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若い世代の仕事へのマインドを取材してきた本連載だが、今回のマインドはかなり熱い。高校中退のいわゆる叩き上げの若者の後編である。中間管理職も若い世代も、その汗の流し方には興味があるに違いない。この企画は入社3~5年を中心に若手社員の話にじっくりと耳を傾け、そのモチベーションを紹介する。
シリーズ第30回目は株式会社ホットランド 銀だこ事業本部 店長 織田一輝さん、アルバイトを含め入社4年目の21才だ。現在、秋葉原店と高島平店を任されている。
バスケットボールに燃えていた高校時代、部活の顧問の先生と対立し退部。勉強は嫌いだった。部活を止めたら学校に行く意味がない、教員の職にある親が止めるのも聞かずに、高校2年の夏に中退。たまたま友人に誘われ、銀だこでアルバイトをはじめたことが、織田さんの人生の扉を開いていく。
声を荒たてずゆっくりとした口調で、何回も同じことを彼に諭した店長。自分が率先して実行し、背中で教えるタイプの次の店長。たこ焼きの焼き方も覚えた彼は、人に認められることの実感を得ていった。
■オレにはたこ焼きを焼く力がある
最初に僕にたこ焼きの焼き方を教えてくれた店長が異動になって、次の店長も20代で、まん丸いたこ焼きを焼ける技術を持っている人でした。この店長も高校を中退していて、お客さんがいない時は昔の話をたくさん聞かせてくれました。
「オレもさ、遅刻しちゃったことがあってさ、シャッターに“今日は◯◯時から開店です”って、勝手に貼り紙したら、後で上にばれて。えらく怒られてさ」みたいな話を笑顔で聞かせてくれて。ユーモアのある店長でした。一緒に働いていて楽しかった。
一生懸命に頑張るだけじゃなくて、この店長のような感じでもいいんだ。失敗しても気にせず「すみませーん!」と上には謝って、その失敗を次に活かせばそれでいい、そう思えるようになったんです。
新しい店長が来て3ヶ月もすると、いろんな店舗に応援に行き、たこ焼きを焼くようになりました。たこ焼き作りのコツは肩の力を抜いて脇を締めること。その味はまん丸い表面のカリカリの歯ごたえと、中身はとろっとしていて。
銀だこのネタは決まっていますが、焼き方によって味が微妙に変わってきます。僕の焼いたたこ焼きを試食した店長やスタッフが、「うん、美味い」とうなずいてくれたり。お客さんから「美味しかったよ」と声をかけられると嬉しくて。自分でもたこ焼き作りの技術が、上達したと感じることができました。
自分の技術が通用するのを実感すると、店長の力になっていると思えるようになって。最初はいろんなアルバイトして、自分に合った仕事を探し、就職することを考えていました。でも、ここには僕を認めてくれる先輩たちがいる。僕を一目置いてくれるスタッフがいます。
銀だこに就職し、本腰を据えて取り組みたい、徐々にそんな思いを抱くようになりました。
「僕は高校を中退して、たこ焼きしかやってないんですよ。今後どうしたらいいのか……」
ある日、面識を得た地域の店舗を統括するスーパーバイザーの人に相談したんです。40代のスーパーバイザーは、若い頃からずっとたこ焼きをやってきた人で、親身になって僕の話を聞いてくれて。
「わかった。一緒にやらないか」という話は、その人からもらいました。「将来的に自分の店を出したいと思った時、たこ焼きの技術は絶対にキミの力になる。良好な人間関係の作り方やチームワーク、リーダーシップも学べるぞ」と。
部活の顧問とぶつかったことが原因で、高校を中退しているし、人間関係には苦手意識がありました。それを学べるというスーパーバイザーの話に魅力は感じたましたが。
でも……、同じ年の友だちの多くは大学に進んで、遊んだり勉強をしたり楽しくやっている。自分は果たして、就職を決めていいのだろうか。人生の岐路に立った気がして、正直ちょっと悩みました。
「3ヶ月あげるから、自分で決断しなさい」スーパーバイザーに胸の内を打ち明けると、そんな言葉が返ってきました。そして、僕なりに考えた末に出した結論はーー。
自分は高校を中退して、大学も入っていない。何もないけど、オレにはたこ焼きを焼く力がある。それでやっていこうと。