【リーダーはつらいよ・後編】「課長こそ考える前にまず動く、走りながら考える」クレディセゾン・照山友隆さん

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上からの指示に応え、部下の働きやすい環境に気を配り、部下の話も聞き、もちろん数字の目標も常に忘れずに。中間管理職たるもの気安く愚痴をこぼすわけにはいかない。世の中の課長たちは働く現場で何を考え、どんな術を講じているのか。

シリーズ第18回、株式会社クレディセゾン デジタルイノベーション事業部 ポイントビジネス部課長 照山友隆さん(34)。クレディセゾンのカード会員は約2700万人。永久不滅ポイントを謳うセゾンカードだが、ポイントの使い勝手を改良するため、照山さんたちのグループはネット通販を立ち上げた。後発のeコマースだが、既存のネット通販にない特徴を出すためにどうするか。

量ではなく質で攻める。とにかくいいものを出す。商品にまつわる作り手の想いをストーリーとして紹介する。そんなブランディングは決まった。既存のポイント交換サイトを「STOREE SAISON」(以下・ストーリーセゾン)として、商品購入機能を付け、アップデートしたのは昨年12月だ。

“いいもの”そして“ストーリー”

社員の約7割は女性だが、照山の9人の部下も半分ほど女性だ。転職を経てポジションについたメンバーも多い。出品者を探すマーチャンダイジングチーム(MD)のリーダーの女性は、京都出身で前職は洋菓子販売店で勤務していた。

「京都の和菓子を広める上で、京都の蜂蜜は必要ですね」京野菜は有名だ。花粉を運ぶミツバチはいても、京都のハチミツはなかなか見当たらない。その中で“京のハチミツ”に科学的に取り組み商品化している人がいるという。それを取り上げ、京都のハチミツの特性を紹介すれば、京都の和菓子のストーリーに奥行きが広がるのではないかという提案だった。実現はまだ先だが、いいものを作り手の想いというストーリー付けて出品する、そんなブランディングに沿った提案である。

同じくMDの男性のメンバーも昨年、この会社に転職した。彼は牛肉と日本酒を詳しく調べている。例えば「大分の牛肉が美味しいんです。牛は湿気がストレスになる。大分は風通しのいい牧場が多いんですよ。ストレスが少ないから肉の脂が美味しくなるんです。大分の牧場の肉は間違いなく美味しい。面白いストーリーがあるはずです」

そんな情報をもたらすと、コンテンツ制作チームの育休明けの女性が、そんな商品の魅力に素早く反応する。“予約の取れない焼肉店、おおいた和牛、その美しさに隠された二人の社長の探究心”という感じの記事を、外部に委託し制作してサイトで紹介する。

みんなもう一歩踏み込んでほしい

「まずは得意なことをガッツリやってくれ」照山は部下たちにそう声をかけている。メンバー一人一人の存在感を浮き出たせようという考えからだ。ただ、欲を言えば前出のMDチームの二人は、自分の興味のあるジャンルには強みを発揮するが、興味のないジャンルではユーザーの動向を見落とすこともある。

もっといろんなものに興味を持ってほしい。例えば、コーヒーを検索するお客が多いなら、そこをもっと掘り下げコーヒーのアイテムを研究していようとか、柔軟性があればさらにいい仕事ができる。

コンテンツ制作チームの女性は理解が早い。さらに深掘りしたコンテンツを期待している。

「走りながら考えろ」

かく言う照山も、営業職から新規のeコマース事業に携わり、わからないことだらけだし、失敗だらけだった。

いいものだけをストーリー付きで紹介する、そんなブランディングには信念があったが、昨年12月に通販サイトが本格的に稼働すると、売上げが当初の想定に達しなかった。お客の検索履歴と照山たちが描いたブランディングとの間にズレがある、部署のメンバーと白熱した話し合いが続いた。

「ブランドで勝負するのはわかりますが、売上げも作っていかなければなりません」
「お客様の検索履歴を見ると、『Nintendo Switch』の検索数が多い」
「お客様の目線になって考えよう。ゲーム機とゲームソフトを我々の通販サイトに入れていこう」

「ちょっと待ってください」

意見を挟んだのは、チームができる1年前からeコマース事業に取り組んでいる事業推進担当の男性だ。ハートの熱い男である。

「それではサイトのブランドの価値が薄れる危険性があります」

いいものをストーリーを添えて紹介する一方で、ゲーム機やゲームソフトも大きく扱えば、ブランディングが薄れ、ここは何のサイトなのかと訪れたお客は戸惑う。ちょっとでも戸惑いや嫌さを感じると、お客はすぐに離脱してしまうのが、ネット通販の一つの特徴でもある。事業促進担当のメンバーはその点を危惧したのだが。

「分離させればいいじゃないか。サイトのトップにはガッツリと、我々のサイトの世界観を出す。サイト内のカテゴリーを検索すると、ポイント交換で人気の高いアイテムも手に入る。それでいこう」

現在、通販サイトのストーリーセゾンには、12カテゴリー、約1700アイテムが出品されている。

「照山さ、走りながら考えろよ」それはかつての上司のアドバイスだ。頭で整理しようとすると時間がかかるし、妄想ばかり膨らみ逡巡してしまう。時間の無駄だ。「考える前に、一回アタックしてみろ」これもかつての上司の言葉だ。彼はその言葉を常に忘れない。

照山友隆、34才。妻とは職場結婚である。約7割が女性社員の会社だ。女性と仕事をうまくやるには“俺はこうです”と、まず自分をブランドディングする。次に一対一でじっくりと話を聞いてフォローをすることが重要だと、そんな照山ならではのやり方を、家でも実践しているか。聞きそびれた。

取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama