【入社4年目社員の本音・後編】「イケイケ営業がモットーですが、実はシャイなんです」ヤマト・宇井七郎さん

あなたの知らない若手社員のホンネ~ヤマト株式会社 リテール事業部 宇井七郎さん(28・入社4年目)

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様々な現場で働く若手社員を紹介しているこの企画、新入社員の3人に1人は3年以内に退職するといわれる昨今、若手社員が生き生きと、仕事に取り組む理由とは、若手社員のやり甲斐とは何か。中間管理職には“今時の若い子”のやる気を再確認する企画でもある。

シリーズ62回目はヤマト株式会社 リテール事業部 宇井七郎さん(28)。アラビックヤマトブランドで広く知られる糊の老舗メーカーは創業121年。社員は91名である。千葉県出身の宇井さんも転職経験者で、前職は中堅の自動車ディーラーの経理。学生時代に経験した飲食関係の接客のアルバイトは自分に向いていた。経理のルーティンワークより、人と会って仕事を進めていく営業職に就きたいと、4年ほど前に今の会社に転職をした。

勢いに任せる営業スタイル

最近では付箋の売れ行きが好調です。オフィスのIT化でペーパーレスが浸透し、文具の総務の部署の一括の購入が廃止され、一人一人が個別に文具をそろえる時代です。OLさんが自分の好みの文具に囲まれ仕事がしたいと、店で文具を選ぶようになったんです。

中でも付箋はデザインが豊富で、付箋を収集する人もいる。うちでは縦と横に5㎜間隔でミシン目が入っていて、好きな長さにちぎって使える付箋の商品とか。好きな長さに切って貼ってはがして使える、カッター付きのケースに入った蛍光カラーのロールテープとか、様々な商品を展開しています。

新製品が発売されると、いつもの営業スタイルで、「これとこれ、納品させてもらいますね」と、心やすい取引先には、いつもの量の倍くらい納入をお願いして。「社長のとこなら絶対売れますよ」と、笑顔で声がけをする。

アラビックヤマト以外のうちの商品のセールスは営業のテーマですし、代理店を通しての営業が多い中で、新規開拓にも力を入れていきたい。営業で地方を回ると、商店街は人口減でシャッターが閉まった店が多い。地方が元気になるようなことを手掛けてみたいなと。ふと気付いたのがご当地キャラと、弊社のアラビックヤマトとのコラボです。

“ぐんまちゃん”とコラボ、商品名は?

営業では既製品だけではなく、ラベルに名称が入った名入れ商品も手がけています。ラベルにご当地キャラの名前を入れた商品を、作ってみてはどうだろうか。そこで、群馬県を中心に土産物店への卸しを営む会社に電話をしたんです。すると社長が会ってくれると。これまでと違う取引先に、飛び込み営業を仕掛けて、果たして理解してもらえるだろうか。

群馬の先方の会社を訪問して、40代の社長にひとしきりうちの商品を紹介した後、「ラベルにご当地キャラをデザインした、お土産用の商品を考えているのですが」そんな提案を切り出したんです。

「なるほどね、見積もりもらおうかね……」そうは言っても、多くは社交辞令の言葉で、後から連絡をくれることはほとんどないんですが、

「あっ、宇井さん、この前の件やろうじゃないか」

そんな電話を社長からもらったんです。「えっ、ほんとですか!?」僕は思わず電話口で声をあげました。

「アラビックヤマトには、これまでも”のり”と”乗り物”かけてデザインを考案したり、”のり”を掛け合わせたものが多いんです」打ち合わせの時にそんな先例を社長に紹介すると、社長はうなずき「のりとノリを掛け合わせて、ぐんまちゃんがノリノリで踊っているデザインは、かわいいね」と。で、2018年6月に発売した群馬のご当地糊の名称は「アラビックのりのりぐんまちゃん」。

最初はこの会社の駅ナカの直営店での販売でしたが、今は群馬県内の土産店に置かれています。ある日、この糊を手に持った着ぐるみのぐんまちゃんの写真がツイッターにアップされて。

オレは本家のぐんまちゃんに認められる仕事をしたんだ、そんな思いがこみ上げてきた。

「そうか、シャイなんだ、僕と同じですね」

「やりたいことをやれ!」というのは、ゼネラルマネージャーの言葉で、直属の上司の課長は「報告さえしてくれれば、どこにでも営業に行っていいよ」という感じで、個人の自由度は高い会社です。課長は僕より16才年上ですが、入社してから千葉の同じ高校の先輩だとわかった。

仲良くなってプライベートでも、一緒に釣りに行ったり、お酒を飲みに行ったり。課長はちょっと飲み過ぎる時があって、酔っぱらうと寝ちゃう。そんな時は店から出るのに苦労しますけど、人を惹きつける笑顔の持ち主です。

人付き合いがいい課長で、競合他社やバイヤーにも知り合いが多い。バイヤーの中にはとっつきにくい人もいて、約束した日時に店に行っても「あれ、今日だっけ?」とか。「うちはメーカーに来られても、話をしないことにしているんだ」とか。

「どうしてああいう対応になるんでしょうかね」顔の広い課長にそう聞いてみると、「気にしなくていいよ。あのバイヤーはね、実はシャイだからそんな対応になるんだよ」と。「そうか、シャイなんだ。僕と同じですね、ハハハッ」と、話が盛り上がったんです。
えっ、ちょっと待ってほしいって? 勢いに任せてイケイケの営業をモットーにしているキミが、シャイだなんて信じられないって。

実はシャイな自分を強気のイケイケでカバーしてるというか。例えば飲食店で接客のアルバイトをしていましたが、僕はナンパとか絶対にできないタイプですよ。

だから、地味な仕事も嫌いではないんです。営業職だけではなく会社を俯瞰して見るには、前職のようなオフィスで数字を見る経理の仕事が、会社全体を見るにはいい。将来的には内勤に就くことも必要だなと思っています。

取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama