【後編】入社5年目社員の本音「課題は山積み。ここで止まるわけにはいきません」イオンリテール・土田万葉さん(2018.03.29)

20代の仕事へのモチベーションへの理解、それは管理職にとって、彼らとの良好な関係を築くための一丁目一番地だ。若い人も同世代がどんな仕事に汗を流しているのか。興味のあるところだろう。この企画は入社3~5年の社員の話にじっくりと耳を傾け、その思いを紹介する。

第16回目はイオンリテール株式会社 人事・総務本部 人事部採用グループ 土田万葉さん(27才)入社5年目だ。

学生時代はテニスの選手だった彼女。惣菜売り場に配属になり、体育会系で養った礼儀正しさと感謝の言葉がけが功を奏したのか、パートと良好な人間関係を築く。東日本大震災の爪痕が残る宮城県の多賀城店では、パートさん達の明るさに復興への団結心を感じる。惣菜売り場は働きやすい環境だったが、彼女の心の中には“会社を辞めようか…”という思いがくすぶっていた。

■地元のために、でも……

白い作業着姿で仕事をするお惣菜売り場は、おしゃれではないかもしれませんが、お客さんと対面する職場で、その点でもやり甲斐がいがありました。多賀城店では、

「卯の花の煮物、楽しみにしていたんだけどな」「今後は品揃えできるようにしますね、こっちの野菜の煮物はどうですか」高齢のお客さんとそんな会話をしたり。

「あんたの顔を覚えたから、また来るね」と、お客さんに声がけしてもらったり。作るのも好きで接客も好きというパートさんが多かった。毎日、50ぐらいの商品を自分たちで作りお客さんに食べてもらえるのは、他の売り場にはない魅力がありました。また、散歩がてら毎日来るお客さんがたくさんいて、スーパーは人が集う場所になっている。この地域に暮らす人たちにとって、なくてはならない施設なんだという実感も得ました。

しかし……私は東北地方の日本海側の町の出身ですが、御多分に洩れず少子高齢化が進んで、故郷は寂れるばかり。会社を辞めて田舎に帰って何か地元のために、私のできることはないか、そんな思いをずっと抱いていました。しかし地元に戻って何をやるか。学生時代に打ち込んだテニスを教えるとか、地元にもイオンはありますから、そのお店で商品を売るとか。でも、そういうことではないなと。

もっと人の役に立つことはできないか。人事への希望は入社1年目から抱いていました。私たちの教育を担当した人事教育マネージャーの女性に影響されたことが大きい。そのベテランの女性は一人一人と向き合い、親身にこちらの話を聞いてくれて。私が惣菜売り場の担当になると、「朝早かったり夜遅かったりして、体は大丈夫?」「人間関係はうまくいっていますか」とか、色々と気にかけてくれました。「もっといろいろなことに挑戦したいんです」そんな相談すると、社内の先輩社員を紹介してくれたり。

■“一番を目指せ!”

その人みたいになりたいな。人が持っている能力を引き出すチャンスをアシストしたり、パートさんがもっと生き生きと働ける環境作りのお手伝いをしたい。そんな思いを抱いて、入社3年目の研修で人事への移動を希望したんです。

宮城県の多賀城店の次が宮城県の富谷店、このお店で人事の仕事に就くことになりました。まずは「ちょっと髪が長いですよ」と、衛生面を管理するスタッフから注意されまして。身だしなみや言葉遣いを率先して教える役割なのに恥ずかしいなと。

富谷店は改装オープンを控えていて、多くの人を採用しました。パートさんとアルバイトさんの採用と、各売り場への配置が担当でしたが、特に採用された人への教育が私の主な仕事でした。応募する人は40、50、60代、私は20代半ば。私で務まるのか不安でしたが、「向き不向きよりも前向き。どんなこともまずはやってみないと始まらない」そんな人事教育のベテラン女性の言葉を自らにいい聞かせ、仕事に臨みました。

採用された方はいろんな職種を経ていますね。例えばパートで入社した50代の男性は以前、デザインの会社で仕事をしていそうで。配属になった加工食品部門は飲料、米、菓子等々、商品の種類が多い。ある日のことです。

「こんなのを作ったんですけど」と、その人が自分の手帳を私に見せてくれまして。手帳には自分が扱う加工食品のイラストと、説明書きがぎっしりと描かれている。

「こうすれば商品を覚えるだろうと思って」照れ笑いしながらその男性に告げられ、「す、すごい……」私は思わず声をあげた。「この手帳を皆さんに紹介したいです」と。その人の手帳のことは上司にも報告しました。

富谷店から本社の採用の仕事に配転になり、今は新卒の採用活動のため、全国を回り、学生向けの会社説明会をしています。少子高齢化がますます進む中、AIやロボットの進化で自動化の流れは進むでしょうが、お店で人と関わる仕事に揺るぎはありません。商品、サービス、店舗の良さを発信できる人が理想的ですが。

「一番を目指せ!」それは最初のお店から多賀城店に異動になる時に、農産物売り場の50代の大先輩にかけられた言葉です。部活でテニスに熱中していた学生時代は、一番を目指す勝負の世界にいましたが、この会社に入ってからは、どうすればお客さんにまた来店してもらえるか、答えのないものを追っていた気がします。

一番を目指せか、久しぶりに聞いたなーと。その言葉が新鮮でした。今も時々その言葉を思い出します。そして私はこう理解している。競争ではなく常に上を目指す意識を持ちなさい。課題はたくさんある、ここに止まるんじゃないと。

取材・文/根岸康雄