【後編】入社5年目社員の本音「結局は人だ!」明治・西村光平さん(2018.02.16)

■あなたの知らない若手社員のホンネ~明治・西村光平さん(27才、入社5年目)~

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20代の部下との良好なコミュニケーションは中間管理職に取って必須の課題だ。そのためには彼らの仕事に対するマインドを知る必要がある。若い世代にとっても、同世代がどんな仕事をしているのか、興味のあるところだろう。この企画は入社3~5年の社員の話にじっくりと耳を傾け、そのモチベーションを紹介する。

第11回目は株式会社明治。菓子マーケティング部調査グループ、西村光平さん(27才)入社5年目だ。

営業職として最初の赴任地、札幌ではクセのあるバイヤーに、バックヤードで2時間立たされたり。厳しいマネージャーに叱咤され出入り禁止になったり。「自分のカラーをしっかり出したほうがいい。意志を持って仕事に取り組め」という大先輩の言葉が脳裏に残る。真摯に接する以外ない、自分なりに営業のコツがわかりかけた頃、長野県の事務所に転勤になり、間もなく大失敗を引き起こす。

■欠品の異常事態

長野ではスーパーの本部の菓子部門のバイヤーさんとの商談が、主な仕事でした。長野県内で多くの店舗を展開するスーパーは社長の権限が強い。その社長がうちの「チョコレート効果」という商品に注目したんです。このチョコレートはカカオポリフェノールという成分を多量に含んでいて、健康志向のチョコレートとして知られている。

「バレンタインデーに向けて、キャンペーンを展開し、これを大々的に売っていこう」と。そんな企画はうちのとっても望むところで、地元の放送局とタイアップして。番組の中で長野の有名なパティシエに、「チョコレート効果」を使ったデザートを作ってもらう準備も整った。スーパーの名前入りのチラシも用意して、「バレンタインデーのプレゼントに最適」「地元放送局の放映もあります」と大きく謳って。需要を見越して大量の商品の入荷も完了した。

さあ、売るぞと思った矢先のことでした。タイアップの番組の放映やチラシの配布の前に、NHKでカカオの効果やチョコレートの効用について、取り上げた番組が放映されたんです。その影響でスーパーの売り場に山積みされた商品が、一瞬のうちに売り切れました。テレビ放映もチラシの配布も迫っているのに、スーパーの売り場に商品がないという異常事態が発生したんです。

バイヤーさんから入荷を催促されても、ただでさえ品薄の商品ですし、バレンタインデーと重なってどうにもならない。

「社長の肝いりの企画ですし、なんとかなりませんか」「少しでも入荷を」「明日、少しなら…」「明日入るの!?何個入るの!」

僕の父親ほどの年のバイヤーさんからは毎日10回以上、電話が入る。そのたびに「すみません!」と。

欠品を解決する手段はない。催促の電話に居留守を使うという方法もあったのでしょうけど、逃げずに一つ一つ誠実に応えるしかないと思った。かかってきた電話には必ず出て謝りました。スーパーの本部を訪ね、バイヤーさんの顔を見て頭を下げて。相手も商品が入荷しない理由をわかっていましたし、僕がそんな対応を毎日しているうちに、不思議と心が通じ合えたというか、バイヤーさんと仲良くなりまして。

あいつは失敗をやらかしたけど、ちゃんと対応してくれた、バイヤーさんはそう思ってくれたに違いない。僕が配転になっても後任者に対して悪い印象は持たない、そんな確信を持ちました。

■結局は人だ

長野では上司は高崎市内に駐在していましたから、長野での仕事はほぼ一任されていました。営業の範囲は長野全域ですから、車で月に3000kmぐらい走りました。スキー場が多いのも長野ならではで、「山上げ」という営業があったんです。スキー場に商品を運ぶ定期便はないので、商品一つ一つに自分で値段のラベルを貼って車に積み込み、雪道を走ってスキー場に届ける。

「そんなことをしても、費用対効果に合わないでしょう」営業会議ではそう指摘されました。でも歴代の先輩たちが築いた人間関係ですから、僕も真摯に取り組みたかった。今は会社の指示で終了しましたけど、経験できてよかったですね。

「山上げ」をやってみると、スーパーや量販店とは違うものが見えてきました。スキー場の陳列棚は量販店よりはるかに品揃えが少ない。棚に置く商品をよく吟味しないといけない。量販店と違い、お客さんはパッと見て素早く商品を手に取る。小腹を満たしたいんです。チョコレートを買いますが、板チョコは体温で溶けたり転んで、ボロボロになったりするからあまり好まれない。『CUBIE』という一口サイズのチョコがよく売れた。携帯に便利な果汁グミも好まれました。

マーケティング部に異動になってまだ1ヶ月ほどですが、スーパーや量販店だけでなく、特殊な環境での売れ筋を観察できたことで、細かい視点で商品を見ることを覚えた。商品の販売とサービスの促進という今の部署の仕事に、その見方は必ず役立つと思っています。

あるスキー場の社長には、「菓子より、カレーライスの方が利益率は高いよ」とか言われましたけど。「最近、売り上げはどうですか」雪道を運転して幾つかのスキー場を訪ね、挨拶をすると責任者は嬉しそうな顔をしてくれて。異動が決まった時は餞別に、ビールを1ダースくれたスキー場の社長もいました。

結局は人だ、営業で何より大事なことは人を裏切らないことだ――3年以上、長野での営業を経験し、そんな思いをはっきりと持つようになりました。

これからの時代、AI(人工知能)が発展し、今ある仕事の半分以上はAIに取って代わられると言われています。でも人間関係が要となる営業職は、機械に取って代わられることはまずあり得ないでしょう。営業の仕事を通して人間関係を築き、信頼を勝ち得る術を学んだことは、僕にとって大きかったですね。

取材・文/根岸康雄