■あなたの知らない若手社員のホンネ
~崎陽軒 渡邉理佳さん(24才、入社3年目)~
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「若い部下うまくコミュニケーションを取れているのか、よくわからん」という声を耳にする。20代の社員は何を考えているのか。また20代にとっても、同世代がどのような仕事をしているのか。興味のあるところだ。そこで入社3~5年の社員の話にじっくりと耳を傾け、彼らの本音に迫った。
第4回目は横浜を代表するソウルフードの一つ、シウマイで知られる崎陽軒。弁当事業部新製品開発室の渡邉理佳さん(24才)、入社3年目だ。一度にいくつもの仕事をこなすことを苦手とする彼女だが、一つのことに持ち前の集中力を発揮。冬季限定の金目鯛のシウマイを改善する取り組みに試行錯誤する。
●マイタケの食感で勝負
開発中の数ヶ月間は、試作室で繰り返し試作した金目鯛のシウマイを、毎日のように試食しました。白衣を着て試食を繰り返していると、味がわからなくなっていくといいますか…。
「これ、美味しいですかね?」先輩で開発メンバーの男性社員に聞くと、
「前のシウマイと違うのはわかるけど、味のバランスがいいのかどうか……」先輩も私と同じ感覚を抱いている。そこで部署の上司に食べてもらったり、別の角度からの意見も聞いて改善を重ねて。発売した「おいしさ長もち 金目鯛シウマイ」は、前年を上回る売れ行きでした。
その後、シウマイ点心事業部新製品開発室から、今の部署の弁当事業部新製品開発室に異動になったのが今年の春。崎陽軒は看板のシウマイ弁当の他に、常時15から16種類の弁当を販売しています。その中に、期間限定で販売する“季節の弁当シリーズ”というのがありまして、私は「おべんとう秋」の開発を任されました。
昭和29年発売のシウマイ弁当はおよそ800キロカロリーで、ガツンという感じのボリュームがありますが、「おべんとう秋」は30〜40代以上の女性がターゲットです。シウマイ弁当よりご飯の量を少なくして、秋らしい食材で、いろんなおかずの色と味を楽しんでいただこうと考えました。きのこにサツマイモ、かぼちゃに秋鮭。蒸れた臭いのするものは避けたほうがいいという助言を受けてお漬物は大根をチョイス。生野菜は使えない。安定して供給できる原材料を使用しなければいけない。定価は700円と決まっている。いろんな制約の中で、どんな材料を取り入れていくかが腕の見せどころです。
「おべんとう秋」は、鶏きのこご飯を入れることになっているのですが、問題はきのこの仕入れでした。昨年は乾燥マイタケを使ったのですが、それが手に入りにくくなって。「冷凍のマイタケなら安定的に出荷できますよ」という業者さんのアドバイスもあり、サンプルを試食し、乾燥マイタケに代わって、冷凍のものを使いたいと提案したんです。
「乾燥マイタケは香りが強かったけど、この冷凍のものは…」「確かに香りは大事ですが、香りは温かい状態の時に楽しむという印象が強い。冷めたものをいただくお弁当は、香りよりむしろ食感が大事だと思います。冷凍マイタケは食感を味わえる。食感でお客様に満足していただく内容にしたい。冷凍のマイタケはお弁当に入れる量も多くできます」
女性の主任や先輩の男性社員と、そんな話し合いを重ね、冷凍マイタケを使った「おべんとう秋」の発売は9月1日。昨年よりも売り上げを伸ばすことができた。
●絹どうふの厚揚げはNG
逆に任されて提案したけどダメだったのが、「秋のかながわ味わい弁当」のおかず。今年9月に発売されましたが、小田原産の梅干し、三崎マグロ、かまぼこ、崎陽軒のシウマイ等、主に神奈川県産の食材を使いまして。なめらかな食感もおかずに加えてみようと、絹豆腐の厚揚げを入れたんです。開発室長も調理長もいけるんじゃないかという感触だったんですが、最終的なOKは社長です。
「満足感に欠ける、食べごたえがない」
会議の試食では、社長からそんな指摘が出ました。なめらかな食感が裏目に出たんです。絹豆腐の厚揚げは、味もシンプルでインパクトに欠ける。
さてどうしようか。そうだ、コンニャクは食感がある。さらにアクセントをつければ弁当のインパクトが増す。そこでピリ辛のコンニャクに代えたんです。これで社長の了解もとれました。
「あなたが作ったお弁当は、シリーズの第何期に発売されたと社歴に残る。すごく大事な仕事をやらせてもらっているんだね」
横浜市民の母親は崎陽軒の弁当に特別な思い入れがあって、何かとっても名誉な仕事をしているような思いを持っているみたいです。
今はご注文専用のオードブルの開発に携わっているのですが、先日も配送テストの時に料理を作るのが遅れ、容器の準備も遅れてしまった。やることがたくさんあると、何から手をつけていいかわからなくなる欠点は相変わらずですが、持ち前の一つのことに集中する力を発揮して新しい横浜名物を作っていきたいですね。高齢化が進む中で、塩分の控えめなものや噛みやすさも考えて、お弁当を楽しみにしている多くの方々の期待に応えたいです。
取材・文/根岸康雄