【後編】入社3年目社員の本音「ミスをしたって死ぬわけじゃない、ビジネスはキレた方が負け」カルビー・伊藤健人さん(2017.12.18)

■あなたの知らない若手社員のホンネ
~カルビー・伊藤健人さん(25才、入社3年目)~

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「若い部下の考えていることがよくわからん」という管理職。若い世代にとっても、同世代がどのような仕事をしているのか。興味のあるところだ。20代の社員はどんなマインドを秘めているのか。入社3~5年の社員の話に耳を傾け、彼らの本音に迫るのがこの企画である。第5回目はカルビー、海外事業本部の伊藤健人さん(25才)入社3年目だ。

海外戦略の主力商品である『さやえんどう』。日本では基本的に素材を引き立たせるさっぱり塩味が売れ筋だが、海外ではチーズ味、トマト味、ブラックペッパー等々があり、お国柄の違い感じた。日本にはない海外の商習慣の露骨さを垣間見て、海外でのビジネスへの取り組みを自覚した。そして――

●黒い変色

入社2年目は北米と南米の一部を担当したんですが、アメリカには弊社の工場が3つあって、僕はオレゴン州の工場で『じゃがビー』を担当したんです。日本で売られている『じゃがビーは、アメリカの工場で100%生産されています。日本の品質保証部の人たちを同行して現地工場に入り、細心の注意を払っているのですが、日本の厳しい品質管理と比べるとアメリカの場合は多少緩やかでして。

工場ではじゃがいもの皮等を取り除くピッキングを経て、油で揚げるフライの工程に入るのですが、皮がわずかでも残っているとフライにした後、虫の死骸のように黒く変色したものが残ってしまい、容器の中に混入してしまう。それがクレームとして指摘されたのです。

「日本の人、神経質すぎますね、アメリカ人はそんなの気にしない」説明しても、工場の40代の担当者は首を傾げて、両手を広げるばかり。「日本のお客様は世界一、目が肥えているんです」黒く変色した証拠写真を見せても、なかなか理解してもらえない。

「原料の生地から皮等を取り除く、ピッキングの作業を徹底してもらいたいんです」そんな要求に現地の責任者は難しい顔をする。ピッキングの作業をより充実させるためには、ピッカーの人件費や廃棄費用で、かなりの金額になります。

オレゴン州の工場は100%出資の子会社なので、結果的に僕らの要求を実行してもらいましたが。海外で商売をしていると、日本の消費者がいかに厳しいかを実感させられますね。それをビジネスの相手に理解してもらうことが、大事な仕事だと痛感しました。

●キレたら負けだぜ

3年目の今は、主に香港を中心にアジアを担当しています。アジアは『さやえんどう』ではなく、『ポテトチップス』と『じゃがビー』がメインです。原料のじゃがいもは香港の現地工場で調達しますが、資材は日本から船便で送ります。調味料、商品のパッケージの資材等々、多い時で40アイテムほどコンテナに混載させて、毎月香港に輸出しています。

僕はカッチリ、キッチリとやりたい方ですから。各サプライヤーに資材を発注して、乙仲業者といって、輸出の実務や混載に関することや通関業務を代行する事務所とコンタクトを取り、輸出に関する書類を揃える。書類のパッキングリストには、アイテムごとに何㎏の段ボール箱が何個と明記します。それぞれの段ボールの個数が書類上の数字と合っていないと、通関が通らない、出荷できない事態になってしまう。ですからこの仕事に取り組む時は緊張しているのですが、ある時のことです。

「書類に記載された段ボールの個数と、こちらに届いている個数が違うんですよ」

乙仲業者から電話があった。ある資材の段ボールの個数が書類上の数字と異なっている。このままでは輸出できない。資材の到着に遅延が生ずれば、現地に迷惑をかけてしまう。

「聞いていた段ボールの個数と、違うじゃないですか。どうなっているんですか!」

香港への資材到着を遅らせるわけにはいかないという焦る気持ちから、サプライヤーの会社への電話はつい、語尾が強いものになってしまった。

「個数は違っても、おたくさんの注文通りの数は入っていますよ」そんな内容の憮然とした声が受話器から聞こえてきました。サプライヤーもその時の段ボールの在庫状況でサイズの異なるものになってしまったんでしょう。

でも、こちらとしては個数が変動してしまうと困る。電話口でやり取りをしているうちに、

「そのくらいの融通が利かないんだったら、おたくさんとの取引は止めますよ!」と先方が怒って、電話を一方的に切られてしまったんです。すぐに電話を掛け直したのですが、別の人が出て担当者は「タバコを吸いに外に行った」と。

「まずいな、あのパッケージの資材はカルビーが特注したもので、扱っているのはあそこのメーカーだけなんだ」連絡を入れた香港駐在の上司から、そんな内容の話を聞きまして、

『今後はもう少し早い段階で、個数を納品書に明記していただき、こちらに送っていただく形でご了承いただけないでしょうか』という、謝りを込めた丁重な文面のメールを送信して。先方にはわかってもらいました。

「なあ、伊藤くん、ミスをしたって死ぬわけじゃないんだからさ、ビジネスをやっていて、キレた方が負けだぜ」

それは僕の仕事ぶりを見ていた上司からのアドバイスでした。今も心に残っていますね。僕もいずれは部下に、そんなことを言える上司になりたい。

うちは協力と調和の会社です。それがいい点でも悪い点でもあって、自分からこうやりたいと手を挙げたり、人と競い合う人間が極端に少ないと感じています。

だからか、カルビーの採用マイページは『手をあげろ、挑戦者。』というスローガンを掲げている。僕は海外事業部の売り上げを確保し伸ばしたい。仮に香港駐在の辞令が下ったら待ってましたと手を挙げ、乗り込むつもりでいます。

取材・文/根岸康雄