あなたの知らない若手社員のホンネ~/聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 猪子萌(27才、看護師6年目)~
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様々な現場で働く若手社員を紹介しているこの企画、今回紹介するのは看護師である。ほとんどの人は一生のうち何回か看護師にお世話になるが、医療現場で医師とは異なるその仕事とは?中間管理職も若手社員も“白衣の天使”の仕事ぶりは参考になるに違いない。
シリーズ第56回、神奈川県瀬谷市にある総合病院、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 看護師 猪子萌さん(27・看護師6年目)。担当は病床数52床の消化器外科。入院する人の半数はガン患者で、手術を行う患者がほとんどである。
つらい、辞めたいとか嫌になるとか、脳裏を過ぎったことは一度もないという彼女だが、時にはイラっとすることもあった。
「患者さんの方がつらいんだよ」
16時30分から翌朝9時までの夜勤が、月に6回ほどあります。夜勤は多い時で患者さんを10名ほど受け持つ。楽な勤務ではありません。業務にも慣れた2年目のある日、夜勤の時にナースコールを何回も押す患者さんがいて。ただでさえ忙しいのに、私は嫌になった。
「私は身体が一つしかないんです。他の患者さんもいるんで、ちょっと待っていてくれませんか!」と、少し強い口調で言ってしまった。その70代の男性の患者さんは寝たきりで誰も面会に来なく、寂しかったんでしょう。
「あなたは勤務が終われば、家に帰って好きなことができるでしょう。でも入院患者さんはずっと同じ状態でいるんですよ。帰りたくても帰れない。患者さんの方がつらいんだよ。それを考えてみて」そう主任の看護師に諭されまして。確かにそうだと。患者さんは管を身体に付け点滴につながれて。夜勤の時の自分よりも、ずっとつらい思いをしている。
医師は病気を治すことに集中する。看護師は患者さんの話を聞き寄り添うことが、何より大切だと、初心に帰る出来事でした。
つらい顔を見ていますから、患者さんの笑顔は本当に嬉しいです。「もえちゃん、退院が決まったのよ」「ほんとですか!あんなに痛い中で廊下を歩いたり、よくなることに一生懸命だっからですねー」私も笑顔になります。退院して外来に来院した時、「もえちゃん、元気?」と、わざわざ会いに来てくれる患者さんもいます。
認知症でガンを患った女性の患者さんは、部屋の中にずっといるのが、見るからに辛そうでした。土日は検査や手術がないので、余裕があります。「暖かくして、桜を見に行きましょう」今年はその患者さんと、院内の満開の桜の下でお花見をしました。桜を見上げていたおばあちゃんは、私に聞かせようと思ったのでしょうか。「さくら〜さくら〜」って、歌を歌ってくれた。
私の背中を押してくれた患者さんもいました。私は救急センターの看護師に憧れていた。でも、緊急時に命を救う医療現場に立つ自信がなくて。看護師として5年、このまま消化器外科でもいいかなと思っていたんです。
「もえちゃん、やりたいこと全部やらないとダメ!」
その40代の胃ガンの女性の患者さんも厳しい状態でしたが、抗ガン剤治療は全部やりたいと頑張っていた。私は患者さんの子供と同じぐらいの年だったし、可愛がってくれました。
癌の末期で、ベッドに寝たきりの状態だったある日、「もえちゃん、やりたいことないの?」と、その患者さんに聞かれて。「ほんとは救急をやりたかったんですけど、自信がなくて……」思わず胸の内を吐露した。すると患者さんは声を絞り出すように、「諦めちゃダメよ」と。「やりたいこと全部やらないとダメ、もえちゃんだったらできるよ」って。
患者さん本人は末期ガンで、予後が短いとわかっていても諦めずに頑張っている。それにひきかえ私は……。私が日勤の日の夜に、その患者さんは亡くなられて、お見送りは出来なかったのですが。
病棟で患者さんが急変した時、院内急といってすぐに救急の医師と看護師を呼びます。救急の看護師はトレーニングを受けていて。すべての治療は医師の指示のもとですが、心停止なら心臓マッサージを2分間、ダメなら電気ショックを施行、もう一回2分間、心臓マッサージをして再び電気ショック。それでも蘇生が難しい場合はアドレナリンを投与する。そばにいて“すごいなー”と感じていましたし、“よし!”あの患者さんに応えようと私は思った。
病棟の責任者の師長さんからも、「救命で研修を積んでみたらどう?」と声をかけられ、今、救急センターの看護師として研修を受けています。まだ1ヶ月ですが、急性硬膜外血腫で意識が混濁状態で搬送された40代の患者さんは開頭手術で、硬膜と頭蓋骨の間に出来た血の塊を取り除く大きな手術をした。
「セルフケア能力を上げていきましょう」と、先輩看護師がリハビリを促して。1ヶ月ほどで患者さんは、片手を動かせるようになりました。ご飯を自分で食べられまでに回復し、リハビリ病院に転院していった。
人の命はたくましい。もっと勉強して、看護師として、身体の異常な状態の判断を的確にできるようになりたい。子供ができたら夜勤は厳しいので、勤務先は考えるかもしれませんが、看護師はずっと続けたい。患者さんに寄り添って生きていきたい。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama