上からは厳しい要求を突きつけられ、下の話を聞いて部下を育てて。課長の苦労は社内でなかなか理解してもらえない。愚痴は言えない中間管理職。世の中の課長さんたちは働く現場で何を考え、どんな術を講じているのだろうか。この企画は課長職に相当する中間管理職のつぶやきを紹介する。
シリーズ第13回は富士ゼロックス株式会社 グラフィックコミュニケーションサービス事業本部 商品開発部 第二商品開発グループ グループ長 鈴木祥子さん(42)。GPM(ゼネラル・プログラム・マネージャー)という役割を担う鈴木さんの部下は27名。「27名の部下のうち4名を除いて全員が私より年上で、59才の部下もいます。20名ほどが技術系のメンバーで、それぞれエキスパートです。私は女性で、技術のバックグランドがない文系。そんな人がGPMの職に就くのは私で二人目」と、極めて珍しい。
課長職に匹敵するGPMの役割
彼女のグループを簡単に説明すると、GPMの下に数名のプロジェクトチームリーダー(以下・PTL・商品化促進担当者)と、テクニカルプログラムマネージャー(以下・TPM・商品開発促進担当者)がいて、その下にそれぞれの社員が属している。
商品開発部の仕事は、PTLとTPMがペアになり商品化を推進、商品の納期、コスト、品質を守り、市場導入後はトラブルの対応や商品の最終的な保守、修理までを担当する。GPMの鈴木はそれらすべての責任を負っている。商品の導入をはじめ、部署のプロジェクトをリードするのもGPMの役割である。
現在、彼女の部署が主に扱っているのは17年秋に発売した6色のトナーを搭載し、多彩な色表現を薄紙から厚紙まで、様々な用紙やフィルムに1枚から印刷できるプリンターのインデッセプロダクションプレス。そして、昨年2月に発売した1分間に136枚の鮮明なモノクロプリントが可能なB9136ライトパブリッシャーだ。それぞれ標準価格が約5500万円と、約1500万円の商品で、共に主なターゲットは印刷業者である。
「自信を持ってやりなさい」
米国に留学していた鈴木が入社したのは98年。商品開発や技術に縁のない、マーケティングの部署で15年間仕事をした。途中3年間ほど上海に駐在し、アジア、パシフィック地域全般のマーケティングを担当、当時最新のカラープリンターの出荷量を伸ばした。
マーケティングの活動の中で、商品開発に対する意見も多々持っていた。「PTLのポジションをやってみませんか」と、声をかけられたのは2012年だ。さらに責任の重い今のGPMのポストに就いたのは17年だった。技術が専門ではない自分が、年上の技術者たちと上司という立場で仕事する。
「自信を持ってやりなさい」それはGPMに就いた当初、いささか戸惑っていた彼女に大先輩がかけてくれた言葉だ。
「技術のわかる人だけが、この仕事をしているわけではない。課題を見つけ、それをクリアにして開発を推進していくのが仕事で、技術に関してはTPMが中心に担ってくれる」
社内では過去に、GPMのポストで仕事をした女性が一人だけいた。「あなたもできるはずだ。頑張りなさい」という言葉は彼女の心に残っている。
GPMとして鈴木が最初に取り組んだ大きな仕事は、業務用のデジタルモノクロプリンターだった。カラープリンターが全盛だが、モノクロのニーズも大きい。商品や業務用の機械のマニュアル、教材や副読本等にモノクロはコストが抑えられて使い勝手がいい。最新の業務用のモノクロの開発が社内で決定し、鈴木の部署が取り組むことになった。
従来機より画像の質を上げ、様々な用紙に対応できる機器を開発したい。新商品もゼログラフィーという電子写真技術を使っているが、世の中はカラー印刷が主流だ。富士ゼロックスも5年ほど、業務用のモノクロプリンターの開発を手掛けてこなかった。その間にモノクロの機械に精通した技術者の何人かは、定年退職を迎えたり役員に昇進して現場を離れている。
私のコンプレックス
部下のTPMが設計のメンバーを束ね、開発を担ったが、紙を高速で機械に送る時に障害が出たり、開発は思うように進まない状況だった。技術的分野の専門知識が乏しい鈴木はトラブル解消について、「これはこうしたほうがいいのでは」とか、自分の知見で対応することできない。実はその点が彼女のコンプレックスでもあった。
会議の後に「これはどういう意味ですか」とか、技術者に質問しレクチャーを受けるが、「鈴木さんは文系だから、技術のことなんかわからんよ」、さすがにそんな露骨な言い方はされないが、そう思っている部下もいるかもしれない。しかし――
リーダーだからこそ、ブレイクスルーに向け発想し、実行できることがあるはずだ。社内的にはカラープリンターの開発が重要視されていて、モノクロに目が向きにくい状況ではある。が、社内でも業務用のモノクロプリンターの重要さは承知している。もっと周りを巻き込み、品質管理を確立できる仕組みが作れるのではないか。
「社内に『重要品質確立状況確認会』を設けたいと思うんです」彼女は部署内で技術者をまとめ、開発を司るTPMたちに提案した。
「達成を確実にするためにチェックする会ですね」
「そうです。開発系の部長や役員に状況を認識してもらい、品質簡易部門も巻き込んで、今やっている開発が正しいのか、このまま進めていいのか、品質を担保するためのアドバイスやコメントをもらいましょう」
専門知識は及ばない鈴木祥子さん、ならば技術者がいささか苦手とするコミュニケーション能力と、社内の部署を縦断できるリーダーの力で、部署のヘゲモニーを握ることを模索する。理科系の部下の上に立った文系の女性課長、彼女のリーダーとしての底力は後編で。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama