■あなたの知らない若手社員のホンネ~ エースコック株式会社/提坂緑郎さん(26才、入社3年目)~
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若手の仕事へのモチベーションにスポットを当てるこの企画。中間管理職にとっても20代の若手社員がどんな仕事に奮闘しているか、興味のあるところだろう。これまでバラエティーに富んだ職種に従事する若手社員を取り上げてきたが、今回はカップ麺でお馴染みのエースコック株式会社 関東信越支店 提坂緑郎さん(26)入社3年目。
大阪に本社を置く即席麺を製造・販売のエースコック。2018年4月で創業70周年を迎えた即席麺の老舗だ。発売30周年となる大盛りカップラーメンの先駆けの「スーパーカップシリーズ」を販売。05年発売の「スープはるさめ」等もベストセラー商品だ。
東京、池袋にオフィスがある関東信越支店に営業として配属になった提坂さん、部署の先輩社員は、年が一回りも違うベテラン営業マンばかり。仕事には厳しいが、後輩の面倒見がよく人情味に厚い。そんな体育会系のノリを感じさせる部内の中で、提坂さんは社会人として営業マンとして、鍛えられている。
「ゴルフ、やったほうがいいよ」
先輩社員には教えられることが多かったです。お酒の飲み方もその一つです。僕は長身ですが学生時代、体育会計の部活やサークルに所属した経験がありませんから、先輩や友人とお酒を共にする機会があまりなく、飲み方がわからなかった。
月の目標の数字を達成した時とか「飲み行くぞ」と、先輩たちと連れ立ってオフィスのある池袋の街に出ます。最初の頃は自分の限界がわからず、勧められるままに飲んで、必ずと言っていいほど酔い潰れました。
「お前、ほんと弱いなー」と言いつつも、先輩はいつもおごってくれ、酔い潰れた僕を介抱してくれて。「社内で酔い潰れるのはしょうがないで済むが、取引先との席では気をつけろよ」と、それとなく諭されました。お陰様で入社して1年を過ぎる頃には、自分のペースもわかり、酔い潰れることもなくなりました。今は酔って寝過ごし、埼京線の終点の川越駅で目が覚めて、深夜にタクシーで自宅の浦和まで帰るなんてこともないです。
お酒好きも多いですが、うち会社はゴルフ好きも多い。ある日のことです。40代初めの先輩社員に、「提坂くん、ゴルフやらないのか」と聞かれ、「やる予定ないです」応えると、「得意先と交流するにはゴルフがいい。やっておいたほうがいいよ」と。
僕は左利きで先輩社員からの道具のお下がりもなく、勧められるままに休日、先輩と一緒にゴルフ道具一式を買いに行き、夏のボーナスが全部吹っ飛ぶ感じで道具を揃えました。
今では、先輩に負けないぐらいゴルフ好きになりました。ちょっとお金はかかりますが、ゴルフをはじめたおかげで、取引先との交流はもちろん、総務や物流関係の社員とか、営業以外の社内の人たちとも、仲良くなることができて視野を広げることができました。
「何が言いたいの?」
人と話をすることに抵抗感がない。それは僕の長所でもあるし、営業向きかなと密かに思っていたのですが。セールストークがなっていないことも実感しました。入社3年目の初夏、先輩と二人で大手流通のバイヤーさんに商談に行った時のことです。僕は新製品の「焼そばモッチッチ」を売りたかったので、
「新製品の一番の売りは麺。手作りのような麺を再現しています。モチモチしている。これまでのカップのやきそばはお皿型のイメージでしたが、見てください。新製品はたて型で、女性が持ちやすい大きさと量でーー」
「ところでさ、何が言いたいの?」
夢中になって10分ほどベラベラしゃべっていると、対座していたバイヤーさんからそう促されまして。「えっ……」僕は一瞬、黙ってしまった。「そういう新製品が出たのはわかったけどさ、それをいったいどうしてほしいのよ。そこがちっともわからない」と、バイヤーさんに言われました。
「すみません」と、隣席していた先輩が「長い話になってしまいましたけど、これまでにない女性に受ける商品なので、特売の販売をお願いできれば」という感じで、助け舟を出してくれまして。
「バイヤーの反応を見ないで、一方的にしゃべったって伝わらないよ。何を伝えたいのか整理をして、数字を示しシミュレーションしながら、商談した方が伝わりやすい」バイヤーさんとの商談が終わった後、先輩にはそんなアドバイスをもらいました。
確かに成績のいい先輩社員の商談に同席すると、まずカップラーメン全体の市況の数字を上げて。スーパー、ドラッグストア、コンビニ等、季節ごとにうちの商品の売り上げの数字を示し、さらに商談を進める店舗がある県の数字を示して。「この商品は今の季節、スコアがいいですよ。特売をやらせてください」「次に棚割りを替える時はこの商品を売らせてください」とか。マーケティング部のデータを深掘りし、説得力のある商談を展開しています。
大きな体にこぶたの着ぐるみ
次の商談で失敗は許されない。以前しゃべりすぎて失敗したバイヤーさんの元に、再び商談に訪れた時は、年間の売上げの目標と、先月の売上げの数字の進捗や関連する数字を示して。「マイナス分を補うためにも特売をやらせてください」と。「女性が多く来店するドラッグストアは、新製品に最適です」と、焼そばモッチッチをセールスして、「だいぶ商談の流れが良くなったね」と、バイヤーさんには声をかけてもらえました。
営業としてやり甲斐を感じるのは、商談を通して希望通り、担当のお店の棚に自社商品を陳列してもらったり、特売を実行できて売上げを伸ばせた時です。
18年の3月、群馬にある僕が担当するストアに商談に訪れた時でした。去年、その店舗での売上げ目標達成までもう一歩というところまで来ていた。
「マイナス分をなんとかしたいんです。休日に試食を出してイベントをやれば、売上げが見込めます。是非お願いします」そんな提案をしたんです。
それまで、イベントをやったことがない店舗でしたが、実現することができました。身長184cmの僕には小さかったですが、うちのキャラクターのこぶたの着ぐるみを着て、「エースコックの試食販売を行っています。食べてくださーい!」と声を出して。ゲームをやって景品もつけて。子供や家族連れのウケが良かった。通常の倍ぐらい売上げました。
「提坂くん、新人の教育係をやってくれ」入社3年目で後輩が配属になり、課長からそう言われました。この秋から商談や担当の店舗の巡回等、新人と一緒に行動しています。
何せ僕は社会人として、できないことが多かったので、先輩にいっぱい怒られてきましたから。そういうことをしたらダメだよという感じで、怒られたことをそのまま新人に伝えればいい。そんな姿を見て先輩社員たちは「提坂も人を教えられるようになったんやな」と。
今、その言葉は僕に対するほめ言葉のように聞こえます。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama