がやりたいんですか?今後何をしていきたいの?」所長からそんな質問をされたのは、入社4年目の面談の時でした。これまでタネの入ったプレートを機械に入れ、発光を観察することで細胞の増殖を確認していましたが、「顕微鏡を装備した機械を使ったほうが、より細かく現象を観察できるんじゃないですか」とか。
そんな提案はしてきまたが、日々の実験・研究は「これをお願いします」という頼まれた仕事に従事してきて。受け身だったなとこの時、自分を振り返り改めて思いました。
「今、製薬会社は研究を外部に委託することが多くなっている。こういう時代だからこそ、この会社の研究員として、何をやるべきか、オリジナリティーが問われています。そこをちゃんと考えて」と、所長にアドバイスされて、その通りだなと。
何かを生み出すような提案をしたい。自分は何をしたいのか、自分の強みってなんだろうと考えました。
私は学生時代、ips細胞に取り組んでいたので、これで何かできないか。ランダムスクリーニングは、例えばタネに疾患のモデルとなる細胞を加え、細胞の数が増えるかどうかを評価するのですが、患者さんの細胞を入手するには、数も少ないしコストもかかる。患者さんにも負担を強いることにもなります。神経や脳の細胞は採集することができません。
利便性やコストの面から、今のスクリーニングは必ずしも、見たい病気の細胞を使うことができているわけではない。でも、ips細胞なら患者さんから提供された細胞を使い、何回でも疾患に似た細胞を増やすことができます。すでに神経や脳の疾患の細胞を作り出すことに、成功したという報告もあります。病気を反映した細胞を実験モデルとして新薬開発に使えれば、より正確なスクリーニングができます。
ips細胞を使ったいろんな研究は今、多くの研究者が取り組んでいます。私もips細胞を使った新薬作りの研究方法の工夫をしてみたい。
私、勉強は好きですよ。でも子供の時から要領が悪いんです。そんな私にはミクロンの世界で、地道にコツコツと宝物探しやるような今の仕事が向いている気がしています。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama