【後編】入社5年目社員の本音「大きな視野で仕事ができるようになって新しい自分に気づきました」日本HP穴沢佳織さん(2018.05.25)

あなたの知らない若手社員のホンネ~日本HP/穴沢佳織さん(28才、入社5年目)~

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20代の仕事へのモチベーションの理解は管理職にとって、職場での良好な職場の環境作りの一丁目一番地――とは言ったものの外資系のこの会社では、いささか控えめな性格の穴沢さんはもう中間管理職だ。今回は若い人にも興味があるであろう、中間管理職のモチベーションにも触れていく。

第22回目は株式会社日本HP セールスオペレーション本部 ダイレクトオペレーション部 穴沢佳織さん(28才)入社5年目。

職種別の採用を実施しているこの会社で、営業職として入社したが、振られた言葉に対してパッと返して、饒舌に商談するのが苦手な穴沢さん。営業に限界を感じ、縁の下の力持ち的な仕事をしたいと、社内公募の制度を利用し、異動を申し出る。配転先は日本HPの基幹の一部をなすウェブサイトのダイレクトプラスに関わる部署。ウェブサイトの機能の追加を企画し、購入サイトとしてより使いやすく改善し、売上げを伸ばすことが彼女の仕事だ。早速、気づいた非効率な作業の改良に取り組んでいく。

■ドライでもクールでもない外資系のこの会社

何だろう、この手作業は……? 個人向け、法人向けのパソコンの中身をカスタマイズすることで製品の種類は何万通りにも及びます。私が疑問を抱いたのは、ダイレクトプラスのサイトに製品を登録する際、カタログチームのメンバーが、製品のスペックを一つ一つ入力していることでした。

「これではあまりにも非効率ですし、マーケティングチームも、カスタマイズした製品をもっとダイレクトプラスで紹介したいはずです。今の手作業の方法では登録に時間がかかり過ぎるので、ダイレクトプラスで紹介できる製品も限られてしまいます」

「確かに非効率だね」「手作業で製品のスペックの登録するのではなく、そこを自動化できる方法を考えてみようじゃないか」

私の提案を上司や技術者は、真剣に取り上げてくれました。ポチポチと手作業で製品の画像に、仕様や注意書き等のスペックを登録するのではなく、スペックを自動的に製品に反映できるファイルを技術部門が開発してくれまして。例えばギガ数と製品名をそのファイルに書き込むだけで読み込みは完了し、製品のスペックが登録され、ダイレクトプラスのオンラインストア画像に反映されるシステムに、改良したんです。

より早く簡単に登録ができる新しいシステムの導入によって、例えばこれまで1時間に10製品だったものが、倍以上の登録が可能になりました。より簡単に早く、製品の情報をダイレクトプラスに載せられることで、結果的に売り上げ増につながったのです。

外資系企業は成果をあげると、ドーンと年棒が上がるイメージがありますが、このシステムの開発で、お給料が上がることはありませんでした(笑)。その代わりと言ってはヘンですが、パフォーマンスが悪いという理由で、会社を辞めさせられたという話は聞いたことがありませんね。その辺は外資系企業のドライなイメージとは違うなと。

■営業は苦手でも、チームをまとめることを通して大きな視野を養える

ダイレクトプラスを扱うカタログチームをリードする立場になったのは、昨年の春すぎでした。アウトソースのチームの4人をどのようにリードしていくか。4人とも仕事ができる人たちでしたが、私が引き継いだタイミングで、リーダー格の2人が異動することになったのです。

異動はスタッフにとって、ステップアップになるので喜ばしいことなのですが、私としては複雑な心境でした。仕事ができるベテラン2人が抜けて新人が2人加わるのですが、新人が仕事に慣れるまで、戦力ダウンは避けられません。いかに戦力ダウンを最小限に抑え、スムーズに引き継ぎを完了するか。

今までの私の仕事はゴールが見えていましたから、誰と交渉をすれば効率良く物事が進むのかがわかりました。でも人事の問題はゴールがはっきりしないし、誰と交渉していいのかもわからない。結局、上司の許可を得て、スタッフが異動する前に新しいメンバーに加わってもらい、一時期6人体制で直接、仕事を引き継ぐ方法を取り入れたのです。

私は新しく加わったスタッフの話を聞くと同時に、新しくリーダー格となった男性とは毎日、綿密なミーティングを繰り返しました。

「どういうふうに、新人に教えていいのか……」彼が自分の思うようにいかない心情を吐露した時は、一連の作業を一気に新人に教えようと頑張っている姿が、見て取れていましたから。

「人によってタイプが違うんだから、少しずつ教えて、徐々にできることを増やしていけばどう?」というアドバイスをしました。すると彼は「そういう見方もあるんですね」と。

半年ほどかけ、戦力ダウンを最小限に抑える形で2人のスタッフの交替が完了し、今は落ち着いて作業ができています。

急に話を振られ、パッと反応することが苦手な私は、周りに相談することが得意ではなく、自分の中に溜め込んで一人黙々とやるタイプでした。今でも営業職に向いてないと思っていますが、カタログチームをリードする立場になって、日常的に言葉で人に伝えることができている。大きな視野で仕事をすることが、徐々に身に付いているからかもしれません。

「ねえ穴沢さん、司会をやってもらえないかな」そんな話を向けられたのは、本社のある墨田区錦糸町の居酒屋での飲み会でした。年の初めに会場を借り、全体ミーティングが行われるのですが、私は司会役に抜擢されたのです。

数百人の社員を前に、男性社員と2人で壇上に立ち司会を務めました。それが出来たのは、今の部署で大きな視野で仕事ができるようになった、その賜物というわけではなくて(笑)、台本通りに司会を進行するのが、自分に向いている、それを気付かされました。

この会社では結婚や出産を理由に辞める人は、まずいません。在宅ワークやフレックスワークも充実していますし、希望すれば海外で仕事をすることも可能です。

これまで気づかなかった自分に気づく、さらに大きな視野で仕事ができるようになりたい、それは将来的な目標ですね。

取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama