あなたの知らない若手社員のホンネ~ジャガー・ランドローバー・ジャパン/村上篤寛さん(29才、入社3年目)~
20代の部下との良好な人間関係を築くための第一歩は、彼ら彼女らの仕事へのモチベーションの理解すること。若い人も同世代がどんな仕事に汗を流しているのか。興味のあるところだろう。この企画は入社3~5年の社員の話にじっくりと耳を傾け、そのマインドを紹介する。
第17回目はジャガー・ランドローバー・ジャパン株式会社(以下・ジャガー)、ビジネスサービス部コントロール&プロフィットプランニング アナリスト村上篤寛さん(29才)。入社3年目だ。日本の大手サプライヤーの社員だった村上さんは、20代後半に外資系企業のジャガーに転職し、財務に関する仕事に従事している。なぜ、外資系企業に飛び込んだのだろうか。
■このままだとヤバい
新卒で就職したのは、主に自動車関係の部品を扱う大手のサプライヤーでした。海外に出向しやすいと考えて選んだのですが、会社は年功序列で海外出向も順番待ち。転勤、部署異動も希望通りになるわけではありません。日本の会社ならそれが当たり前なんですが、このままこの会社にいて年を食ったらヤバイぞという気持ちが募りました。
前の会社に入社してすぐに実習期間があって、僕は1年近く作業服を着て工場で組み立て作業をやらされたんですよ。確かに自社製品を熟知するためには必要なのでしょうが、ビジネスマンになるために入社したのに、納得できなかった。これをきっかけに転職への意思をはっきり持ちましたね。留学経験もありましたし、自分の人生を自分でコントロールするためには、実力がモノをいう外資系の会社の方が向いているのではないかと。
元々は財務系の仕事を希望していました。数字はすべてを決めますから、ファイナンスの仕事を担い、縁の下の力持ちになりたいと。また、ファイナンスのスキルがあれば転職する際にも有利です。外資系のファイナンスの職種に就くにはその道の経験者か、USCPAというアメリカの公認会計士の資格がないと無理だと言われていましたが、転職のエージェントから話があって、ジャガーに呼ばれました。
外資系のこの会社は、日本の企業のような中間管理職の監視の目が少ない。服装や髪型もかなり自由です。部門の長やブランドマネージャー等のヒエラルヒーに関係なく、仕事上で必要な人にピンポイントで会い、不明な点を聞くことができる、風通しがいい等々。前職の日本の企業と異なる点は数々あります。その中でも僕は上司に告げられた言葉が、印象的で心に残っています。
■どこに行っても稼げる人間へ
上司は地味な感じの女性ですが、財務関連を20年近く手がけてきた実績があります。うちの会社の本社はイギリスですが、かつて米国のフォードの傘下になった時代に、ジャガーとランドローバーが一つの会社なり、2008年にインドのタタ財閥に買収され、傘下に入り現在に至っています。その上司はフォードの時代からファイナンスを担っている。半年過ぎた頃のパフォーマンスレビューで、彼女にこう言われました。
「あなたにはどこの会社に行っても、きちんと通じるファイナンシャルプランニングアナリストになってもらいたい。私はそのことしか思っていない」つまりスキルを身に付け、どこに行っても食っていけるようにすることが、上司の役目だと。
フォードの経営不振から、この会社がインドのタタ財閥に買収される過程でも、またそれ以前も以降も、景気の波の影響や本人のスキルアップの意思で、会社を去る人たちを彼女はたくさん目にしている。また外資系企業は日本から撤退することもあり得る。上司は明日どうなるかわからないという経験をしているからこそ、僕をどこに行っても稼げる人間に育てたいと思ってくれているのでしょう。
給料は日本の会社にいた時よりも、基本給は増えましたけど、クビになる場合もあるわけで。
外資系企業といえばパフォーマンスが悪かったり、不景気時には簡単にリストラされる。ドライな一方で日系企業に比べて給料はいい。能力のある人間はヘッドハンティング等で、条件のいい企業に転職を繰り返す、そんなイメージを持つ人も多いだろう。ジャガーもそんな例が当てはまるのか。その点を広報担当者が解説する。
「外資でも様々です。弊社の場合、02〜03年当時、日本のマーケットでの年間販売台数は7000〜8000台、それが10年ごろには2000台以下に落ち込んだ時期がありました。売上が下降線をたどる過程で、リストラしたり雇用条件が悪くなったりすることもありましたが、日本にオフィスを構える企業ですから、弊社はそれなりに手厚い対応をしています。リストラするにしても、3ヶ月ぐらい猶予をかけて、パフォーマンスの改善を促し、お互い納得する形にしたり、辞めていただく場合でも一時金を支給したりします。
そもそも外資系の会社で働く人は、あまり終身雇用を考えていませんから。本人の判断で、ここにいてもスキルアップは望めないと思えば、退職して次の会社に転職する人も多くいます。ただ、現在の年間売上台数は6000台を越え成長基調ですので、彼が入社してからリストラはありませんし、社員の定着率も高い状況です」
僕の仕事は予測と実績の差異を見て、毎月分析し、報告をすることです。上がってきたデータ上の数字を鵜呑みにするのではなく、例えば小売に対する台数の奨励金や長期在庫の車を売るための奨励金等、会社が提示したプログラムの数字と、ディーラーさんから上がってきた数字が違っていたらよくないわけで。そんな時は営業部門のトップである副社長に疑問点を直接聞きに行くこともあります。
外資系ですから、日本の企業に比べて風通しはいいのですが、うちは社員が60名ぐらい、契約社員を含めても80名ほどの会社です。役職に関係なく直接話を聞きに行ったほうが、仕事がスムーズに進みます。
僕は粘り強くコツコツと取り組むことに自信がありますが反面、短気でカッとしやすいところがあって…、時には顔を真っ赤にして社内で言い争ったこともありました。
外資系企業で働く人は、自分のスキルに自信を持っている人が多いからだろうか。時にはお互いに譲らず強い口調での論争に発展することもあるのかもしれない。村上さんが顔を真っ赤にして言い争ったエピソードは後半で。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama