【前編】入社3年目社員の本音「持ち前の集中力が生んだ限定シウマイ開発秘話」崎陽軒・渡邉理佳さん(2017.12.07)

■あなたの知らない若手社員のホンネ
~崎陽軒 渡邉理佳さん(24才、入社3年目)~

「若い部下の考えていることがよくわからん」という声を耳にするが、20代の社員は何を考えているのだろうか。また若い世代にとっても、同世代がどのような仕事をしているのか。興味のあるところだ。そこで入社3~5年の社員の話にじっくりと耳を傾け、彼らの本音に迫るのがこの企画である。

第3回目は横浜を代表するソウルフードの一つ、シウマイで知られる崎陽軒は、弁当事業部新製品開発室の入社3年目、渡邉理佳さん(24才)だ。

●お刺身感覚の「いかシウマイ」

小さい頃からお母さんの手料理を手伝ったり、食べ物に興味がありました。大学では栄養士の資格を取得して、食品に関する仕事に就きたいと崎陽軒に入社しました。私の出身の横浜市の名物といえばシウマイとシウマイ弁当。ふるさとの味に携われる仕事に就けて、良かったと思っています。

研修後、最初の配属はシウマイ点心事業部 新製品開発室でした。豚挽き肉と干帆立貝柱やグリーンピース等を混ぜ合わせ、塩、砂糖、コショウ、デンプンを加えて一口サイズにして、皮で包み蒸し上げる、約90年間変わらぬ味を謳う崎陽軒のシウマイは、定番の一種類だけと思いがちですが、実は季節限定のシウマイもあります。私が最初に担当したのは、夏季限定のいかシウマイ。

“冷やして美味しい「いかシウマイ」”は、お刺身感覚でお召し上がり頂く。秋のきのこシウマイと同様、長く好評をいただいている商品ですが、様々な意見を反映する形で毎年、改良を重ねます。この時の課題は冷蔵庫で冷やし過ぎてしまうと「いかシウマイ」が固くなる。また、冷蔵庫で保管した商品に保冷剤を入れて持ち帰る時、結露で包装紙が濡れシミができる時がある、これらを改善できないか。

食感の課題は、それまでいかシウマイに使っていた馬鈴薯デンプンではなく、別の品種のデンプンを色々と試して改良しました。包装紙のシミの改善は、商品を包む機械との相性も判断する必要がありますから、何種類かの耐水性の紙で包装テストを繰り返して。保冷剤と一緒に袋に入れ、持ち帰りの想定時間を決め置いてみたり、さらに冷蔵庫に何日か置いてシミが出るかどうかも実験しました。その結果、包装機と相性が良く、シミができるのを軽減できる包装紙が見つかりました。

私の欠点はやることがたくさんあると、何から手をつけていいかわからなくなることで。今の弁当の新製品開発の部署に配転になって間がない頃、書類の作成と、調理場の方に弁当の食材の一部を取り置きしてもらうことと、もう一つ、上司に3つのことを頼まれました。昼を過ぎても一つも出来ずにいたら、段取りが悪いと感じたんでしょう。

「人にお願いしてやってもらうことから、優先的に取り組んでいかなきゃダメよ。相手の都合もあるし、後になってお願いしても、できないことだってあるからね」と、30代の女性の上司に注意されました。

それ以来、毎日やらなければならないことを箇条書きして、優先順位を決めるようにしています。でも、一方で私はこれということになると、集中するタイプといいますか…。

生姜汁でブレイクスルー

冬季限定は「おいしさ長もち 金目鯛シウマイ」。前年発売して「年末年始の手土産に良かった」等のお客様の声を元に、「今年も金目鯛で行こう」となりまして。まず、「金目鯛の煮付けのような風味を出そう」というコンセプトをより良くするために、市販の煮付けのタレをひき肉と混ぜ合わせ、試作のシウマイを作りました。ところが市販のものは照りを出すために増粘剤が入っていて、食感がくちゃくちゃになってしまう。

「これは失敗だね…」と、上司も厳しい表情でした。煮付けのタレを入れるのはやめて、醤油と砂糖の配合で煮付けの風味を出そうと。うす口醤油と濃い口醤油の配合を変えたり、砂糖の量を調整してより美味しくするための試作をしました。

「去年の金目鯛のシウマイは、魚が苦手な人から魚臭いという声があった」「魚臭さを消すために前年はおろした生姜を使ったが、生姜の匂いが出すぎていたな」先輩や上司とは、そんな話し合いをしました。魚臭さを取り除くために試作を繰り返す中で、「生姜そのものではなく、生姜の汁を使ってみてはどうでしょうか」という私の提案が採用されて、魚臭さの改善に繋がりました。

「肉と魚の柔らかい食感はイマイチ合わない。それも前年からの課題ですね」「シウマイが柔らかくなりすぎないようデンプンや小麦粉で調整しているが、小麦粉の中でも特殊なものがある。そういったものを使ってみたら案外いいかもしれないね」

そんな上司の助言で、業者に問い合わせ、何種類か提案された小麦粉を使い、何回もシウマイを作りました。材料を入れる順番も試行錯誤して、金目鯛と生姜汁を混ぜて、ひき肉を入れたほうがいいのか、それとも最後に生姜汁を入れたほうがいいのか、とにかく試作を繰り返したんです。

渡邉さんの格闘はシウマイだけではない。配転になると、持ち前の集中力で弁当開発に全力投入、オリジナル弁当を生み出していくことになる。

以下、後編へ続く。

取材・文/根岸康雄