【前編】入社4年目社員の本音「謝っている店長の背中を見て、こみ上げてくるものがありました」ホットランド・織田一輝さん

あなたの知らない若手社員のホンネ~ホットランド/織田一輝さん(21才、入社4年目)~

若い世代の仕事へのマインドを取材してきた本連載だが、今回のマインドはかなり熱い。高校中退のいわゆる叩き上げの若者である。中間管理職も若い世代も、その汗の流し方には興味があるところだろう。この企画は入社3~5年を中心にした若手社員の話にじっくりと耳を傾け、そのモチベーションを紹介する。

シリーズ第30回目は株式会社ホットランド 銀だこ事業本部 店長 織田一輝さん、アルバイトを含めると入社4年目の21才だ。現在、秋葉原店と高島平店の店長を任されている。

まずは都内の高校をなぜ中退したのか。織田さんは語り始める。

■時給は970円。

僕はバスケットボールに打ち込んでいました。チームの中では一番うまいと思っていましたから。周りのミスで負けるのが悔しくて、オフェンスもディフェンスもやり、自分でシュートまで持っていくことができる、ポイントガードという司令塔の役割を担いたかった。ところが顧問の先生が「お前はゴールの近くで仕事をやれ」と。

納得いかないので顧問と話し合った時に、許せないことがあって…。「ポジションの不満を言う前に、遅刻が多いことを反省しろ」顧問は生活指導も兼ねていた。「でもそれとこれとは別のことで」「部室の鍵がなくなったのもお前がだらしないせいだ」そんな話も持ち出されて、頭にきましたね。我慢できなかった。もうこの顧問の元ではやっていけないと。

勉強は好きではない。バスケットボールがしたくて高校に通っていたので、部を辞めてバスケができなきなくなったら、学校に行く意味はないと思ったんです。

中退したのは高校2年の夏、学校の教師をしている親には「大学に行ってほしい」と言われましたが、聞く耳を持ちませんでした。

「織田くんさ、家にいるんならバイト手伝ってくれない?」家の近くの銀だこで、アルバイトをしている友だちから誘われたのは、高校を中退して間がない頃でした。

時給は970円、週に平日2回程度、8時間の勤務でしたが、積極的にやりたいことではなかったので、家で時間ギリギリまで寝ているとか、高校時代と同様に遅刻が多かった。

「自分一人の店じゃない。キミが入店して働ける状態になるまで、予定の時間を過ぎても残って仕事をしてくれるスタッフがいるんだ。他の人に迷惑をかけてはダメだ」

20代の店長にはゆっくりとした口調で、諭すようにそう言われました。「申し訳ありません。次から気をつけます」と、その時は謝りますが、僕の態度はいっこうに改まらず、相変わらず遅刻はする。

こいつ、何にも学んでいない……、今から思うと、当時の店長は僕の態度に呆れていたでしょう。でも、店長には遅刻をするたびにバックヤードの個室に呼び出だれ、一対一で決して声を荒立てずにゆっくりとした口調で、繰り返し懇々と諭されました。

■店長の背中

僕はもうこのアルバイトはやめようと思っていたんです。いろんなバイトを経験してから、自分にあった仕事に就職をしようと思っていた。そんな時、異動があって新しい店長に替わって。僕と3、4歳しか年が変わらない新店長は口数の少ない人でしたが、背中で見せるタイプといいますか。

例えば営業時間終了後に夜中、一人で掃除をして翌日、出勤すると店内がピカピカになっているとか。スタッフが少ない時は必ずその店長が店にいました。新しい店長はたこ焼きも、まん丸くきれいに焼くことができた。僕は出勤日も少なかったし、手先が不器用だったので皿洗いとかが主な仕事で、たこ焼き作りに関わることはほとんどなかったんです。

「どうだ、織田くん、作ってみるか」

アルバイトを始めて半年ほどして、新しい店長に声をかけられて。たこ焼きの作り方を一から教えてもらいました。まずたこ焼きの鉄板にネタを流し入れて、たこ、天かす、紅ショウガ、ネギの順番に具材を入れ、その上からまたネタをかぶせていきます。焼きながら千枚通しを使って返し、丸く形を整えていく。

僕は家で料理したことがなかったので、すべて初めての体験でした。まず、マニュアルで決まった適量のネタを均一に入れるのが難しかった。「オレの焼き方を見ろ!」店長には見て覚えろと言われました。焼き方のコツはボクシングのように、肩の力を抜いて脇を締めることです。緊張して肩に力が入ると動きがぎこちなくなって、たこ焼きの形に影響が出てしまう。まん丸いきれいなたこ焼きに仕上がりません。

店長の前で3回たこ焼きを作って、3回とも同じような仕上がりだったら合格ですが、僕の作ったたこ焼きに、店長がうなずいてくれるまで半年ほどかかりました。

徐々に勤務する日数は増えましたが、店でお客さんに頭をさげることへの抵抗はありました。なんで謝らなければいけないんだと思うことが、けっこうあった。例えばお客さんから削りぶし、青のり、ソースと注文が入って、その通り作ったのに途中で変更される。「はい」と返事をしますが、ムッとしてしまう。「それって、表情に出ているんだぞ」と、店長に注意されていたのです。

ある時、テイクアウトのお客さんに、紅ショウガを抜いて欲しいと注文されて。うちのたこ焼きは紅ショウガを入れることになっていますから。お待ちいただくのを承知の上で、別途に一つだけ紅ショウガを抜いたものを作らないといけない。

「5分ぐらい、お時間いただきますよ」

「でも、他の店では3分でやってくれたよ」

「でも、今の時間帯ですと5分は必要でーー」反論してしまって。多分、僕も剣のある目つきをしたのでしょう。ちょっと険悪な雰囲気になってしまった。すると店長が躊躇なく店から飛び出して。店の前で「申し訳ありません」と、深く丁寧に頭を下げて謝り、「すぐにお作りします」と。

謝っている店長の背中を目にして、込み上げてくるものがありました。反省しなければと思った。商売はお客さん一人一人に、丁寧な対応をしていかなくてはいけない。頭をさげる大切さを学んだ出来事でした。

アツアツのたこ焼を特製のさっぱりとしたおろし天つゆに浸して食べる「ねぎだこ」。680円(税込み)

僕の遅刻ぐせは仕事がある程度できるようになっても、なかなか治りませんでした。ある時、開店時間に遅れてしまって。「おはようございます」と言ったら、「遅刻してきて最初にごめんなさいも言えないの?」と、店長にポツリと言われまして。無口な店長なだけにその言葉は僕の中に残りました。店長はしばらく口をきいてくれなかった。

申し訳ないことをした。もう怒られたくない、この店長には認めてもらいたい。この時もそんな気持ちが込み上げてきて……。

自分をわかってくれる人は誰もいない。高校を中退し、これからどうしていいのか。進路を見つけかねていた織田さんにとって、「銀だこ」は文字通り社会への扉であった。扉を開き歩きはじめた彼に、どんなことが待ち受けていたのか。彼の成長物語は後編に続く。

取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama