【入社4年目社員の本音・後編】「あれもこれもではなく、一番の魅力を常に意識し、伝える努力が必要」マイナビ・長谷川真央さん

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昨今の若い連中はSNSばかりで、体験も少なければ人間との付き合い方の訓練もできておらん。とは言われるものの若い連中も仕事を通して否が応でも経験を積み、社内や取引先との密な関係からも学んでいる。

若手読者は同世代がどんなポジションで悪戦苦闘しているか。中間管理職は若手社員のやる気を再認識するきっかけになればという企画だ。

第63回は株式会社マイナビ ウエディング情報事業部 イノベーション推進統括部 ブランド戦略部 企画推進課 長谷川真央(入社4年目・26歳)。マイナビは人材情報企業だが、人とのつながりを専門にする業種として、ウエディングの情報も手掛ける。長谷川さんは全国約1600の結婚式場を紹介する「マイナビウエディング」のサイトの制作・運営に携わる。結婚式に三密は付き物というイメージ。ブライダル業界もコロナ禍に対策を打ち出している。そこも含め彼女の奮闘ぶりの紹介だ。

費用対効果が望めない、さて――

上司から引き継いだばかりの業界大手のウエディング企業から、掲載費の更新はしない、掲載している3つの式場の掲載は、来年度から取り止めると告知される。

びっくりした。3つの式場を全部切られてしまうと、その企業との関係が切れてしまう。「トライアルとして、何とか1会場だけでも残してください。お願いします」掲載費の値段のことも含めて、彼女はアピールした。
「先方の決裁権を持っている担当の女性は、全国の式場を回っているので、なかなかお話をすることができなくて、電話やメール、直筆の手紙も書きました」

サイトを訪れた人が見学の予約をして、式場の相談会にお客として、来てもらうようにするのが彼女たちの仕事だ。この企業の式場の掲載記事はPVも多く、相談会への予約件数も数多く獲得していた。だが、お客がたくさん式場の相談会に来ても式を挙げる、成約が決まらないと、企業側は無駄な人件費を使うことになり、かえってマイナスの効果になる。掲載を打ち切りたい先方の背景には、費用対効果が望めないという現実があった。

チャペルが魅力の結婚式場

さてどうするか。

「これまで“式場に来館したら、抽選でディナーセット1万円分プレゼント”みたいな特典の情報を掲載していたのですが、それは抑えて。成約したらこんなサポートを受けられるという情報を強調しようと。例えば、成約の暁には”チャペルでの挙式料が無料“とか、”聖歌隊が付く本格的な音楽挙式ができます“とか」

さらに他のウエディング情報の媒体と、比較してみると、気づいたことがあった。

「“チャペルがすてき”“チャペルを一度見てみたい”と、式場の見学会に訪れる人は、成約まで行く確率が高いんです。それまで私たちのサイトでは女性が“かわいい”、“すてき”と思うような式場の写真をたくさん掲載していた。うちのサイトを見て来館した人の理由の中に、“チャペル”というキーワードが一つもなかったんです」

実は先方に契約の続行をお願いした式場は、チャペルがすごい。イギリスから移築した、ステンドグラスをふんだんに使った歴史ある大聖堂で。これまで、このチャペルを強烈にアピールして、訴求することができていなかった。

その点を強調して、次に生かしたいことを彼女はメールや直筆の手紙で訴え、「チャンスをください」と、先方にお願いした。広告の決裁権を持つ女性の担当者とようやく電話が通じて、「では、一つの式場を半年間だけ契約します」と、言質を得る。

式場の相談会にのみ、お客を誘導するような特典は控え、成約の暁には大きなベネフィットが受けられると強調。総花的にせずに、チャペルのインパクトを強烈にアピールする。この二つを軸に掲載内容を刷新し、サイトで配信すると。

総花的にせず、一つの魅力に集中する

――思うような結果が得られましたか?

「成約の決定率が上がったんです。これが評価されて、最終的にこれまで通りに戻してもらい、3つの式場と契約することができました」

――この一連の仕事で、長谷川さんがわかったことはなんですか?

「それぞれの式場には、たくさんいいところがあって、あれもこれも紹介したいとなりがちです。でもアピールする点を広げるのは逆効果で。チャペルか、パーティーか、それとも料理か。何を重視するのか、はっきりと意識して、この式場の一番の魅力はこれだと強調する。それがお客様に刺さるポイントかなと」

あれもこれもと、紹介したい点を挙げ連ねるのではなく、一つの商品の一番の魅力をまず自分が常に意識する。そしてその一点を最大限に強調した内容にする。彼女のそんな気付きは、マーケティングの活動全般に当てはまることだ。

コロナ禍の中での挙式のあり方

現在、長谷川さんは非営業部門に籍を置き、ユーザーのアンケート結果をまとめたり、営業用の資料の作成等を担当している。仕事柄、コロナ禍の問題と正面から取り組まなければならない。結婚式はどうしても“三密”のイメージを抱く。新型コロナウイルス感染拡大の時期で、直近のアンケートでも“ゲストは結婚式への参列を躊躇しがち”というデータが上がってくる。

「営業が“ゲストは参列したくないようですよ”と式場側に伝えても、何の解決策にはなりません。“年内は参列したいという回答は少ないですが、来年以降は結婚式に是非、出席したいというアンケート結果が、上がってきています”と。“いずれ必ず回復します”と、ポジティブなアンケート結果を情報としてお伝えして」

消毒、会場内の換気、テーブルの感覚を2m以上取る、会場の使用人数を通常の3分の1程度に減らす等、各結婚式場は感染対策に余念がない。

――ところで長谷川さんの理想的な挙式は?

「私は同窓会のような結婚式ができたらうれしいです」

――今の状況では多人数の参列は難しい?

「例えば人数を絞って挙式をして、いずれお披露目会をやるとか……」

ちなみに、長谷川さん、今のところ”同窓会のような結婚式“を挙げる予定は、ないそうである。

取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama