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社内でも孤立しがちな中間管理職は、上司と部下に挟まれ、どう日々の仕事をスムーズに進めているのか。リーダーとして自分なりの処し方があるに違いない。この企画は孤立しがちな中間管理職の本音を紹介しようという新シリーズである。チームリーダーは働く現場で何を考え、何に悩み、どんな術を講じているのか。
シリーズ第7回は株式会社ローソン 中食商品本部 デイリー部 シニアマネージャー ベーカリー・デザートチームリーダー 坂本眞規子さん(43)。即食性の高いベーカリー、デザート、調理パンを担当するチームのリーダーだ。坂本さんもだが、社員は入社から3年間ほど、ローソンの店舗勤務を経験する。その後、商品部を希望して商品開発を担うのがマーチャンダイザー(以下・MD)。部下のMDのマネージメントと、MDが考案した新商品のジャジメントが彼女の主な業務である。部下のMDは7名。彼女が開発し定番商品となった「はみでるメンチカツバーガー」や、今年3月発売し大ヒットした「バスチー」の開発などを担当してきた。だが、近畿商品部の頃、同僚に少しショックなことを言われたという。
部下には自分なりに成長して欲しい
「それは土用に丑の日に向け、うなぎの商売をしている時でした」と、彼女は語る。当時、マネージャーだった坂本は、“うなぎ弁当をこのくらい売っていこう”、“何時から何時までは誰と誰が店頭に立って、これとこれをやって”とか、部下に細かく指示を出していた。
「まったく私がいなかったら、あの子たちはどうするつもりだったんだろうね」そばにいた同僚にそうつぶやくと、こんな言葉が返ってきた。
「坂本さんがいなくても、あの子たちはなんとかやっていきますよ」
それを聞いて彼女は思わず、“そうだよねぇ”と、うなずきそうになった。
そうなんだ。人は育てなくても育つものだ。みんな勝手に自立していく。部下には言い過ぎないよう気をつけよう。坂本はそう思った。
年間、およそ400アイテムの新商品を開発するのだから、基本的に部下にはやりたいようにやらせる。そんなリーダーとしての考えは、部下が自分なりに成長して欲しいという想いも含んでいる。
細かいヒットを重ねていきなさい
やりたいようにやらせるといっても、野放しではない。特に店舗勤務を終了し、商品部を志望してMDになったばかりのスタッフには細かく指導する。新人は「私が好きな洋菓子店で、こんな物が売れているから、それと同じモノを作ってみたい」という気持ちが強い。でも、自分の想いだけで商品化できるほど甘くはない。製品、価格、流通、販売促進に沿うようにして話を詰めていく。
「女性がデザートとして食べられる菓子パンを作りたいんです」
「大きさはどうするの?」
「小さくても満足感がある仕立てにしたい」
「フワフワしているモノは、量を食べないと満足感が得られない」
「女性に人気のあるチーズケーキ風はどうでしょう」
「チーズケーキ風でギュッとした商品にするなら、ふつうの菓子パンじゃないよね」
大手製パンメーカーには蒸しパンの製法で、パンをフワッとさせずに仕上げる技術がある。女性はモチモチとか、シットリという食感が好きだ。「ジュワッととろける感じにしたい」と、新米MDは北海道産のクリームチーズにこだわった。
「くちどけ濃厚チーズ」の発売は一昨年夏。定価は150円。コンビニの菓子パンの価格帯は100〜150円だ。関東限定販売だったが、話題になった商品だった。
かくいう彼女自身も、MDになった当初は「これはあの洋菓子店で売れています。こっちはあのベーカリーで売れていますから、作らせてください」と、上司に提案をしたことがある。「気持ちはわかるけど、イチかバチかを狙ったら、コンビニの商売にはならないよ」当時の上司には、そう諭された。
「バスチー」や「はみでるメンチカツバーガー」や「くちどけ濃厚チーズ」等、ホームラン級のヒット商品の開発は1年に1回程度でいい。今の部署はデザート、サンドイッチ、菓子パン等の調理パンを合わせ年間、およそ400アイテムの新製品を作る。自分の想いより、なぜ売れたのか、そしてなぜ売れなかったのか。新商品を一つずつ分析し、論理をつなげるようにして、細かいヒットを重ねていきなさいと。上司にはそう教えられてきた。
週に10アイテムほど出す新商品を全部、店舗のオーナーに勧めることはできない。そこで、重点的に売りたいものを決め、「今週の自信作です!」とか、店舗を指導するスーパーバイザーの人たちにアピールをする。
スーパーバイザーへのトークは自信があっても、未だにいわゆる“ほう・れん・そう”には、弱いところがあると坂本は感じている。先日も「お盆明けは昨年以上に売っていきたい。一種類で10個ぐらい売れる調理パンを入れてくれ」という指示をすっかり忘れていて、運営本部から大目玉をくらった。
その点、直属の上司であるデイリー部の女性部長のコミュニケーション能力には、感心させられる。この上司は少しでも不明な点があると、発信した人の元に足を運び、相手の意図は何かを把握する習慣があるのだ。だから上司の指示には不明瞭な点が一切ない。
これからの時代、AIの加速に伴いコンビニの業態は大きく変わる。彼女はそれを支えていくスタッフの一員でありたいと思っている。変化にどう自分自身を合わせていけるか。コミュニケーション能力は問われているが、会社員人生の後半が楽しみではある。
坂本眞規子、43才。夫と2人暮らし。大ヒットしたプレミアムロールケーキの生産に携わっていた時期もある。彼女の部署が開発した「バスチー」は、「プレミアムロールケーキ」以来の大ヒットと評せられるが、夫は「プレミアムロールケーキ」も「バスチー」も食べたことがないそうだ。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama