あなたの知らない若手社員のホンネ~ユーコーコミュニティー株式会社/後藤舞さん(28才、入社6年目)~
様々な職種で汗を流す若手社員を描くこの企画。今回は工事現場で働く女性のペンキ職人だ。工事現場といえば典型的な3K職場と思いがちだが、ペンキ職人は女性向きの職業なのだという。中間管理職も若手社員も、女子ペンキ職人の仕事に対する“やる気”に、共感と参考を抱くに違いない。
シリーズ54回ユーコーコミュニティー株式会社 技術部主任職長 後藤舞さん(28・入社6年目)。神奈川県厚木市に本社があるこの会社は全職人36名中、22名が女性職人だという。後藤さんは異なるが、その大半は美大出身者である。
成果が出ず、思わず泣いてしまった営業時代
育ったのは福岡市です。宮崎県内にある大学では農学部の応用生物化学科に籍を置き、植物の遺伝子の研究をしていましたが、専門の勉強が楽しくなかったので別の道に進もうと。就活では人の一生に関われるものとして、建築関係の仕事を探していて一度は東京に出たいと、都内で行われた合同説明会に参加した時に、この会社のブースを見つけました。
「ペンキ職人は女性に向いた職業です。建築業界の古い体質を変えたい。うちは塗装業界の日本一を目指す。キミの人生をよくするために、会社ができることがあるはずです」ブースや面接の時の会長や社長のそんな話に、魅せられました。一緒に働きたいと思いました。
1ヶ月間の研修が終わると、最初は営業職からでした。営業で見ず知らずのお宅のチャイムをピンポンと鳴らして、名刺を渡し自己紹介をして、世間話で打ち解け営業につなげていく。頭でわかっていても、成果が出ませんでした。
「お客さんと仲良くなることだね」上司はそう言いますが、どうすれば仲良くなれるのか。チャイムを押しても「うちはいいよ」と、すぐに断られるケースがほとんどでした。
ノルマはないし、仕事に繋がらなくても叱責はされませんでしたが責任を感じて。落ち込みました。どうしようもなくなってしまった。ある日、鎌倉の小さな公園にベンチに座り、「私、お客さんに好かれなくて、どうしたらいいかわかんないんです……」泣きながら会社に電話をして。上司がその公園に駆けつけてくれて、私の話を1〜2時間聞いてくれたこともありました。
そんなある日、カッコいいバイクが止まっているお宅がありました。私もバイク好きですからチャイムを押して。男性が姿を現わすと挨拶もそこそこに、「かっこいいバイクですね」「キミ、バンク好きなの?」「はい、給料を貯めて買いたいと思っています」と、話が盛り上がって。「ペンキ屋さんか。うちも外壁をなんとかしたいと考えているんだよ」そんな話になって、上司と再度お伺いして初めて結果に繋がりました。
この経験から庭先にあるものの中から、自分の興味のあるものを話題にして接すると、仲良くなれるきっかけがつかめると、一つ営業の要領を掴んで次に――
ペンキ職人見習いへ
「キミ、技術もやりたいと言っていたよね。現場でやってみるか」社長に声をかけられ、現場でペンキ塗りの仕事をするようになったのは、就職した翌年の2月からでした。
まず意外だったのは、女性のペンキ職人の見習いに、「えっ」と驚かれるお客さんよりも、「あらっ」と、好意的な反応をされる方が多かったことです。昼間に家いるのは主婦が多い。同じ女性で安心されるようです。
鉄骨で組んだ足場での作業ですが、足を踏み外しても落ちないよう常に安全帯を装着します。塗料の原液の粘度を下げるため主に有機溶剤を薄めてバケットに入れ、それを持ち歩き作業します。体力仕事ですが、自分が持てるだけ塗料をバケットに入れ、なくなれば足場から降りて、足せばいいのですから、女性でも支障なく作業をこなせます。
一つの現場の工期は約2週間、二人一組で屋根や家の外壁、塀等をきれいにします。作業はまず塗装を施す箇所に高圧洗浄をかけ、窓等ペンキがつかないようビニールで覆い養生をする。塗装はまずコーティングのための下塗り、次に中塗り上塗りと3工程で。中塗りと上塗りは同じ塗料を使うことが多い。塗装の箇所は縦と横にローラーを転がし、厚みが均一になるように塗ります。ローラーの転がす回数を減らし、いかにムラなく均一に塗っていくかが、職人の腕の見せ所で。
仕事を教えてくれた先輩は、最初から私にローラーをもたせてくれて。「おう、いいじゃん、その調子だよ」そんな感じで褒めてくれた。ペンキを塗り終わると見違えるようにきれいになります。それが楽しい。現場に出て1年後には、一人前の職人として認められる職長に昇格しました。職長は二人一組で仕事をする時のリーダーで、塗りの技術だけでなく、工事のスケジュールを立て、その工期を守ることが必要となってきます。
ペンキ職人にとって何が一番怖いか。それはペンキの飛沫が飛び散ることです。例えば仕上げを急いで、ローラーの早く動かしすぎると、ペンキの飛散の原因となります。腕のいい職人は飛沫に細心の注意を払い、効率的に仕事をこなしていく。
塗装の仕事は天候に左右されやすい。ある日のことです。その日は風がありましたが工期は守りたい。このくらいなら大丈夫だろうと、私の下に付いている子と屋根の塗装を済ませたんです。現場の近隣の車をビニールで覆い、養生を施すのですが、その日は思いのほか風が強くて。
「うちの車にペンキが付いているんだけど、何とかしてくださいよ」そんな苦情が寄せられた。ペンキが飛散して現場から離れた養生していない車に、飛沫がかかってしまった。
車に付着したペンキを落とすのは、簡単ではありません。有機溶剤でペンキを落とすと、車の塗装まで剥がれてしまうのです。
後藤さんが入社した時、女性の職人は1名だったが、この6年間で20名以上に増えた。失敗をしながらも、女性ペンキ職人軍団は確実にその実力を発揮していく。車に付着してしまったペンキにどう対応したのか? その詳細は後編で。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama