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加速するIT・AIに金脈を見出した起業家。彼らは金脈を掘り進むように自ら起こしたベンチャーを成長させるが、掘り当てたものは近い将来、私たちの生活を大きく変える可能性を秘めている。このシリーズはIT・AIの“金脈掘削人”に、掘り当てた“お宝”はいったい何か。それが近未来の私たちの生活をどう変えるのかを訊く。
第2回目は株式会社Payke(ペイク)。代表取締役CEOは古田奎輔。政府観光局は2020年には4000万人の訪日外国人観光客を目標にする。インバウンドの購買力の取り込みは日本企業にとって重要な課題だ。
Paykeはアプリをインストールしたスマホで、商品のバーコードをスキャンすれば、メーカーが事前に編集した商品の成分や容量、効果、使い方等が訪日外国人の母国語で画面に表記される。現在、Paykeが対応する言語は日本語、中国語、英語、韓国語、ベトナム語等、7言語。登録メーカーは約1200社、商品は約30万アイテムに及ぶ。このシステムを考案し起業した古田奎輔は弱冠26才である。Paykeの従業員数は現在約40名。昨年、夏には10億円の資金を調達した。
「お前、面白いヤツだなぁ」
東京出身の古田。高校は中退。大検に合格し、沖縄の琉球大に。小遣い稼ぎに始めたビジネスが商売っ気に火をつけ、訪日外国人観光客に目をつける。
店頭に並ぶ商品をスマホでスキャンすれば、その商品のいろんな情報が、訪日外国人の母国語で表示される。インバウンドをターゲットにそんなアプリを世に送り出し、ビジネスをしようじゃないか。
「面白いね」古田より3才年上の友人、比嘉良寛が創業に賛同。勤めていた沖縄の銀行を退職し、古田の事業に参加。Payke設立は2014年11月だった。古田は企画書を作り営業を開始した。
「今、琉球大の仲間たちと、これまでにないアプリを研究・開発しています」アプリの内容を説明し、「こういうのがあったら絶対にいいでしょう。お手伝いしていただけませんか。事前の申し込みをお願いします」沖縄の土産系の企業に狙いを定め、そんなトークと企画書だけで無料の登録を勧誘し、事前申し込みを40社ほど集めた。
一方、アプリの制作を急がなければならないが、エンジニアが見つからない。何よりアプリを開発する資金がなかった。だが、多くに起業家がそうであるように、古田の“口説き文句”には魅力があった。
「お前面白いヤツだなあ」彼を買ってくれたのは、沖縄で行われたビジネスコンテストで知り合った東京の会社の社長だった。「資金が必要です」「よし、男気で出してやる!」この時の500万円の融資で、会社は本格的に始動。古田が21才の時だった。
彼は500万円をアプリの制作に投資。次にしばらく売り上げが立たないが、サービスの開発を滞りなく継続するための資金調達がテーマだった。サービスのタブロイド版ができたことで、本格的な資金集めに古田のトークは熱を帯びた。3000万円の資金調達は16年6月。
とにかくプラットホームの確立だ
——この資金で東京オフィスを開設した?
「そうです。東京は製造業の企業のオフィスが集中しています。マーケットが大きい。多くの企業に登録をしてもらい規模を出すには、東京のオフィスが必要です」
Payke東京支社は当時、ITベンチャーのメッカと言われた渋谷の桜ヶ丘の1Kのマンションだった。開発部隊や他のメンバーを那覇市内のオフィスに残し、古田は単身上京。事務所の一室に寝泊まりし、シャワーは近くのジムで借りて、学生アルバイトとともに、企業に登録勧誘の電話をかけまくる。当時は電話口で登録無料を訴えた。
「登録の企業の数と、商品の数を増やしていく。プラットホームの規模を大きくすることに集中しました」最初に揺るぎのないプラットホームを形にしたものが、大きなゲインを得るのはITベンチャーの鉄則だ。100社に電話をしてアポ取りできるのは2〜3社。それでも1年後には700〜800社、商品のアイテムは1万を超え、17年1月にはアプリのユーザー数も10万人を超えた。
一方、会社の運営資金が底を突きはじめている。資金調達の奔走も彼の大きな仕事だった。訪日外国人向けのショッピングアプリ「Payke」の提供ははじまったが、無料の登録が主で、企業の課金で利益を上げるには至っていない。
「将来、株式を公開すれば2000億円になる会社です。キャピタルゲインが得られる。今、数千万円の投資できるのは安いもんですよ」彼は事業モデルと、自社の将来性をアピールした。企業と商品アイデムの登録数、アプリを利用するユーザーの数、そして古田のトークが説得力を持ったのか。17年6月には2億円弱の資金調達に成功。オフィスを渋谷の1Kから六本木に移転した。
昨年の夏は10億円の資金調達
この時点で無料サービスから、有料化を狙った動きが加速する。翻訳エンジンも積んで、プラットホームの仕組みを作った彼は、お客さんであるメーカーに、商品のバーコードをスキャンして映る画面の編集権を売った。商品について何を書くか、どんな画像をユーザーに提供するかは企業側の自由である。現在、月額課金の料金プランは5〜50万円。訪日客の属性やスキャンした商品、位置情報がレポートに組み込まれる等、画像のグレードにより料金は異なる。
インバウンドは益々盛り上がり、訪日外国人向けのショッピングアプリ、Paykeのニーズが高まることは誰もが予想できた。今や投資の話は先方から声がかかる。10億円の資金を調達したのは昨年の夏だった。
現在、契約は約1200社、商品登録点数は約30万アイテム。世界累計のダウンロード数370万件以上。売上げは昨年比で8倍以上は伸びている。
——これまで調達した資金は十数億円。古田さんは普通の企業なら入社3年目ほどの社員同じ26才だ。
「まだまだです。僕らがやりたいことの達成度合いは、現時点で2〜3%です。まず、月額課金のビジネスモデルを増やしていく。今は約1200社ですが、日本にメーカーは13万社ぐらいありますから」
さらにこのアプリから、ビッグデータを手に入れることができる。ユーザーがどこで何を購入したかをデータ化することが可能なのだ。それを使った新しいビジネスへのチャレンジ。将来的な夢は広がる。
—— Paykeが進化する近未来は、どんな社会になるのでしょう。
「僕はバーコードをスキャンするのは、手間がかかると思っています。今のスマホはウェアラブルのようにどんどん小型化し、店頭の商品にピントを合わせると、空間に映る母国語の動画によって情報が得られたり。商品選択の幅が広がる。商品から得られる情報はよりリッチになるっていくでしょう」
インバウンドは増加一途をたどる。すぐそこに迫ったAIの時代、ビッグデータを得られる会社が何より有利だとも言われている。
「うちの会社のビジネスモデルは世の中の時流に乗っている。このままいくと僕らのビジネスは拡大し、大きな富を得られることができるのではないかと」
古田奎輔のその言葉には力みがなかった。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama