あなたの知らない若手社員のホンネ~Hotels.com/モリセイ雅さん(28才、入社3年目)~
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20代の部下との良好な人間関係に、外資系企業の社員の話は参考にはならないという声もあるだろう。だが、新卒の離職率が3年で3割と言われている現実がある。なぜそんなに若い人が離職するのか。いったい日本の会社に何が足りないのだろうか、今回、その答えの一端を垣間見れたように感じた。
入社3~5年の社員のモチベーションと本音に迫るこの企画、第18回目は200の国と地域で50万軒以上の予約可能な施設を保有すし、サービスを展開する外資系企業、エクスペディアホールディングス株式会社 マーケティングマネージャー Hotels.com日本地区 モリセイ雅さん(28才)。ニュージーランド人の父と日本人の母を持つハーフの彼女は、ニュージーランドの大学を卒業後、バイリンガルが活かせる日本企業に就職。前職に3年半在籍し、転職して今の会社に約2年半。ハーフで外資系企業に勤務、マーケティングを担う、そんな彼女のマインドは極めて日本人的。好奇心が旺盛なのは長所だが、断るのが苦手な性格から、薦められるままに何種類かのマーケティングチャンネルを深掘り、ワークライフバランスを崩してしまう。
■そんな働き方自体が失敗
今の私の仕事は海外支社にいる各マーケティングチャンネルの担当者と話をして、より日本でのマーケティング活動が、効率的になるかを調整することです。Hotels.comの日本サイトのマーケティングを多角的な視点から考えて、日本でのマーケッティングのチャンネル一つ一つを育てていく。
マーケティングのチャンネルはたくさんあります。入社当時は例えば、うちの会社が運用するソーシャルネットワークの一つであるLINEのコンテンツに、クーポンを入れるべきか、それともセールスの情報をもっとプッシュすべきなのか。海外にいるその部署の専門のスタッフと話を重ね、実際にテストをしたりして。それを私は日本のHotels.comの担当者として、海外の統括チームに報告し、意見交換したり。
アフィリエイトマーケティングでは、例えば日系の航空会社や銀行、クレジットカード系企業等のパートナー企業が運営するウェブサイトに広告を出します。サイトに載っているHotels.comの広告を経由してホテルの予約が入った場合は、サイトを運営する企業に手数料を払う仕組みです。パートナー企業を経由し、売上を伸ばしていくことが目標となりますが、パートナー企業への出稿には、入稿素材等の締め切りがあります。
気づいたら夜遅くまで会社にいて終電に間に合うように、駅まで走るような日々になっていて。そんな働き方をするようになったことが今から思うと失敗でした。
「効率的な方法を一緒に考えましょう」ワークライフバランスが崩れた状態に陥っていることについて、日本と韓国を統括する私の直属の上司に聞くと、そんな言葉をもらいました。自分の仕事は自己責任で管理していく必要がありますが、社内の協力は得られます。失敗しても上司から叱責されるような文化は、この会社にはありません。
「どうすればいいと思う?」上司に問われて、「優先順位を決めてやっていく必要があると思います」と応えると、
「日本のHotels.comの成長に一番影響するチームを優先して、後でもいいプロジェクトは、納期をずらして現実的にまわしていきましょう」上司にはそんなアドバイスをもらいました。
■巨大な“ナンパグ”の成功
優先順位の高いものは、その時々によって変化しますが、例えばブランドチャンネルの中に含まれるテレビCM。ブランドの認知向上を図るためには、CMは欠かせません。昨年の一時期はテレビCMの制作に力を入れました。
それまでのCMは犬のブランドマスコット、ナンパクを小さく使っていましたが、もっとターゲットを絞り、インパクトのあるCMを制作して、ブランド認知向上を図りたいと私は思った。“テスト・アンド・ラン”、失敗を恐れ躊躇するより、チャレンジして学んだほうがいいという文化が、この会社にはあります。
そこで、巨大なナンパグをドカーンと出す。“Hotels.comを使うと、ビッグなリターンがあります”というメッセージをこの時のターゲットのビジネス層と、女子旅層に伝える、そんなアイデアはどうだろうか。
「巨大なナンパグは日本のお客さまに、受け入れられるものなのかな……」という声も社内にはありました。
巨大なナンパグを使ったテレビCMなんて、誰もやったことがない、どうしようか。そこで、大きなナンパグを使ったCM案と小さなナンパグを使ったCM案をウェブ上で、ターゲット層に見てもらい、アンケート調査を実施したんです。結果、大きなナンパグが印象に残るという反応が多かった。新しいテレビCMのチャレンジはやってみる価値があると、データの分析で証明することができまして。実際にCMを流すと、思ったような結果が得られまして。これも評価され、その後の昇進に繋がりました。
外資の会社だからなのでしょうか。日本企業の多くは担当者レベルで決めて、上に上げていくシステムですが、この会社は一人の責任が大きい。「日本のマーケティング担当として、あなたはどう思いますか」そんな問いに私が応えると、「じゃ、やってみよう」と。担当者判断でスピーディーに決めることができますが、その分、私の発言や考え方には責任が伴います。
ワークバランスは、改善していかなくてはいけないと思っています。でも、仕事の優先順位を決め、自分の精神力等や能力を考慮しながらも、仕事を進めていく今の環境は好きですし。会社では年に一回、香港オフィスで「事業進捗報告会」を開きます。Hotels.comで働く世界各国のオフィスの担当者達が集まり、マーケットの最新トレンドや事業進捗等の情報を交換しようと。
昼間は真剣な論議をしますが、夕ご飯の後は飲み会になります。私もお酒は好きなほうですから、国籍も上下関係も年齢も関係なく、大学生のようなノリで大騒ぎをして楽しむ。“ワークハード・プレイハード”よく働いてよく遊べ、そんな文化も徹底している会社だなと感じていますね。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama