日々急速に加速するIT化、そしてAI技術の進化。その発展の裏には新たなフィールドに金脈を見出した起業家たちがいる。彼らは金脈を掘り進むように、ベンチャー企業を創業しているが、掘り当てたものは近い将来、私たちの生活を大きく変える可能性を秘めている。この企画はIT・AI分野の金脈掘削人に、掘り当てた“お宝”は何か。それが近未来の私たちの生活を、どう変えようとしているのかを訊く。
第1回は株式会社オープンエイト。代表取締役社長兼CEOは高松雄康。5G普及を目前に控え、注目度が高まるスマホの動画だが、マーケティング業界に精通した高松はリッチコンテンツにいち早く注目し、2015年4月に創業した。
「動画」×「広告」に新たに金脈を見出し、配信プラットホームを立ち上げ既存の企業CMを配信。さらにCMの自社制作、そしてAIによる動画自動生成のツールの提供と、サービスを加速させている。これまで調達した資金は総額約40億円。「今期の売上げは二桁億までいってます」(高松)
そう話す“金脈掘削人”高松と、オープンエイトの金脈を3回に渡って紹介する。
情報発信の格差をなくすには?
渋谷区の雑居ビルの6階。70名ほどのスタッフの熱気が伝わる。ジャージのズボンを履いた高松雄康と、会議室で対座した。第1話は動画広告という金脈を掘り当てるまでの助走だ。高松のマーケティング奮闘記である。
「親父はビール会社の宣伝部にいました」
——では、幼い頃から宣伝関係に進みたいと。
「いえいえ、うちの家族は映画好きで。5才の時に親父に『戦場に架ける橋』を見せられた思い出があります。僕は映画好きでテレビも好きで。今の子がYouTubeを見るように、朝から晩までテレビを見ていた」
96年、エンターテイメント事業部がある博報堂に入社。大手自動車メーカーのCM制作担当に。販売店の数に合わせて、3人のチームで3ヶ月に20〜30本のCMを制作したこともある。博報堂には8年ほど在籍した。
「広報コンテンツの制作の仕事で、北海道や四国、山陰の町に行くと、都会と地方の情報発信の格差を痛感しました。この格差の解消はビジネスチャンスにつながる、マーケティングの真骨頂だなと漠然と感じていました」
情報発信の格差をなくす。後にオープンエイトの事業コンセプトの一つの柱は、このころから抱いていた。
ホリエモンやサイバーエージェントの藤田晋等、同世代のIT企業の経営者が、注目を集めている。ITが栄華を極める時代は目前に迫っている。憧れていた先輩も会社を去り、自分の道を歩んでいた。
当初は他界した父親が、退職金を元手に起こしたコンサルタント会社を継ごうと思ったが、経営の経験がない。退職金と自社株を売却して得た数百万円は、自腹を払って飲み歩いていた当時の借金に消え資金もなかった。そんな時、学生時代の友人の吉松徹郎から、「信頼できるメンバーで会社を再建したい」と、声をかけられる。
会社選びは人選び
吉松は化粧品等の美容系の口コミサイト、@cosme(アットコスメ)を企画・運営する株式会社アイスタイルを起業し、CEOを担っていた。
当時のコミュニティーサイトは、ほとんど金にならない事業だった。「@cosmeの口コミは怪しい、広告が入らない、化粧品メーカーからは敵視されているぞ」等、博報堂の大手化粧品メーカーの宣伝チームの人間に忠告された。わずか数十人の会社だったし給料は下がるし、アイスタイルへの入社を躊躇した高松だが、当時の役員の一人と朝まで飲んで意気投合した。
会社選びは人選びだ。こいつと一緒に仕事をしてみたい。役員としてアイスタイルへの入社したのは05年。会社のボロボロの内情を知ったのは入社してからだった。20名ほどの営業マンがセールスする、当時の@cosmeへの出稿料は一案件10万円ほど。原価が30万円はかかるのにこれでは逆ザヤではないか。社内は疲弊していた。
「小さなベンチャーなんかに転職して、高松も終わったな」周囲からそんな声が漏れ聞こえてくる。結果を出さなければならない。
「全部オレにやらしてくれ、体制を変えるぞ!」しびれを切らした高松がそう宣言したのは、入社から2ヶ月ほど経った頃であった。さてどうするか。
派閥を作らないと社内が回らない状況だ。まず、「俺のやり方についてくるのか、こないのか」営業マン一人一人と膝を突き合わせ、問い直し、二者択一させる大英断を実行した。さらに、「うちに来てくれ!」と、博報堂から自動車のCMチームの同僚と、人事関係の人間を引き抜く。高松を中心とした社内の体制を作り上げていった。
「雑誌の4色1ページのタイアップは150万円ぐらいだよね。専門誌とうちの@cosmeのユーザーの質は変わらない。だったらそれに近い金額で売ろうぜ」
10万円でも売るのも大変だったサービスを、一気に150万円で売って来いと高松は言う。「そ、そんな……」営業をはじめ、社員は荒唐無稽な彼の指示に唖然としたが、高松雄康にはある秘策があったのだ。
以下、2話に続く。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama