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1年以上続く「若手社員の本音」シリーズは、中間管理職が部下の若手社員を知るための連載だったが、この企画は中間管理職の本音を紹介する新シリーズである。社内でも孤立しがちな中間管理職は、働く現場で何を考え、何に悩み、どんな術を講じているのだろうか。
シリーズ第2回はアサヒビール株式会社 広域営業本部次長 高田豊さん(42)。彼が率いるのは営業企画グループ。部下は7名で全員女性だ。広域営業本部は1〜4部まであり、全国系のスーパーやコンビニ等を中心とした量販店向けの営業を担う組織である。その中で、高田さんの営業企画グループは1〜4部とは別に本部長の直下で広域営業本部の組織運営及び、営業支援を行っている。彼の直属の上司は1〜4部を束ねる本部長である。
要は1〜4部の営業部署が成果を出しやすいよう後方からのサポートする、それが営業企画グループの主な仕事だ。本部長の命を受け、働き方改革の一環として、2名の部下とともに業務改善に取り組んだ高田さん。広域営業本部の営業マンにヒアリングし、改善点を明確化していく中で、部下の仕事ぶりを語る。
その背景には何があるのか
業務効率化のためのヒアリングを行った部下の一人は入社以来、十数年、何かを取りまとめたり、自分の考えで何かを進めたりした体験がなかった。できれば自分が中心的な立場となり、一つの物事を進めるために、どんなデータが必要なのか。誰に頼めばいいのか。自分で組み立てられるようになってもらえたらと、彼は思っている。
営業の人へのヒアリングの時も、「なぜ、そんな話をしたの?その人がそう言っている背景はなんなの?」「あっ、聞いてないです」「それじゃ意味ないよ」という感じで、部下には、「その背景に何があるのか、考えながらやらないと」それとなく、そう高田は言い続けた。
他の部下への言葉も同様だ。部下たちはそれぞれビール類、酎ハイ等、焼酎、洋酒等のカテゴリーを担当している。広域営業本部の各部署からでてくる数字に疑問があれば、部の営業の人に聞きに行く時もある。
例えばあるチェーンでは売り上げ見込みに対して、数字が届いていない。「新商品が採用されていない、特売も取れていない状況です」そんな部下の報告には、「なんで特売が取れないの?そこを聞かないと何も進まないよ」と、彼は言葉をかける。どうすれば特売を入れられるのか。今の施策でうまくいかないなら、それを考える量販統括部に現場の実情を伝えて相談してみるとか。
「うまくいってない理由をつかんで、うまくいく方法がないかを考えて」と、これも彼が部下によく言うことである。
一見強面だが、飲むとニコニコ
背景に何があるのかを知る――そんな発想は近畿地区の営業マンだった20代の頃からだった。老舗スーパーの本部を担当していた時、休日は子供を連れ家族で、必ずそのスーパーで買い物をした。すると、そのスーパーの魅力の背景が見えてくる。高田は言う。
「ある日、スーパーの商品部長に『御社のひき肉、やたらに美味しいですね』と、話をしたんです。そしたらたまたまその部長が元生肉の担当だったので、“あっ、わかってくれるんや”という感じになって。一気に距離感が縮まった」メーカーの営業というより、店を使ってくれている客という目線で、部長は高田を見てくれるようになった。
「せっかく特売で安い値段をつけているのに、売価の見せ方が安く見えません。もったいないですよ」そんな話も、商品部長の前で口にした。すると、スーパーの利用者の発言ととらえてくれ、自社製品の納品がさらに楽になったという。
酒造メーカーに入社したのは、もちろん酒が好きだからだ。だが高田は部下とあまり飲まないそうだ。「お酒を飲みながら仕事の話をすると、説教臭くなるでしょう」でも、仲良くしてくれる後輩は大切である。
「僕は愛想が悪いし、怖そうだと思われるみたいで。『でも、次長は飲むとニコニコして印象が変わりますよ』とか、言ってくれる後輩は大事にしたいなと思っているんですよ」
一見、強面の高田だが、部下が割とよく言ってくれていることにも気づいている。「高田次長が来て、部内の雰囲気が良くなりましたよ」と部下に言われた時は、思わず笑みがこぼれた。「ブレないからいいですよね」という部下の言葉も、嬉しかった。
「そりゃ前に言ったことと、今日言うことが違うことはありますよ。会社が状況によってやり方を変えるのは当たり前ですから」そんな時は、なぜ前の指示と違うのか、部下にはその背景をきちんと説明することを心がけている。
“あ、うん”の呼吸
直属の上司である本部長は、時間があれば現場で仕事をする営業マンたちと飲みに出る。職場の働きやすさに関することに耳を傾け、高田の部署に提案する。その推進力には頭が下がるが、「以前、『この商品もう一度取り組んだほうがいいと思うねん』と、本部長に案件を提案され、“まっいいか”と寝かしておいたんです。するとある日、飲んでいる席で『お前、あれほったらかしにしているやろ』と言われて。『ちゃんとメモに書いてありますから大丈夫です』と、答えたんですが」
結局、その案件は消滅した。上司に言われてやらなければならないことと、そうでもないこと、彼は本部長との“あ、うん”の呼吸がわかっているかのようだ。
「高田さん、ひょっとすると出世するかもしれませんね」筆者が水を向けると、そんな言葉に反応することなく彼は言葉を続ける。
「またどこに異動するかわかりません。異動した先で、“わっ、こいつ、使えない”と思われるのが怖い。サラリーマンとしてはどこの部署に異動になっても、“来てもらってよかったな”と部署の人に思われるように、仕事がしたいです。部下も今の部署にいる間は僕がサポートします。部下が他の部署に異動になった時、来てもらってよかったと思われる人になってほしいなと」
高田豊、42才。単身赴任は5年半になる。紺のネクタイは先日、神戸の自宅に戻った時、取材のことを話すと、小学4年の娘がこのネクタイが似合うと、勧めてくれたものだそうだ。
取材・文/根岸康雄
https://根岸康雄.yokohama