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「若手社員の本音」シリーズは、中間管理職が部下の若手社員を知るための企画だが、これは中間管理職本人にリーダーの“つらさ”を聞くシリーズである。上司と部下に挟まれ、ここが踏ん張りどころの中間管理職。何に悩み、どんな術を講じているのだろうか。
シリーズ第12回、株式会社LIXIL サッシ・ドア事業部サッシ商品開発部 パノラマ商品開発室室長 中山佳之さん(45)。LIXILは住宅建材・住宅設備機器業界の大手。中山さんは2011年4月の合弁前は、サッシを主力製品とするトステムの技術系の社員だった。サッシの一筋で室長となった彼の部下は12名。千葉県野田市の研究開発センター勤務の技術系の部下は9名。部下たちは機械や建築等を専攻した社員だ。
彼が室長を務めるパノラマ商品開発室は、サッシ事業の未来の展望を切り開く商品開発という使命を担っている。で、昨年8月に発売された「LWスライディング」(以下・LW)。フレームインの構造でサッシの上下左右のフレームが、室内から見えない。窓からの景色を遮るものがなく、一枚のガラス戸のような新発想の窓である。
容易な妥協はせず、でも時にはゆだねてみる
LWの開発は中山と同期のグループリーダーと、30代前半の技術者が主に担当した。試行錯誤の段階で、ハンドルも隠してしまおうとなった。「今回の開発ではどうしても重要部品を手がけたい」そうアピールしていた30代前半の技術者に、「ハンドルの開発はキミがやってみるか」と中山は名指し、開発を委ねた。
アシストハンドルはサッシのそばの壁に組み込むものにした。ボタンを押して出てきたハンドルを手前に引くと、ガラスの扉が少し開く。開いた戸先に手をかけてガラス戸を開く。テコの原理を応用した装置だが、ガラス戸の重さはMAXで160㎏だ。これをテコの原理で動かすには、ハンドルが1m近いものになってしまう。
「そんな大きなハンドルは使えないよ」という声に、部下はポンチ絵を描き図面に落とし続けた。試作業者が試作品を持ち込むと、「もっと小さく、もっと軽く、ガラス戸を動かせるハンドルにしたい」と、彼は妥協せず意見を言った。
結局、ベアリング等を使い、3枚のガラスが入った窓をスムーズに動かせる、アシスタントハンドルを完成させた。その長さは約50㎝だ。
「中山、あれをやっちゃダメだぜ」
容易に妥協せず開発に取り組む、その部下はマジメで素直な男だが、時にはそんな性格を、オブラートで包んだほうがいいと思う時もある。例えば、商品のよさを伝えるツール等を制作する企画の人間との会議で、自分の意に反したことを言われると、部下は露骨にイヤな顔をする。「それ違うんじゃないの、そんなオプションを設定しなくても大丈夫ですよ」と、言葉にする前に彼の顔が語っている。
かくいう中山も、自分の感情をオブラートに包み忘れたことがある。前の部署でリーダーになり、7〜8人の部下を持って間がない頃だ。ある部下に指示した図面の提出を促したが、一向に改まらない。「お前、ちゃんとやってこいよ!」メンバーの前でその部下に向かって、声を荒げたことがある。
「中山、みんなの前であれをやっちゃダメだぜ」先輩にはそう諭された。日々の酒量は増えたが、それ以来、感情が暴発しないよう気をつけている。
話を聞くほど、中山はできるなら部下や同僚の成長に繋がる機会を与えたいと、人知れず思っていることが察せられる。部署は違うが独身の同僚と、部下の中の独身女性との相性がピッタリだと思った彼は、合コンの機会を演出した。その後どうなったのか。しばらくしてそれとなく電話をし、何も発展してないと知る。仕事もプライベートも、積極的でないとうまくいかないことを改めて感じた。以来、合コンのセッティングは謹んでいる。
今更ながら酒量には気をつけている。
仕事が丁寧な20代後半の部下は、1年ほど商品のメンテナンスを担当していた。「商品開発がしたい」そう訴える彼に、中山はたまたま知った異業種交流会への参加を促した。サッシのお客は建築関係者で、BtoBの業界だが、交流会ではエンドユーザーと触れ合い、話を聞く体験を得た。
後日、部署内のミーティングで、窓のアイデアを新築の家のエンドユーザーに直接、聞きに行こう、「誰かやりたい人はいないか?」と、中山が声をかけた。すると、交流会に参加した彼がさっと手を挙げ、「僕がやります」と名乗り出た。
積極的になったなー。開発に大切なエンドユーザーを考える力が身についてきた、交流会に参加させてよかったと、中山はうれしかった。
彼の直接の上司は開発部長だが、以前の上司は毎週月曜日に、彼の部署のみならず、開発部全員にブログを配信していた。「今回は新しい試作品を見せてもらいました。こんなにいいものができていて、びっくりしました」等々、文面も長いし、しっかりとした文章で部長のブログを読むとやる気が出た。
製品の開発は、一人一人がそれぞれの部分を担当しているので、もの作りの楽しさがわかりづらい。部長のブログからは今、何の開発がどうなっていて、それはこんなに素晴らしいと伝わってきた。開発の楽しさを改めて教えてくれたような気がした。
だが、事業部の中にはいろんな部長がいる。部下には言えないが、中間管理職としてそれぞれの部長の進言や要請を網羅していくのは、大変である。
中山佳之、45才。妻と8才の娘がいる。娘が中学生になり、相手をしてくれなくなったら本社の業務を離れ、若い頃に4年間赴任したタイにもう一度、行ってもいいなと淡い夢を抱いている。左目の傷は1ヶ月ほど前、本社に近い錦糸町で同僚と痛飲した際、酔っ払って転んだ時のものだ。だいぶ傷は癒えたが、今更ながら酒量には気をつけている。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama