■あなたの知らない若手社員のホンネ~株式会社ローソン/岩山淳史さん(28才、入社6年目)~
若手社員の仕事へのモチベーション、中間管理職にとってそれの熟知が、職場での円滑な人間関係につながる。若手社員も同世代がどんな仕事に汗を流しているのか、興味のあるところに違いない。バライティーに富んだ職種を紹介してきたこの企画、今回はおなじみのあの店である。
シリーズ40回、株式会社ローソン アジア・パシフィック事業本部 岩山淳史さん(28)入社6年目だ。ローソンは国内におよそ1万4000の店舗を展開するコンビニエンスストアである。アジア・パシフィック事業本部が担当する国と店舗はタイ約100、インドネシア約40、フィリピン約40、ハワイ2、これから発展が期待されるエリアである。
アジアと日本の架け橋になるような仕事を夢見て入社した岩山さん、今の部署に移動したのは1年ほど前だが、それまでの店舗等の現場勤務は、あたかも小売りの修行を兼ねたような悪戦苦闘の連続であった。
アルバイトと同じ仕事をして、一体何が身につくのか
高校時代に選択科目で中国語を取ったことから、中国をはじめアジアに興味を抱くようになりまして。中国語に力を入れている大学の経済学部に進学し、就活ではアジアの国々と日本の経済関係を深める仕事、アジアと日本の関係をより良い方向に、発展させていく仕事に携わりたいと。そんな僕の話に熱心に耳を傾けてくれたのがローソンでした。
「最初は辛いことがあるよ。店舗に立てばいろんなことに気を配らなければならないし、店長になればまた、大変なことがある」面接官は、この仕事の大変な部分を隠さずに話してくれました。ですからある程度は覚悟していたつもりだったのですが――。
研修を終えて最初の配属は、東京郊外の総合病院の中の直営店でした。「いらっしゃいませ!」「ありがとうございます!」ローソンのユニホームを着て、朝はバックヤードでリーダーの人に続いて挨拶の練習をしました。
「Lチキが100円です。いかがでしょうか!」
「ダメよ、声が小さい、そんなんじゃ誰も買わないわよ!」
パートの女性の人たちにガンガン言われました。
「賞味期限の近いものは棚の前の方に置いて、新しいものはその奥に、在庫の確認もしなくちゃダメ!」次から次へと、注意の言葉をいただきまして。
僕が苦手だったのは、レジ横の定番の「からあげクン」。パックにチキンナゲットが5個入っているローソンの看板商品で。これを店舗内で、5個単位で揚げなくてはいけないのに、一個少なくあげるヘマを何回もして。他にもLチキや黄金チキンや揚げ物は多く、端数を出すとそれを揚げるためだけに時間が取られてしまう。
「本当に使えないわねぇ!!」とか、パートさんにはよく叱咤されました。
ここでアルバイトさんと同じ仕事をして、一体何が身につくんだろう……金融へ行った友人は資格を取得し、スキルを身につけている。営業畑に進んだ友人はビジネスマナーを叩き込まれている。それにひきかえ僕は……焦りを感じました。
両親に相談すると、この会社に入る前に親に見せた、自分の決意を書いた6000字ぐらいの文書を見せられて。「お前、こう言っていたよね、自分で決めたんだろう」と、父親に諭されました。
苦手はコミュニケーション
東京郊外の店舗で半年勤務して、次に都内のスーパーバイザー(以下・SV)が駐在する支店に勤務しました。SVはおよそ9店舗を担当し、FCのオーナーさんを指導する立場で、週に4回ほど担当のFC店を巡回しています。僕の仕事はSVが各店に、フィードバックする販売データや、店舗の売り上げの平均、個店のランキング等のデータを集計することでした。生活がかかっているオーナーさんに一番近いところにいるSVに、どんなメッセージを投げかければいいのか。
前任者は同期のバングラディシュ人と韓国人でした。ちなみに僕の同期では、170名のうち留学生を中心に採用された外国人は50名。彼らは日本語も堪能で、メールの内容を見せてもらったのですが、SVとのコミュニケーションを密に取っている。
例えばSVの「◯◯さんは運転が上手いですから、そのテクニックをFC店の巡回に生かして、すぐに売上げを巻き返せますね」とか、「新しいメガネ、かっこいい、よく似合っています」とか。褒める文言が嫌味にならず、SVの懐に飛び込み自分の意思を伝え、いい関係を作っていた。その後、二人の外国人同期も店舗に配属されましたが、パートさんともいい人間関係を築いていたと聞いています。彼らなりのやり方が功を奏したのでしょう。
彼らに比べ、僕は店舗でのパートさんとの関係も褒められたものではなく、SVに配信するメールも事務的でそっけないなぁと。日頃のコミュニケーションで人間関係を作り、こちらのメッセージを伝えていかなくてはいけない。そのために例えば、『スイーツ好きの◯◯さんだったら、お店にこのスイーツの良さを伝えられます。売上げの伸長期待です!』スイーツの写メールにそんな言葉を書き添え、SVに送信したりしました。
支店勤務は半年ほどで、次に店長の仕事を学ぶため、ローソンの98%を占めるFCのオーナーさんのお店で店員をやりました。配属先は女性のお客さんの比率が高いナチュラルローソンでした。直営店よりもFCのお店はコスト意識が高い。ある朝のことです。
コーヒー販売機の故障でカフェラテ用のミルクの出が悪くなった。そこでその店の店員さんが、「販売中止にしよう」と。でも、コーヒーには問題ない。朝のピークの時間帯でコーヒーのニーズがある。
「コーヒーだけでも販売しましょう」「いや、先に納品を済ませてよ」
朝は弁当やおにぎりや、多くの商品が届く時間帯で、納品の作業は大切な業務なのです。僕も「すみません」と、その話を止めればよかったのですが、「でも、ブラックだけでいけると思います。コーヒーの販売を試しましょう」と、しつこく言ってしまった。すると、
「うるせえんだよ!」店員さんが怒り出して。「お前はいちいち一言いってくる、言われたことをやれよ!」みたいなことを言われました。「でも」と僕が反論し、口論みたいになって、店員さんが店から出て行ってしまったんですよ。
ヤバイ……僕のコミュニケーション不足だ……。後悔しましたね。しばらく一人で店を切り盛りしましたが、レジの前にお客さんは並ぶし納品も大変で、オーナーさんに連絡し店に来てもらいまして。事情を話してわかってくれましたが。
「コミュニケーションに問題があるから、気をつけて下さい」というようなことを、オーナーさんにも上司にも言われました。
人と共に店を運営していく小売りは、同僚にも客に対しても、何よりコミュニケーション能力が問われる。
さて、小売り現場での人との意思の疎通の修行は、彼の中でどのように開花していくのだろうか。それは後編で。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama